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最終話⑥「また来てや」

そして――

ユカとレンが帰る日がやってきた。


空中列車駅。


ホームには、

見送りに来たチカ、アマル、イルヤの姿があった。


その中でチカだけは、

腕を組み、露骨に頬を膨らませている。


「もっとこっちおったら、

ええのに……」


「あはは……」


ユカは困ったように笑った。


「私もそうしたいけど、

仕事あるしね」


「ユカちゃん帰ってしもたら、

うち、しばらく

“ユカちゃんロス”で

何も手ぇつかへん気ぃする……」


チカの肩が、

しゅんと落ちる。


「こらこら」


アマルが苦笑しながら、

娘の頭を軽く叩いた。


「ユカちゃん困らせたらあかん」


「ほんまのことやもん……」


その表情を見て、

ユカは優しく笑う。


そして、

そっとチカの手を握った。


「じゃあ今度は――」


チカの顔をまっすぐ見る。


「チカが

アストラ・シティに来てね」


「……!」


それまで曇っていた表情が、

一瞬で明るくなる。


「行く!!」


勢いよく握り返す。


「絶対行く!!

ぽよ助連れて!!」


「いや、それはダメだろ」


レンが即座に突っ込む。


ピコも淡々と続けた。


「公共交通機関への

巨大生物持ち込みは禁止です」


「えぇぇぇ!?」


チカの声に、

みんなが笑う。


その隙に――


ユカがそっと、

チカの耳元へ顔を寄せた。


「……イルヤさんとのこと、

頑張ってね」


「なっ!?」


チカの顔が、

一気に真っ赤になる。


「な、何言うてんねん!!」


慌ててイルヤを見る。


「……?」


何も知らないイルヤは、

不思議そうに首を傾げていた。


その様子を見て、

ユカは意味ありげに笑う。


***


やがて。


アマルの表情が変わった。


先ほどまでの笑顔が消え、

ユカとレンへ真剣な視線を向ける。


「……ユカちゃん、レン君」


「はい?」


「何でしょう?」


「先日の異常やが……」


アマルは低い声で続けた。


「おそらく、

《ムシュクヤイ》の予兆や」


「ムシュクヤイ……?」


レンが聞き返す。


「“世界の更新”とも

呼ばれとる」


ユカの表情が引き締まった。


「世界そのものが、

書き換わる時に起こる現象や」


「世界が……書き換わる……?」


「これから先、

世界はもっと不安定になる」


隣では、

イルヤも険しい顔をしている。


「昨日みたいなことが、

また起きるってことですか?」


ユカの問いに、

アマルはゆっくり首を振った。


「わからん」


いつもの軽い口調ではない。


「同じことが起きるかもしれん。

それ以上のことが

起きるかもしれん」


遠くの山々へ目を向ける。


「正直、

わしにも読めん」


ユカとレンは顔を見合わせた。


「……わかりました」


レンが頷く。


「セラ博士にも伝えます」


「ああ」


アマルが二人を見る。


「頼んだで」


その直後――


プシューーーッ!!


空気を吐き出す音とともに、

空中列車がホームへ滑り込んできた。


「うわっ!

もう来た!?」


チカが慌てて列車を見る。


ユカは名残惜しそうに笑った。


「……じゃあ、行くね」


「うん……」


「またね!」


「お世話になりました」


レンが頭を下げる。


「ありがとうございました」


ピコも丁寧に続いた。


ユカとレンが列車へ乗り込む。


扉が閉まる。


そして――


列車が、

ゆっくりと動き始めた。


***


「また来てやーーーっ!!」


チカが走り出した。


ホームを全力で駆けながら、

遠ざかる列車へ大きく手を振る。


「絶対やでーーー!!」


窓の向こうで、

ユカも両手を振り返している。


「次来た時は、

もっとおもろいとこ

連れてったるからなーーー!!」


列車は加速していく。


ホームの端が近づく。


それでもチカは、

ぎりぎりまで走り続けた。


やがて、

それ以上追えなくなって立ち止まる。


列車は小さくなり、

山の向こうへ消えていった。


それでもチカは、

しばらく手を振り続けていた。


その背中を、

アマルとイルヤが見つめている。


「……ほんま、

ええ友達できたな」


アマルが優しく言った。


「ですね」


イルヤも、

小さく笑う。


チカは、

もう見えなくなった線路の先を見つめたまま。


少しだけ寂しそうに、

でも笑っていた。


「……またな」


その声は、

高地を吹き抜ける風の中へ

そっと溶けていった。



※作者の活動報告に各話の設定や裏話などのコメントを書いています。

https://syosetu.com/userblog/list/


※シリーズ第一弾『フラグメンツ・オブ・トゥルース〜最後の投擲』はこちら。

https://ncode.syosetu.com/n8279mq/


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