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最終話⑦「更新される世界」

空中列車の車内。


ユカは窓の外を眺めていた。


さっきまで手を振っていた駅は、

もう見えない。


山々。


深い原生林。


雲海。


パチャママの景色が、

ゆっくりと後ろへ流れていく。


「……終わっちゃったね」


ユカが小さく呟いた。


「ああ」


向かいに座るレンも、

窓の外を見る。


「とても有意義な旅だったな」


「うん」


ユカは笑った。


けれど、

その笑顔には少しだけ寂しさが混じっていた。


チカ。


アマル。


イルヤ。


ぽよ助。


ほんの数日前まで知らなかった人たちが、

今ではもう、

ずっと前からの知り合いだったように感じる。


旅って、

不思議だ。


そんなことを考えていた――


その瞬間。


ぐぅぅぅぅ……。


「……あ」


車内に、

盛大な腹の音が響いた。


レンがユカを見る。


「早いな」


ピコも淡々と告げる。


「感傷タイム終了です」


「違うの!」


ユカが慌てて反論する。


「私、寂しいとお腹空く体質なの!」


「初耳だな」


「かなりの特異体質ですね」


「人体の神秘だよ!」


胸を張って言い切ると、

ユカは荷物を引き寄せた。


「そうだ!」


取り出したのは、

チカが帰り際に持たせてくれた手作り弁当。


「何入ってるかな〜♪」


嬉しそうに蓋を開ける。


ぱかっ。


タマル。


キヌアボール。


チャルキ。


アンティクーチョ。


ゆで卵。


色鮮やかな果物。


そして――


芋。


芋。


芋。


芋。


「芋、多すぎっ!!」


ユカの叫びが車内に響く。


レンが弁当を覗き込む。


「絶対ウケを狙ってるだろ」


「強い意志を感じます」


ピコが真顔で分析する。


ユカはしばらく弁当を見つめ――


吹き出した。


「あははっ。

もう、チカったら……」


じゃがいもを一つ手に取る。


ぱくっ。


噛んだ瞬間。


旅の記憶が、

次々と浮かんできた。


初めて乗ったロックビーストのぽよ助。


自然と仮想技術が溶け合ったパチャママの街。


《パチャの指輪》。


雲の上に眠る古代遺跡。


データモンスターとの戦い。


チカと背中を預け合ったこと。


一緒に作った、

小さな太陽。


そして――


星空の下。


チカと二人で話した、

あの夜。


《レン君のこと、どう思っとるん?》


「…………」


じゃがいもを持ったまま、

ユカの動きが止まる。


(……私)


窓を見る。


ガラスに、

自分の顔が映っている。


その向こうには、

流れ続ける山々。


(レンのこと……)


ちらりと横を見る。


何も知らないレンは、

外の景色を眺めていた。


(どう思ってるんだろう)


胸の奥が、

少しだけ速くなる。


これまでなら、

そんなことを考えもしなかった。


一緒にいるのが当たり前で。


助けてもらうのも。


言い合うのも。


呆れられるのも。


全部、

いつものことだった。


でも――


チカに聞かれてから。


少しだけ、

見え方が変わった。


「……ユカ」


「ん?」


突然呼ばれ、

ユカはびくっとする。


レンが、

どこか言いにくそうに視線を逸らした。


「俺さ」


「うん?」


「今度、

アストラ・シティに移ることになった」


「……えっ?」


ユカが瞬きをする。


「研究成果が認められて、

セラ博士の助手になるんだ」


「すごい!」


すぐに顔を輝かせる。


「それで?

どこに住むの?」


「しばらくは、

博士の家に下宿することになった」


「…………」


ユカが止まった。


レンが首を傾げる。


「ユカ?」


数秒後。


「ほんとに!?」


勢いよく立ち上がる。


そのまま――


ぎゅっ。


「うわっ!?」


ユカがレンに抱きついた。


「やったぁぁぁ!!」


「ちょっ、

近い!近いって!!」


レンの顔が、

一瞬で真っ赤になる。


ピコが二人を見つめる。


(また無自覚に惑わせていますね……)


ユカは満面の笑顔のまま――


ふと気づいた。


自分の腕。


レンとの距離。


顔の近さ。


「……あ」


今度は、

ユカの顔まで赤くなった。


「きゃーーーっ!!」


慌てて飛び退く。


「遅いんだよ!」


「ご、ごめん!」


「なんでお前まで赤くなるんだよ!」


「だって今、

急に恥ずかしくなったんだもん!」


「なんだよ、それ!」


ピコが小さく首を振る。


「お二人とも、

たいへん分かりやすくなってきましたね」


「ピコは黙ってて!」


ユカが真っ赤な顔で叫ぶ。


レンも顔を背けたまま、

ぶっきらぼうに続ける。


「余計なこと言うな、ピコ!」


「なぜピコまで怒られるんですか!?」


今度はピコが抗議する。


三人の声が重なり、

やがて笑い声に変わった。


列車は走り続ける。


パチャママを離れ。


旅の終わりを越え。


その先へ。


ユカの世界は、

ほんの少しずつ変わっていく。


新しい街。


新しい日々。


新しい関係。


そして――


まだ誰も知らない、

新しい未来へ。


世界は、

少しずつ更新されていく。


『フラグメンツ・オブ・メリオラ

~ユカの旅~』


《Fin》


※作者の活動報告に各話の設定や裏話などのコメントを書いています。

https://syosetu.com/userblog/list/


※シリーズ第一弾『フラグメンツ・オブ・トゥルース〜最後の投擲』はこちら。

https://ncode.syosetu.com/n8279mq/


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