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第21話④「ドヤ顔ユリ」

食後――。


テーブルの上には、

きれいに空になった皿が並んでいた。


ユカたちは温かいコカ茶。


アマルは、

木製のカップに注いだ琥珀色の発酵酒、

チチャをゆっくり飲んでいる。


窓の外には、

パチャママの満天の星空。


食後のゆったりとした空気の中、

ユカがふと思い出したように尋ねた。


「そういえば……」


「ん?」


「チカのお母さんって、どんな人なの?」


その瞬間。


チカが黙った。


アマルも、

チチャを持ったまま動かなくなる。


「……おい」


レンが小声でユカを制した。


「なんか……聞いちゃまずいやつじゃないか?」


「えっ」


ユカの顔が引きつる。


チカは視線を落とした。


「……ママはな」


「……う、うん」


「うちを産んだあと――」


チカの声が低くなる。


アマルも、

重々しく言葉を継いだ。


「それまで元気やったチャスカが、

急に体調を崩してな……」


ユカの表情が曇る。


「日に日に弱っていって……」


「まさか……」


レンまで真顔になった。


アマルは遠い目をする。


「そして、ある日突然――」


喉の奥から絞り出すように再現した。


「“苦しい……!!”って叫んでな……」


「えっ……!」


ユカが口元を押さえる。


「ご、ごめん……もしかして、お母さん……

もう――」


「いや、むっちゃ元気やで」


「はぁ!?」


ユカとレンとピコの声が重なった。


アマルも平然と続ける。


「今も世界中飛び回っとるわ」


「えええええっ!?」


ズコーーーーッ!!


ユカとレンが盛大にずっこける。


ピコまで危うく、

テーブルへ頭をぶつけるところだった。


それを見て、

チカが満足そうに頷く。


「ええずっこけやなぁ」


「わざとか!?」


「やっぱユカちゃん、

うちと漫才コンビ組めるで」


「だからやらないってば!!」


笑いが収まったところで、

ユカはジト目をアマルへ向けた。


「いやいやいや!

じゃあ、体調崩したって何だったの?」


「あれは、ただの風邪や」


「軽っ!!」


ユカが即座に突っ込む。


「じゃあ、“苦しい”って叫んだのは!?」


「芋食いすぎて、

喉に詰まらせただけや」


「紛らわしすぎるでしょ!!」


レンが頭を抱えた。


「命に関わる方向が違うだけじゃねぇか……」


「ほんま人騒がせな人やで」


チカも呆れたように肩をすくめる。


「我が嫁ながら、自由すぎるわ」


アマルは苦笑しながら、

チチャを一口飲んだ。


レンが尋ねる。


「……で、そのお母さん、

今は世界中で何してるんですか?」


アマルの表情が、

少し真面目なものに変わった。


「コード・ハンターや」


「……!」


レンが反応する。


ユカは聞き慣れない言葉に首を傾げた。


「コード・ハンター……?」


「世界各地の遺跡や秘境を巡って、

創生のコードの結晶体を探す人たちや」


アマルはカップを揺らしながら続ける。


「まあ、冒険家みたいなもんやな」


その言葉で、

ユカの記憶がつながった。


そういえば――。


レンの家族も。


カイも。


昔、

コード・ハンターをしていたと聞いたことがある。


「ママ、前に帰ってきたん、

たしか三ヶ月くらい前やったかな」


チカが指折り数える。


「今ごろまた、

どっかの遺跡で暴れ回っとるんちゃう?」


「あはは……すごいお母さんだね」


「ほんまにな」


アマルがしみじみ頷く。


それから何かを思い出したように、

ぽつりと言った。


「そういや、ユリも――」


「ユリ?」


「今の族長セラや」


ユカの目が見開かれた。


「えっ、セラ博士!?」


レンまで身を乗り出す。


「は?」


「昔、コード・ハンターやっとったらしいで」


「えええええっ!?」


「嘘だろ!?」


二人の声が、

家中に響いた。


ユカの脳裏に浮かぶのは――


着物姿で、

優雅にお茶をたてるセラ博士。


割烹着姿で、

静かに包丁を握るセラ博士。


穏やかに微笑みながら、

質問に対して質問を返してくるセラ博士。


秘境や遺跡を駆け回る冒険家。


どうしても、

結びつかない。


「ぜ、全然想像つかない……」


するとアマルが、

面白そうに眉を上げた。


「知らんのか?」


「何を?」


アマルはニヤリと笑う。


「“ドヤ顔ユリ”言うたら、

今でもコード・ハンター界隈じゃ

伝説的な存在らしいで」


「ドヤ顔って何!?」


ユカが叫ぶ。


レンも呆れる。


「ネーミング雑すぎるだろ……」


ピコは二人の横で、

そっと視線を逸らした。


――これは。


ユリの名誉のためにも、

本人には黙っておいた方がいい。


そう判断し、

何も聞かなかったことにした。


その後も笑い声は続き――


パチャママの夜は、

ゆっくりと更けていった。



※作者の活動報告に各話の設定や裏話などのコメントを書いています。

https://syosetu.com/userblog/list/


※シリーズ第一弾『フラグメンツ・オブ・トゥルース〜最後の投擲』はこちら。

https://ncode.syosetu.com/n8279mq/


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