第22話②「雲の上の遺跡で」
雲を突き抜けるように、
ぽよ助は山道を駆け上がっていった。
標高が上がるにつれ、
空気は薄く、冷たくなっていく。
「はぁっ……はぁっ……
な、なんか息が……」
ぽよ助の背で、
ユカが胸元を押さえる。
「高度上昇による軽度の高山反応ですね」
「大丈夫か?」
レンが心配そうに振り返る。
「だ、大丈夫……。
景色はすごいけど……!」
眼下には、
幾重にも連なる段々畑。
パチャママ・シティの集落は、
すでに豆粒ほどの大きさに見えていた。
さらに進むと――
白い霧が、
一気に視界を覆った。
「えっ……!?」
さっきまで見えていた景色が消える。
数メートル先さえ見通せない。
ぽよ助も速度を落とし、
白い世界の中を慎重に進んでいく。
ゴォォ……。
強い風が吹き抜けた。
その瞬間――
霧が割れた。
「……っ!!」
ユカが息を呑む。
その先に現れたのは――
天空に浮かんでいるかのような、
巨大な石造都市だった。
切り立った山の尾根に沿って、
無数の建築物が階段状に連なっている。
巨大な段々畑。
隙間なく積み上げられた石壁。
山肌を縫うように伸びる、
長い石階段。
まるで――
山そのものを削り出して、
ひとつの都市に変えてしまったようだった。
遺跡の背後には、
鋭く天を突く山々。
山頂付近には白い雲がたなびき、
遺跡全体を神々の領域のように包んでいる。
「うわぁぁぁ……!!」
ユカが思わず身を乗り出す。
「すげぇ……」
普段は冷静なレンまで、
目を奪われていた。
ピコの目が光る。
「建築年代……
少なくとも数千年以上前と推定されます」
「こんなの……本当に存在してたんだ……」
遺跡の中央には、
太陽を模した巨大な円形広場。
周囲には神殿らしき建造物が並び、
その中心には――
黒曜石のような光沢を放つ、
巨大な石柱が天へ伸びていた。
チカが指さす。
「あれが《インティ・クイラ》や」
「インティ……?」
「“太陽と月を繋ぐ柱”って呼ばれとる。
パチャママ最大の聖遺物や」
風が遺跡を抜ける。
カラン……。
どこからともなく、
石鈴のような音が響いた。
周囲には、
苔むした石像が点在している。
翼を持つ獣。
蛇。
太陽。
星。
失われた文明の信仰が、
形となって残されていた。
さらに奥には、
断崖ぎりぎりに建つ半壊した神殿群。
その向こうは――
遥か下まで続く奈落。
「ひぃっ……高い……!」
ユカが思わず後ずさる。
レンが崖下を覗き込み、
すぐに顔を上げた。
「落ちたら終わりだな……」
「そういうこと言わないでよ!」
やがて一行は、
遺跡中央の広場へたどり着いた。
眼下には雲海。
背後には天を突く聖山。
色鮮やかな布飾りが、
高地の風にはためいている。
チカがくるりと振り返った。
そして両手を大きく広げる。
「ようこそ――」
満面の笑み。
「天空都市、
パチャママ遺跡へ!」
「うわぁぁ……!」
「絶景すぎるだろ……」
ピコが周囲を見回す。
「観光満足度、非常に高いです」
「観光地レビューみたいに言わないでよ……!」
そのとき。
下方の石段から、
大きな声が飛んできた。
「おーい!
チカちゃーーん!」
四人が下を見る。
石段の途中で、
ヘルメット姿の調査員たちが
手を振っていた。
背中には発掘機材。
作業着は土埃まみれ。
どうやら休憩中らしい。
「あっ、おっちゃんら!
こんにちはー!」
チカも大きく手を振り返す。
「また友達連れて来たんか!」
「せやねん!
うちら自慢の遺跡、
見せたろ思て!」
調査員たちは笑った。
だが、そのうちの一人が
少しだけ表情を曇らせる。
「それはええけどな。
今日は、あんまり奥まで行かん方がええで」
「なんで?」
「最近、この辺で
小さい地震が増えとるんや」
別の調査員も頷く。
「さっきも地下の方で
妙な揺れがあってなぁ。
機材の誤作動やったらええんやけど……」
「え……?」
ユカの表情が変わる。
レンも眉を寄せた。
「地下……?」
チカも少しだけ気にした様子を見せる。
それでも、すぐに笑って手を振った。
「わかった!
気ぃつけるわ、ありがと!」
「ほななー!」
調査員たちは再び石段を下り、
発掘エリアへ戻っていった。
ユカが首を傾げる。
「あの人たちって?」
「遺跡の調査隊や」
チカが崖沿いを指さす。
そこには、
いくつもの調査用テントが並んでいた。
「近くに泊まり込みで、
ずーっと発掘しとるんよ」
「へぇ……」
レンが、
風に揺れるテントを眺める。
「こんな絶景の場所でキャンプできるとか、
ちょっと羨ましいな」
チカの目が光った。
「え、レン君。
キャンプ好きなん?」
「うん」
ユカが何の警戒もなく答える。
「こないだも、
二人でキャンプ行ったんだよね」
「……ほぉ?」
チカの口元が、
にやぁっと上がった。
ユカが嫌な予感を覚える。
「……え?」
「二人で、ねぇ〜?」
「いや、違っ……!」
レンが即座に反応する。
ユカも慌てて手を振った。
「ち、違うから!
チカ、絶対変なこと考えてるでしょ!」
「いや〜?
うちは何も言うてへんけど〜?」
「顔が完全に言ってるだろ!」
「もうっ!!」
古代文明が眠る天空の遺跡に――
三人の賑やかな声が、
いつまでも響いていた。
※作者の活動報告に各話の設定や裏話などのコメントを書いています。
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※シリーズ第一弾『フラグメンツ・オブ・トゥルース〜最後の投擲』はこちら。
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