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第22話①「私、芋です!」

翌朝――。


窓の外には、澄みきった青空。

朝日が山々の稜線を照らし、

段々畑には白い朝霧がうっすらと漂っていた。


長老アマルの家の食卓には、

朝から色とりどりの料理が並んでいる。


こんがり焼かれたトウモロコシパン。

たっぷりのフレッシュチーズ。

優しい香りのキヌアスープ。

色鮮やかな果物。

湯気の立つコーヒー。


そして――。


「……また芋ある」


席についたユカが、

ほくほくに蒸されたジャガイモを見つめて固まった。


レンが呆れた顔をする。


「朝一番の感想がそれかよ」


「だって昨日も芋だったし……」


ユカはジャガイモを指さす。


「今日もいるんだ……って」


するとチカが、

ニヤリと笑ってフォークを突き刺した。


「ふっふっふ……」


「な、なに……?」


「パチャママの芋、甘く見たらあかんで?」


ドヤ顔で一口。


「世界のジャガイモのルーツ、

だいたいこの辺やからな」


「非常に誇らしげですね」


「そんなドヤることある!?」


アマルは楽しそうに笑いながら、

コーヒーを口に運んだ。


「それ、昨日とは違う品種や。

まあ食べてみぃ」


「違うの……?」


ユカは半信半疑で、

蒸しジャガイモをひとかじりする。


「……あ」


「どうした?」


「ほんとだ。昨日と違う……!」


チカが得意げに笑う。


「せやろ?」


ユカはもう一口食べ、

真剣な顔になった。


「昨日のは芋感がじわじわ来たけど、

これは最初から――」


ジャガイモを掲げる。


「“私、芋です!”って主張してくる!」


「相変わらず食レポ下手だな」


「素材の自己主張が強いそうです」


食卓に笑いが広がった。


レンはキヌアスープを飲みながら、

本題を切り出す。


「で、今日はどうするんだ?」


その瞬間、

チカの目が輝いた。


「よぉ聞いてくれました!」


勢いよく立ち上がる。


「今日はな――」


ユカが半目になる。


「……また、その溜め方?」


「嫌な予感しかしねぇ」


「パチャママ最大の目玉!」


チカは両手を大きく広げた。


「天空都市――

パチャママ遺跡に行きまーす!!」


「おおーー!」


ユカの目が輝く。


「古代創生文明の遺構ですね」


「せや。ここから、

さらに山登った先にあるんよ」


「……え?」


ユカの笑顔が止まった。


「や、山……登るの?」


「せやで?」


「…………」


完全に固まる。


レンが吹き出した。


「ははっ。セラフィムで登山した時の

トラウマ思い出したか?」


「笑い事じゃないよ!?」


「そんな大変だったか?」


「大変だったよ!

登ってる時つらいし、

次の日は筋肉痛で足ガクガクになったし!」


頬をぷくっと膨らませる。


「運動不足なだけだろ」


「違うもん!」


チカがケラケラ笑いながら、

手をひらひら振った。


「大丈夫やって」


「……ほんと?」


「今日はちゃんと、

ぽよ助に乗って行くから」


「……!」


ユカの表情が一瞬で明るくなった。


「ぽよちゃん……!!」


両手を合わせる。


「ありがとう……!」


「お前、昨日は

名前と見た目が合ってないとか

言ってなかったか?」


「えへへ……慣れってすごいね」


「適応能力が高いのか、

調子がいいのか判断に困ります」


「たぶん後者やな」


「ひどっ!」


朝の食卓に、

また賑やかな笑い声が響いた。


***


家の前。


ロックビースト・ぽよ助の背中に、

ユカ、レン、ピコ、チカが乗り込む。


アマルが大きく手を振った。


「パパ、ほな行ってくるでー!」


「おう! 気ぃつけてな!」


チカがぽよ助の首筋を、

ぽんっと叩く。


「頼んだで、ぽよ助!」


グオオオオオォッ!!


大地を震わせる咆哮。


ぽよ助は巨大な脚で地面を蹴り、

一気に駆け出した。


ドドドドドド――!!


「うわぁぁぁっ!? 速っっっ!!」


「しっかり掴まってろ!」


「振り落とし注意です」


「最初に言ってぇー!」


山道を猛烈な勢いで駆け上がる。


風が髪を激しく揺らし、

段々畑や石造りの家々が

次々と後方へ流れていく。


「やっぱり……!」


ユカは必死にしがみつく。


「“ぽよ助”って名前と

迫力が一致しないよぉぉ!!」


そのとき。


前方の岩場に、

一人の人影が立っていた。


「……あれ?」


レンが目を凝らす。


「イルヤ?」


疾走するぽよ助の進路上。


イルヤが立っている。


無言で腕を振りかぶり――。


ブンッ!!


何かを投げた。


一直線に飛んでくる。


「っ!」


チカが身を乗り出す。


パシッ!!


片手で見事に受け止めた。


「ええっ!?」


手の中にあったのは、

紫とうもろこしジュースのボトル。


ぽよ助がイルヤの横を駆け抜ける。


「気ぃつけろ!」


イルヤが叫ぶ。


「嫌な予感がする!」


チカが振り返った。


ほんのわずかな時間、

二人の視線が重なる。


「……わかった!」


それだけだった。


詳しい説明もない。


問い返しもしない。


けれど、

それだけで十分なのだと分かる。


ユカは思わず笑った。


「……ふふっ」


「なんだよ?」


レンが横を見る。


「いや……」


ユカは遠ざかっていくイルヤと、

手にしたボトルを見つめるチカを交互に見た。


「なんやかんやで、

ほんとにいいコンビだなって」


レンも振り返り、

少しだけ笑う。


「……まあな」


グオオオオオォッ!!


ぽよ助が、

さらに速度を上げる。


山の向こう。


雲のさらに上にあるという、

古代の天空都市へ。


四人は一直線に、

パチャママ遺跡を目指していった――。



※作者の活動報告に各話の設定や裏話などのコメントを書いています。

https://syosetu.com/userblog/list/


※シリーズ第一弾『フラグメンツ・オブ・トゥルース〜最後の投擲』はこちら。

https://ncode.syosetu.com/n8279mq/


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