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第2話⑦「次のヒント」

ユカが端末を開く。


届いていたのは、一枚の画像ファイルだった。


差出人の名前は――ない。


「……誰?」


画像を開く。


そこには、白い街が映っていた。


白亜の建物。


空へ向かって伸びる、巨大な光の柱。


見たことがないはずなのに――


なぜか、少し懐かしい。


「ピコ、これ……」


ピコが端末の画面を覗き込む。


「映像データの断片ですね。背景パターンを解析します」


端末が電子音を鳴らす。


数秒後。


「特定しました」


ピコが顔を上げる。


「セラフィム・シティです」


「セラフィム……」


「セラ一族の聖地。セラ博士やユナの生まれた場所です」


「セラ博士と……ユナお姉ちゃんの街」


ユカは画像を見つめた。


そして、左手の指輪へ目を落とす。


弱くなっていた光が――


ふっ。


まるで何かに応えるように、小さく脈打った。


「光った……」


「反応しましたね」


ピコが指輪をスキャンする。


「この画像と何らかの関連があるのでしょうか」


「……」


ユカはもう一度、白い街を見る。


胸の奥がざわつく。


「誰から送られてきたんでしょう?」


ピコの問いに、ユカは少し考えた。


「……なんとなくだけど」


「はい」


「カイからのような気がする」


根拠はない。


送信者の記録もない。


証拠なんて、何もない。


それでも。


ユカの中には、妙な確信があった。


ピコがじっとユカを見る。


「また、《超高性能・超高精度・自己学習型多次元未来予測統合直感演算システム――》ですか?」


「今は冗談言う気分じゃないから!」


「失礼しました」


ピコがすぐに引き下がる。


「ですが、もし本当にカイからだとすれば……なぜ、この画像をユカへ?」


「……わかんない」


ユカは端末を握る。


カイが残したメモ。


《善とは? 正義とは?》


サザン・シティで見た、シン統治教。


次々と現れるデータシンドロームの患者。


弱くなっていく指輪。


返事のないセラ博士。


そして今――


差出人不明の、セラフィム・シティの画像。


「カイに……何か悪いことが起きてるのかな」


胸の鼓動が速くなる。


もし、もう連絡できない状態だったら。


もし、助けを求めているのだとしたら。


もし――


嫌な想像ばかりが膨らんでいく。


ユカは首を振った。


「……ダメ」


「ユカ?」


「考えてても、わかんない」


端末を閉じる。


「だったら――行くしかない」


「セラフィム・シティへ?」


「うん」


ユカは壁の向こうを見るように、まっすぐ前を見た。


「きっと、そこに“次のヒント”がある」


指輪を握る。


「それに、この指輪のこともわかるかもしれない」


そのとき。


階段から足音が聞こえた。


「もう寝たか?」


ジロウが顔を出す。


「あ、ジロウさん」


「まだ起きてたのか」


「うん。もう寝る」


ユカは少し笑った。


「それと――明日、ここを出るよ」


「明日?」


ジロウが眉を上げる。


「どこ行くんだ?」


「セラフィム・シティ」


「セラ一族の街か」


「うん」


ユカは端末を見せる。


「そこに、次のヒントがあるってわかったから」


ジロウは画像を見てから、ユカを見る。


「そうか」


それ以上は聞かなかった。


「気をつけて行けよ」


「うん!」


ユカは端末を確認する。


セラ博士へ送ったメッセージは――


まだ《未読》。


(博士、どうしちゃったんだろ……)


忙しいだけならいい。


そう思いたかった。


ユカは指輪を胸の前で握りしめる。


窓の外。


夜の向こうに、わずかに朝の気配が見え始めていた。


暗い部屋の中で――


指輪が一瞬だけ、星のように光った。


***


翌朝。


《RAMEN JIROU 二郎系∞》の前。


旅支度を整えたユカとピコが立っていた。


「ジロウさん、いろいろありがとう!」


「おう」


ジロウが腕を組む。


「セラフィム・シティは遠いぞ。空中列車で行け」


「空中列車!」


ユカの顔が少し明るくなる。


「この道をまっすぐ行けば、サザン・シティ駅だ」


ジロウが通りの先を指さした。


「わかった!」


ユカは大きく手を振る。


「じゃあ、行ってきます!」


「無茶すんなよ!」


「はーい!」


「返事が軽いな!」


「気をつけまーす!」


ピコがため息のような電子音を鳴らす。


歩き出したユカは、遠くに見える駅の方向を見た。


「空中列車かぁ……」


「久しぶりですね」


「うん」


その先には、初めて行く街。


初めて見る景色。


知らないことばかり。


「ちょっと緊張するかも」


ピコが分析する。


「不安率70%」


「高っ」


「ただし――楽しみ率30%です」


ユカは少し考えてから、笑った。


「なら、ちょうどいいバランス!」


「足して100%だから、という意味ですか?」


「細かいことはいいの!」


先の見えない状況。


連絡のないカイ。


返事のないセラ博士。


弱くなった指輪。


考えれば、不安はいくらでも出てくる。


でも。


全部を気にしていたら、前へ進めない。


ユカは空を見上げた。


「こういうときこそ――」


ピコが見る。


ユカは笑った。


「笑わなきゃ!」


そして――


次の街へ向かって歩き出した。


《第2話・終わり》


***


次回予告――


「空へと続く列車――!


その先に待っていたのは、

スパイスと混沌の街、サンサーラ!


価値観ぶっ壊しの聖なる川!

情報量多すぎの街並み!

そして――


本場カレーで舌が崩壊!?


でも、この街で出会ったのは、

“善”の正しさを揺るがす出来事だった。


助けたはずなのに、誰かが困る。


それって――

本当に“いいこと”なの?


そして現れた、不思議な少年ラヴィ。


その正体は――まさか……?


次回、

『フラグメンツ・オブ・メリオラ〜ユカの旅〜』


第3話

『輪廻の街でスパイス地獄!?』


スパイスの先にある答え――

ちょっとだけ、見えた気がする!」



※作者の活動報告に各話の設定や裏話などのコメントを書いています。

https://syosetu.com/userblog/list/


※シリーズ第一弾『フラグメンツ・オブ・トゥルース〜最後の投擲』はこちら。

https://ncode.syosetu.com/n8279mq/


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