第22話③「誰かが残したもの」
チカが突然、
肩掛けバッグをごそごそと漁り始めた。
「……?」
ユカが首を傾げる。
次の瞬間。
バッ!
チカが勢いよく取り出したのは、
なぜかカラフルな小さな旗だった。
「はーい、皆さーん!」
満面の笑みで旗を掲げる。
「これより、
パチャママ遺跡スペシャル見学ツアーを
開始しまーす!」
「えぇっ!?」
「なんでそんなもん持ってるんだよ……」
レンが呆れる。
「観光案内は準備が命やで?」
「どこ目指してるの……?」
チカはくるりと回ると、
旗を振りながら石畳の道を歩き始めた。
「はぐれたら迷子になるから、
ちゃんとついてくるんやでー!」
「ガイド適性、高そうです」
「妙に板についてるな……」
ユカたちは顔を見合わせながら、
その後を追った。
石造りの階段を上りながら、
チカが説明を始める。
「ここな。
実は、うちらの先祖が来るより
ずーっと前に栄えとった文明の遺跡なんよ」
「えっ……?」
ユカが周囲を見渡す。
「じゃあ、
最初にここに住んでた人たちは?」
「どこ行ったんだ?」
レンも尋ねる。
チカの足が少しだけゆっくりになる。
「……それがな」
振り返った表情から、
いつものおどけた雰囲気が消えていた。
「誰にも、わからへんねん」
「わからない……?」
「さっきのおっちゃんらが、
ずっと発掘調査しとるけどな」
チカは苔むした石壁に手を触れる。
「わかっとるんは、
めっちゃ高度な文明が――」
指先で、
古びた石の表面をなぞる。
「ある日突然、
跡形もなく消えたってことだけや」
「突然……?」
レンが眉をひそめる。
ピコの目が光った。
「歴史的ミステリー案件ですね。
非常に興味深いです」
「そんなこと……
本当にあるんだ……」
ユカは、
眼下へ続く石造都市を見つめた。
人が暮らしていた痕跡は、
そこら中に残っている。
なのに。
そこにいたはずの人々だけが、
どこにもいない。
チカは再び歩き出した。
「せやけどな」
振り返り、
少しだけ笑う。
「全部消えたわけやない」
「え?」
「技術だけは残っとったんよ」
「技術……?」
チカが指を一本立てる。
「《ティンクイ・マルキ》」
二本目。
「《ユヤイ・ルミ》」
三本目。
「《カマイ・スンク》」
そして胸を張った。
「ぜーんぶ、
この遺跡から見つかった技術が
元になっとるんや」
「……そうだったのか」
レンは改めて、
遺跡を見渡した。
崩れかけた石壁。
山肌に刻まれた段々畑。
寸分違わず積み重ねられた、
巨大な石造建築。
数千年前のものとは思えないほど、
異様な完成度だった。
チカは左手を持ち上げる。
そこにはめられた《パチャの指輪》が、
陽の光を受けて輝いた。
「この指輪もな」
ユカたちへ向き直る。
「セラの指輪の
イミテーションやって言うたやろ?」
「うん」
「でも、
ただ真似して作っただけちゃうで」
チカの表情が少し引き締まる。
「この遺跡に残っとった
古代コードと設計技術があったから、
ここまで再現できたんや」
指輪を見つめる。
「足りへん部分は、
セラフィムの技術で補ったけどな」
ピコが反応する。
「つまり――」
瞳に解析光が走る。
「この古代文明は、
セラフィム文明に匹敵するほどの
技術力を持っていた可能性がある、
ということですね」
「せやな」
チカは素直に頷いた。
「せやのに――」
周囲を見渡す。
「その文明は、
ある日突然消えた」
「……理由は?」
レンの問いに、
チカは首を横に振った。
「さっぱりや」
「戦争の跡もない」
石壁を指す。
「大災害が起きた記録もない」
崩れた建物へ視線を移す。
「大量の人が死んだ痕跡もない」
チカは、
遠くの山々へ目を向けた。
「ほんまに――」
「ある日ふっと、
みんな姿を消したみたいなんや」
ユカは、
返す言葉を失った。
これだけの都市を築いた人々。
これだけの技術を生み出した文明。
それが。
何も残さず、
消えた。
「……なんで」
ユカが小さく呟く。
「なんで消えちゃったんだろう……」
その視線が、
遥か上へ向かう。
《インティ・クイラ》。
天を貫く巨大な石柱が、
雲を背にしてそびえていた。
ユカはしばらく見つめていたが、
ふと何かを思いついたように口を開いた。
「もしかして……」
「ん?」
レンが振り返る。
ユカは、
遺跡全体を見渡した。
人はいなくなった。
でも。
技術は残った。
石は残った。
指輪へと受け継がれた知識も残った。
「誰かが残したのかな……」
ユカは、
《インティ・クイラ》を見上げる。
「未来のために」
チカも。
レンも。
ピコも。
同じ石柱を見上げた。
答えを知る者は、
もうここにはいない。
遺跡は何も語らない。
サァァァ……。
高地の風が、
古い石壁の間を吹き抜けていく。
まるで。
遠い昔の誰かが残したものを、
今を生きる彼らへ
そっと手渡していくように。
※作者の活動報告に各話の設定や裏話などのコメントを書いています。
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※シリーズ第一弾『フラグメンツ・オブ・トゥルース〜最後の投擲』はこちら。
https://ncode.syosetu.com/n8279mq/




