最終話③「五分間の翼」
上空。
蛇龍型データモンスターが、
黒い稲妻をまといながら
神殿の天井付近を旋回していた。
長大な胴体がうねるたび、
空気そのものが震える。
ユカとチカは、
息を整えながらその巨体を見上げた。
「空飛ばれるの……
ほんっと厄介なんだけど!」
ユカが顔をしかめる。
すると、
隣でチカがニヤッと笑った。
「ほな――
こういうんはどうや?」
黄金の戦棍を、
地面すれすれまで下げる。
「ユカちゃん、乗り!」
「……なるほど!」
意図を察したユカが、
迷いなく戦棍の先端へ飛び乗った。
それを見たピコが、
冷静に告げる。
「嫌な予感しかしません」
「いっくでぇぇぇぇ!!」
チカが全身の力を込め、
戦棍を一気に振り上げる。
「ユカちゃん――
ロケットぉぉぉぉ!!」
ブォンッッッ!!!
ユカの身体が、
砲弾のような勢いで上空へ射出された。
「だからそのダサい名前
やめてぇぇぇ!!」
絶叫しながらも、
ユカは空中で体勢を整える。
炎剣を構え、
蛇龍へ一直線。
「鏡花一刀流――」
蛇龍がこちらを振り向く。
「焔閃裂斬!!」
ズバァァァァァン!!
灼熱の斬撃が、
蛇龍の胴体を真っ二つに裂いた。
「ギャアァァァァァッ!!」
「よっしゃあ!」
地上でチカが拳を突き上げる。
「やった――!」
ユカも叫ぶ。
だが。
裂けた断面から、
黒いコードが無数に伸び始めた。
蠢き。
絡まり。
切断された胴体を、
再びつなぎ合わせていく。
「……うそでしょ」
ピコが即座に解析する。
「自己修復機能を確認!
非常に厄介です!」
「くっ……!
防御力だけじゃなくて
回復持ち!?」
重力に引かれ、
ユカの身体が落ちていく。
空中でくるくると回転し、
最後は華麗に着地。
その瞬間――
「ユカちゃん!!
上ぇぇぇ!!」
「えっ――」
顔を上げる。
蛇龍の口腔に、
黒紫のエネルギーが収束していた。
光が膨れ上がる。
「まず――」
ドゴォォォォォッ!!!
極太のブレスが、
一直線に降り注いだ。
(避けきれない……!)
ユカは腕を交差させ、
歯を食いしばる。
次の瞬間。
バァァァァァン!!
目の前で、
ブレスが激しく弾け飛んだ。
「……え?」
そこには、
半透明の光壁が展開されていた。
幾重ものコードが重なり合い、
巨大な盾を形成している。
「データ・バリア……?
でも、《MELIORA》無しで、
なんで……」
背後から、
聞き慣れた声がした。
「やれやれ……
お前ら、無茶しすぎだろ」
ユカが勢いよく振り返る。
「レン!!」
神殿の入口。
レンが片手を前へかざしていた。
その掌には、
複雑なコードが高速回転する
光球が浮かんでいる。
チカが目を丸くする。
「なんやその主人公みたいな登場!
おいしすぎやろ!」
「避難は終わった」
レンはため息をつく。
「で、戻ってきてみたら
これだ」
「文句言いながら、
ちゃんと助けに来るあたり、
レン君ってほんま真面目やな」
「誰のせいだと思ってんだ」
「助かった……
ありがとう!」
ユカが笑う。
レンは軽く頷き、
上空の蛇龍を見上げた。
「あいつがボスか」
「せや」
チカが戦棍を肩に担ぐ。
「空飛んで、
再生までしよる。
だいぶウザいで」
「……なら」
レンが手のひらの光球へ、
もう片方の手を重ねた。
コードが一気に展開される。
「仮想推進翼――
《エーテル・ブースター》」
カッ――!!
眩い光が炸裂した。
「えっ!?」
「うわっ、
なんやこれ!?」
ユカとチカの背中に、
白銀の光が集まっていく。
やがて――
翼。
光で編まれた、
巨大な仮想翼が展開された。
ユカが自分の背中を見ようとして、
身体をひねる。
「すごい……!」
羽ばたく。
身体が、
ふわりと宙へ浮いた。
「本当に飛べる!」
ピコが性能を読み上げる。
「飛行補助プログラムです!
稼働時間――約五分!」
「五分て!
むっちゃ短いやん!」
「文句言うな。
急造なんだよ」
レンが即座に返す。
その横で、
チカも翼をばたつかせた。
「ちょ、待って!
これどう操作――」
ぐるん。
身体が横回転。
「うわぁぁぁぁぁ!!」
そのまま一直線。
ドゴォン!!
神殿の壁へ激突した。
「チカ!?」
ユカが駆け寄る。
壁からずるずると滑り落ちながら、
チカが鼻を押さえる。
「だ、大丈夫や……
たぶん鼻折れてへん……」
「折れていたら大事件です」
ピコが真顔で答える。
レンは額を押さえた。
「……先が思いやられるな」
上空。
蛇龍が、
再び完全な姿を取り戻していた。
切り裂いたはずの傷跡すら、
もう残っていない。
ユカは笑顔を消し、
その姿をじっと見つめる。
飛べる。
でも、五分だけ。
斬れる。
でも、再生する。
「あとは……」
炎剣を見る。
「あいつを倒す方法を
考えれば……」
ユカの瞳が細くなる。
頭の中で、
いくつもの情報が結びつき始めた。
炎。
熱。
再生。
高密度エネルギー。
そして――
遠い昔に聞いた、
ひとつの言葉。
ユカの思考が、
高速で回り始めた。
※作者の活動報告に各話の設定や裏話などのコメントを書いています。
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※シリーズ第一弾『フラグメンツ・オブ・トゥルース〜最後の投擲』はこちら。
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