最終話④「小さな太陽」
ユカは上空を旋回する蛇龍を見上げた。
黒いコードをまとった巨体。
斬っても、裂いても、
瞬く間に再生してしまう。
並の火力では押し切れない。
(あの防御力……あの回復力……)
炎剣の切っ先で、
紅蓮の炎が揺れる。
(もっと……)
ユカは目を細めた。
(もっと高いエネルギーを
一気にぶつけないと――)
揺れる炎。
熱。
光。
その瞬間。
ユカの目が大きく開いた。
(……そうだ)
ずっと昔の記憶が、
鮮やかによみがえった。
***
真夏。
セミの声が響き渡る昼下がり。
セラ博士の家の縁側で、
幼いユカは完全に伸びていた。
手には、
溶けかけたアイスキャンディー。
「あづい〜……
もうムリ〜……溶ける〜……」
浴衣姿のセラ博士が、
うちわでゆっくり風を送る。
「ふふっ。
アイスより先にユカが溶けそうね」
「だって、
こんなに暑いんだよ〜……」
ぐでっと寝転がったまま、
ユカは空を見上げる。
真夏の太陽が、
容赦なく輝いていた。
「ねぇ、セラ博士」
「なあに?」
「太陽って……
なんでずーっとあんなに熱いの?」
セラ博士は少し驚いた顔をして、
すぐ優しく微笑んだ。
「何でだと思う?」
答えを教えるのではなく、
いつものように問い返す。
ユカは眉間にしわを寄せた。
「……ものすごくいっぱい、
いろんなものが燃えてるから?」
「いい線いってるわ」
「えへへ」
ユカが少し得意げになる。
「冬に焚き火したの、覚えてる?」
「うん!
焼き芋もした!」
「そうね」
セラ博士も笑った。
「あのときは、
落ち葉や木を燃やしていたわよね」
「うん!」
「でも太陽は、
落ち葉や木を燃やしているわけじゃないの」
「えっ!?
じゃあ何燃やしてるの?」
セラ博士は両手を前に出した。
「太陽の中には、
ものすごく小さな粒がたくさんあるの」
「粒?」
「それを――」
両手を近づける。
「ぎゅーーーーーっ!」
「ぎゅーーーーーっ?」
「ものすごい力で押し込めるの」
「押し込める?」
「そうね。
満員電車みたいな感じかしら」
ぎゅうぎゅう詰めの車内を想像したユカが、
露骨に顔をしかめる。
「うわ……
なんか、それやだ……」
「でしょ?」
セラ博士が笑う。
「でも、その小さな粒同士が
強い力でくっつくと――」
両手を合わせる。
「とても大きなエネルギーが生まれるの」
「エネルギー?」
「光とか、熱とかね」
「へぇぇぇ……!」
「それが《核融合》」
「かく……ゆーごー?」
「太陽はそれをずっと続けているから、
あんなに明るくて、熱いのよ」
ユカは太陽を見上げた。
しばらく考えて――
「じゃあ太陽って……
ものすごい“かまど”みたい!」
セラ博士が目を見開く。
そして、
とても嬉しそうに笑った。
「そうね」
ユカの頭を優しく撫でる。
「エネルギーを生み出すもの」
片方の手を差し出す。
「そして――」
もう片方の手で、
それを包み込む。
「その力を閉じ込めて、
制御する“炉”」
「炉……」
「その二つを
うまく組み合わせられたら――」
セラ博士は空を見上げた。
「小さな太陽を
作れるかもしれないわね」
「ほんと!?」
ユカが勢いよく起き上がる。
「じゃあ、
大人になったらやってみたい!」
「そのときは――」
セラ博士の表情が少しだけ真剣になる。
「絶対、一人でやっちゃダメ」
「なんで?」
「制御できなくなった太陽は、
全部を焼いてしまうから」
「そっか……」
ユカは考える。
そして――
「じゃあ、
仲良しの友達とやる!」
セラ博士が吹き出した。
「ふふっ」
「ダメ?」
「いいえ」
優しく笑う。
「それなら、
少し安心かもね」
夏空の下。
セミの声が、
縁側いっぱいに響いていた。
***
ユカの瞳が開く。
点と点が、
一気につながっていく。
(エネルギー……)
レーヴァテインを見る。
(私の炎)
そして、
チカの黄金の戦棍を見る。
(それを閉じ込める炉……)
チカが操る、
強大な自然エネルギー。
(この二つを合わせれば……)
ユカの口元が上がる。
(小さな太陽を作れる!)
「チカ!!」
「なんや!?」
「力貸して!
あいつ、倒せるかもしれない!」
チカは目を丸くし――
すぐに笑った。
「ほんま!?
おもろそうやん!」
「理由聞かないの!?」
「ユカちゃんがそんな顔するときは、
大体なんとかなるやろ!」
「雑!」
「細かいことはええねん!」
戦棍を肩に担ぐ。
「で?
何したらええん?」
ユカも笑った。
(一人じゃダメだけど……)
チカを見る。
(友達となら、やれる)
そして空を見上げる。
(ね、セラ博士)
ユカの瞳に、
炎が灯った。
***
「レン、援護お願い!」
「ああ、任せろ」
「ピコ!
攻撃タイミング全部教えて!」
「了解です!」
ユカとチカが並ぶ。
「よし――行くよ!」
「おう!!」
バサァッ!!
白銀の仮想翼が広がり、
二人は一気に飛び立った。
蛇龍が咆哮する。
ガアァァァァッ!!
「まずは……これでどうだ!」
レンが両手を広げる。
無数のコード光球が展開され、
小さな人工衛星のように高速回転。
「撃て!!」
ドドドドドドドッ!!
エネルギー弾の雨が、
蛇龍へ襲いかかる。
グオォォッ!?
巨体が怯む。
「うわ!
レン君、めっちゃすごいやん!」
「よそ見するな!
今しかないぞ!」
「……っ!」
その瞬間、
ピコが叫ぶ。
「チカ!
右斜め四十五度からブレス!」
「了解や!」
ドゴォォォォッ!!
黒紫の光線が迫る。
だがチカは宙返り。
「わかってたら、
当たらへんわぁ!!」
「今だ!
チカ、行くよ!!」
「おっけぇぇぇ!!」
二人が同時に加速する。
チカが蛇龍の上へ。
ユカはさらに高く舞い上がった。
「うおおおおおおおっ!!」
レーヴァテインを掲げる。
赤。
白。
そして青。
刀身の炎が、
眩い光へ変わっていく。
「刀身温度、急上昇!
プラズマ化を確認!」
「チカ!
これが“燃料”!!」
ユカが、
超高温のレーヴァテインを振り下ろす。
「あなたの力で――
閉じ込めて!!」
ガキィィィィン!!
黄金の戦棍が
真正面から受け止める。
「任しときぃ!!」
黄金の自然エネルギーが渦を巻く。
暴れる熱と光を包み込み、
球状へと圧縮していく。
「うわっ……
めっちゃ暴れよる!」
「抑えて!!」
「誰に言うてんねん!」
さらに圧縮。
さらに。
さらに――
「エネルギー密度、
臨界領域へ突入!」
カッ――――!!!
青白い光が、
神殿を埋め尽くした。
レンが息を呑む。
「まさか……
核融合を再現したのか……?」
ユカが笑う。
「できた……!」
チカも叫んだ。
「ミニ太陽、完成や!!」
蛇龍が咆哮する。
グオォォォォォッ!!
「これで――」
「終わりやぁぁぁ!!」
二人が同時に突撃する。
「くらえぇぇぇ!!」
「技名いくで!!」
「インティ・フレア――」
「ちゃうちゃう!!」
「えっ!?」
チカが全力で叫ぶ。
「ユカチカ・ギラギラド派手サンサン
めっちゃすごいボンバーやぁぁぁ!!」
「長いしダサい!!」
「小学生か!!」
「ネーミングセンスが壊滅的です!」
ゴォォォォォォォォォッ!!!!
小さな太陽が、
蛇龍を飲み込む。
黒いコードが焼き尽くされ、
巨体が光の粒へ変わっていく。
ギャアァァァァァァァッ!!
そして――
完全消滅。
「……やった?」
「やったでぇぇぇ!!」
二人がハイタッチしようとした。
その瞬間。
「お二人とも」
「ん?」
「飛行時間、終了です」
「……え?」
パシュン。
仮想翼が消えた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
二人そろって真っ逆さま。
「……やれやれ」
レンが指を鳴らす。
巨大な仮想トランポリンが展開された。
ボヨォォォン!!
「ひゃあああっ!?」
「なんやこれぇぇ!?」
二人は高く跳ね上がり――
ドサッ。
なんとか着地した。
「た、助かったぁ……」
「寿命縮んだわ……」
顔を見合わせる。
そして――
「あははは!」
「はははは!」
二人の笑い声が弾けた。
ひとしきり笑ったあと、
チカがユカを見る。
「なぁ、ユカちゃん」
「ん?」
「やっぱ……
うちら最強コンビちゃう?」
ユカは少し照れながら笑った。
「……うん」
「だから、
漫才コンビやろ?」
「ちょっと考えとく」
二人でグータッチ。
ピコが小さく首を振る。
「漫才コンビ誕生でしょうか」
レンも呆れながら笑った。
「さあな」
二人を見る。
「でも――
いいコンビなのは間違いないな」
崩れた神殿に、
ユカとチカの笑い声が
いつまでも響いていた。
※作者の活動報告に各話の設定や裏話などのコメントを書いています。
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※シリーズ第一弾『フラグメンツ・オブ・トゥルース〜最後の投擲』はこちら。
https://ncode.syosetu.com/n8279mq/




