第2話⑥「消えかけた光」
夕暮れのサザン・シティ。
荒れた街並みを、赤い光が染めていた。
崩れた高層ビルの影が長く伸び、復興途中の道路を覆っている。
営業を終えた《RAMEN JIROU 二郎系∞》の裏口。
ユカは一人、左手を見つめていた。
指にはめられた――セラの指輪。
「ねぇ、ピコ」
隣に浮かぶピコへ声をかける。
「最近なんか……指輪の光、弱くなってきてる気がするんだ」
ユカが指輪へ意識を集中させる。
淡い金色の光。
以前なら、もっと強く輝いていた。
けれど今は――
どこか頼りない。
「確かに、出力が低下していますね」
ピコが指輪をスキャンする。
「やっぱり?」
「ここ数日の治療によるエネルギー消耗の可能性があります」
「使いすぎたからかな……」
「それだけとは限りません」
「え?」
ピコが解析結果を見つめる。
「ユカ自身の心の状態に反応している可能性もあります」
「心の……状態?」
ユカは指輪を見る。
「指輪は、セラ一族が代々受け継いできたものです」
「うん」
「単純なエネルギー装置ではありません。使い手と指輪がリンクすることで、その力を発揮すると言われています」
「リンク……」
ユカは左手を胸元へ寄せた。
善とは何か。
誰かを助けるとは何か。
治すことと、癒すこと。
そして――
ソウタとの果たされなかった約束。
ここ数日で、いろいろなことを考えた。
心が揺れている。
もし本当に、その揺れまで指輪が感じ取っているのなら。
「セラ博士なら、何かわかるかな?」
「可能性は高いと思います」
ピコが答える。
「ユリ……いや、セラ博士も長い間、この指輪を使っていましたから」
ユカは小さくうなずいた。
ユリ・セラフィム。
それが、現在《セラ博士》と呼ばれている彼女の本来の名前だ。
セラ一族では、族長となった者が《セラ》の名を継ぐ。
かつてユリ・セラフィムだった少女もまた、族長となり――《セラ博士》と呼ばれるようになった。
「博士なら、指輪のことも詳しいよね」
「ええ。少なくとも、私たちよりはずっと」
「じゃあ、聞いてみよっと」
ユカは端末を取り出した。
セラ博士へ通話する。
呼び出し音。
一回。
二回。
三回。
「出ないね」
「珍しいですね」
しばらく待つ。
けれど博士が応答することはなかった。
「忙しいのかな……」
ユカは通話を切った。
少し考えて、メッセージ画面を開く。
《セラ博士へ》
《カイから"セラの指輪"を預かったんだけど、最近、力が弱くなってるみたいです》
《どうすればいいか、わかったら教えてください》
送信。
画面に《未読》の表示が出る。
「これでよし」
端末をしまおうとした、そのとき。
店の奥から声が飛んできた。
「おーい! ユカー! 飯できたぞー!」
ジロウだ。
ユカの顔がぱっと明るくなる。
「はーい!」
店へ戻ろうとして――
もう一度だけ、指輪を見る。
淡い光が、弱々しく揺れていた。
「……大丈夫だよね」
誰に聞かせるでもなく、つぶやく。
「ユカ?」
「なんでもない」
ユカは笑った。
「ごはん行こ!」
「はい」
二人は店の中へ戻っていった。
***
その夜。
ユカは店の二階にある居住スペースで横になっていた。
部屋の明かりは消えている。
窓の外から、遠くの街灯とホログラム広告の光だけが差し込んでいた。
「……眠れない」
寝返りを打つ。
カイからは、まだ連絡がない。
セラ博士からの返信もない。
ユカは端末を手に取った。
博士へ送ったメッセージを確認する。
《未読》
「まだ見てない……」
胸の奥に、わずかな不安が広がる。
カイの失踪。
弱くなっていく指輪。
返事のないセラ博士。
何かが、少しずつ繋がり始めているような。
それなのに、その形だけが見えない。
ユカは端末を伏せた。
目を閉じる。
そのとき――
ピコン。
着信音が鳴った。
「……え?」
端末を見る。
こんな時間に。
「誰だろ……?」
画面を開く。
そこに表示されていたのは――
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※シリーズ第一弾『フラグメンツ・オブ・トゥルース〜最後の投擲』はこちら。
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