最終話⑤「恋愛イベント発生」
ドドドドドドド……!!
岩肌を削るような勢いで、
ロックビースト《ぷに子》が山道を駆け抜けていた。
その背に乗るイルヤは、
手綱を強く握り締める。
後ろには、
アマルが《ぴろ吉》に乗って
追ってきている――はずだった。
「……あれ?」
イルヤが振り返る。
誰もいない。
「おっちゃん、
どんだけ置いてかれとんねん……!」
さっきまでは見えていた。
だが、飛ばしすぎたせいで、
いつの間にか完全に姿を消していた。
それでも、
今は気にしている余裕などない。
イルヤは前を向く。
(チカ……)
手綱を握る手に力が入る。
(無事でおってくれよ……!)
ぷに子が斜面を蹴る。
岩場を越え、
細い山道を抜けると――
視界が一気に開けた。
天空都市パチャママ遺跡。
「チカぁぁぁぁ!!
おるなら返事せぇぇぇ!!」
必死の叫びが、
遺跡一帯に響き渡る。
すると。
「やっほ〜」
あまりにも呑気な声が返ってきた。
「……へ?」
イルヤが固まる。
目の前には――
レジャーシート。
ランチボックス。
のんびり昼食を食べている
チカ、ユカ、レン、ピコ。
さらに調査隊まで、
一緒になって弁当を広げていた。
「お、イルヤ君も食べる?」
調査員の一人が、
普通に弁当を差し出してくる。
「なんでピクニックみたいに
なっとんねん!!!」
全員が、
きょとんとイルヤを見る。
「どしたん?」
チカが首を傾げる。
「どしたんちゃうわ!!
集落えらいことなっとんねんぞ!?」
ユカがじゃがいもを片手に答える。
「うん。
こっちもちょっと大変だったけどね」
「ユカの“ちょっと”は、
全然ちょっとじゃないんだよ」
レンがすぐさま訂正する。
ピコも続いた。
「巨大モンスターとの戦闘を
“ちょっと”で済ませるのは、
スケールがおかしいです」
「……は?」
イルヤは完全に話についていけない。
そんな彼に、
チカが笑った。
「えへへ」
「えへへちゃうわ!!」
怒鳴ったものの――
全員が無事だと分かった瞬間。
イルヤの肩から、
ふっと力が抜けた。
「……はぁ」
心の底から安堵したように、
大きく息を吐く。
その表情を、
チカは見逃さなかった。
にやぁ〜っと、
口元が緩む。
「もしかしてぇ〜?」
「……あ?」
チカが一歩近づく。
「うちのこと、
心配で飛んできてくれたん?」
「っ!!」
イルヤの顔が、
一瞬で赤くなった。
分かりやすすぎる。
「ち、違うわ!!」
「顔真っ赤やで?」
「調査隊の……
皆さんが心配やっただけや!」
「え、俺ら?」
調査員たちが自分を指さす。
チカが半目になる。
「“皆さん”て、
だいぶ雑なくくりやな」
「うるさい!」
「ほな、うちはついでって?」
「お前は……」
イルヤが言葉に詰まる。
「どうせ何があっても、
自分で何とかするやろ!」
その瞬間。
チカの笑顔が、
少しだけ曇った。
「……なによ、それ」
「え?」
「うちがどうなっても
平気ってこと?」
「はぁ!?」
イルヤが思わず声を上げる。
「そんなん――」
一歩、
チカへ踏み出す。
「いいわけあるか!!」
「……!」
チカの目が大きくなる。
言った本人も、
ようやく自分の言葉に気づいた。
「……あ」
二人が見つめ合う。
ユカとレンが、
同時に身を乗り出した。
「おっ!」
調査員たちまでざわめく。
「おおおおお!」
ピコの目が光る。
「恋愛イベント発生を確認!」
「いや、これは、その……」
イルヤが慌てる。
対するチカは――
「へぇ〜……?」
完全に楽しんでいる。
「ちゃうねん!」
そのとき。
「チカァァァァァァ!!」
「うわっ!?」
地響きとともに、
《ぴろ吉》が猛スピードで突っ込んできた。
背中から飛び降りたアマルが、
イルヤを豪快に押しのける。
ドン!!
「無事で良かったぁぁぁ!!」
そのまま、
チカを力いっぱい抱き締めた。
「ぐぇっ!?」
「お前になんかあったら、
チャスカになんて説明したら
ええかわからんかったぁぁぁ!!」
号泣。
ヒゲを頬に擦りつける。
「痛い痛い痛い!
ヒゲ痛いって!!」
少し離れたところで、
押しのけられたイルヤが固まっていた。
「……」
ユカがぽつり。
「今、
めっちゃいいところだったよね」
「完璧なタイミングだったのにな」
レンも頷く。
ピコが冷静に判定する。
「アマルさん。
見事なフラグクラッシャーです」
「惜しかったなぁ〜」
調査員たちまで、
残念そうにイルヤを見る。
「……うるさい」
真っ赤な顔で、
イルヤはそっぽを向いた。
その姿を見て、
ユカは思わず笑う。
空高く広がる天空遺跡に、
アマルの泣き声と、
みんなの笑い声が、
いつまでも響いていた。
※作者の活動報告に各話の設定や裏話などのコメントを書いています。
https://syosetu.com/userblog/list/
※シリーズ第一弾『フラグメンツ・オブ・トゥルース〜最後の投擲』はこちら。
https://ncode.syosetu.com/n8279mq/




