第12話⑥誰も聞けない理由
◇08月14日 17時台/山小屋から少し離れた場所/健一、達也、美樹
山小屋から少し離れた場所で、健一たちは二人の男を埋めるための穴を掘っていた。
昼間の騒ぎから二時間ほど経っていたが、誰も普段の調子には戻れていない。
夏帆はなおみの手当てを受けたあと山小屋で休み、唯もそのそばにいる。
嵯峨は蹴られた箇所を気にする様子を見せていたものの、自分で歩けていた。
健一は黙ったままスコップを土へ突き立てた。
男たちがしたことを考えれば、丁寧に弔いたいとは思わない。
それでも死体を山小屋のそばへ放置しておくわけにはいかなかった。
腐敗すれば衛生上の問題にもなるし、獣を呼び寄せる可能性もある。
達也と権蔵も余計なことは話さず、穴を広げていく。
しばらくして、二人の死体を入れられるだけの深さになった。
健一がスコップを置き、汗を拭う。
『……これくらいあればいいか』
権蔵が穴を確認して頷いた。
二人の死体を運ぼうとした、その時だった。
山道の方から足音が聞こえた。
健一たちが振り向くと、美樹が戻ってきていた。
先ほど一人で山道へ消えてから、どこへ行っていたのか誰にも分からなかった。
空気銃は持っているが、その両腕には別のものも抱えている。
山小屋に溜まっていた生活ゴミだった。
達也が眉を寄せる。
『……何してたんだ?』
美樹は答えなかった。
そのまま穴の前まで歩いてくる。
地面には、これから埋めようとしていた二人の死体が横たわっていた。
だが美樹は一度もそちらを見なかった。
抱えてきた袋を持ち上げると、穴の中へ放り込む。
袋が土の底へ落ち、乾いた音を立てた。
さらにもう一つ。
空き容器や包装材などが入った袋も、同じように投げ入れる。
健一たちは黙ってその様子を見ていた。
美樹は穴の中を見下ろし、感情の抜けたような声で言った。
『ゴミ処理穴にちょうどいいわね』
誰も返事をしなかった。
達也は何か言おうとして口を開きかけたが、結局そのまま閉じる。
健一も美樹を見たものの、今ここで何を言えばいいのか分からなかった。
昼間、炎の刺青を見た瞬間に豹変した美樹。
空気銃で撃ち、ナイフで刺し、最後にはもう一人へガソリンを浴びせて火をつけた。
あれほど激しい怒りを見せた理由を、美樹は『こういうやつが許せないだけ』としか話していない。
それ以上を問いただすことは、誰にもできなかった。
権蔵が静かに死体へ手を掛ける。
健一と達也も加わり、二人の男を穴へ入れた。
生活ゴミの上へ身体が重なる。
美樹はその間も手を貸さず、少し離れた場所から見ていた。
健一がスコップを拾い、最初の土を穴へ落とす。
続いて権蔵。
達也。
土が少しずつ死体とゴミを覆っていく。
誰も何も話さなかった。
美樹も黙ったまま、埋められていく穴を見つめている。
やがて二人の姿は完全に土の下へ消えた。
墓標を置く者はいなかった。
手を合わせる者もいない。
最後に土を踏み固めると、健一はスコップを肩へ担いだ。
山小屋へ戻れば、夏帆と唯がいる。
二人を安心させるためにも、いつまでもここにいるわけにはいかなかった。
健一たちは無言のまま山小屋へ戻り始める。
美樹も少し遅れて、その後ろを歩いた。
■唯のサバイバルメモ
・今日のテーマ:緊急信号、危険の伝達
皆さんこんにちは。唯です。
今回のお題は『緊急信号、危険の伝達』についてです。
襲われた後に権蔵さんから危険の伝達方法を学びました。
ちょっと遅かったけど、でもでも知識はあって損は無いので書いちゃいます。
例えば遠くにいる仲間に助けを求める時や、無人島に流れ着いて遭難した時。
『助けてー!』って叫んでも、近くに誰もいなかったら聞こえませんよね。
そこで大事になるのが、遠くにいる人にも
『これは普通じゃない! 助けが必要なんだ!』と分かるような合図です。
◇緊急時や遭難時は『3』を覚えておこう
遠くの仲間に危険を知らせたり、遭難して助けを求めたりする時には、『3回』という数字がよく使われます。
例えば火。余裕があるなら、3つの火を三角形になるように離して焚きます。
三角形に並んだ3つの火は、国際的にも遭難を知らせる信号として使われています。
火が1つだけなら、遠くから見た人には普通の焚き火なのか、それとも救助を求めているのか分からないことがあります。
でも不自然に3つの火が並んでいれば、
『あれ? 何かおかしいぞ』って気付いてもらいやすくなるんですね。
◇笛でも『3回』
火だけじゃありません。
遠くの仲間に危険を知らせたい時や、山などで遭難した時、ホイッスルを持っているなら、
『ピーッ! ピーッ! ピーッ!』と3回吹きます。
少し間を空けて、また3回。
これも救助を求める合図です。
大声でずっと叫ぶと体力を使うけど、笛なら少ない力でかなり遠くまで音を飛ばせます。
山に行く時は、小さなホイッスルを1個持っておくといいかもしれませんね。
◇ライトならSOS。
夜なら懐中電灯を使って、遠くの仲間や救助する人へ異常を知らせることもできます。
SOSのモールス信号は、
短く3回。長く3回。短く3回。
『・・・---・・・』です。
懐中電灯なら、
ピカッ、ピカッ、ピカッ。
ピカーッ、ピカーッ、ピカーッ。
ピカッ、ピカッ、ピカッ。
という感じですね。
これを繰り返せば、普通にライトを振っているだけではないと伝わります。
米国国立公園局も、遭難時のライトによるSOSとしてこのパターンを案内しています。
◇昼間は炎より煙。
昼間に遠くへ自分の居場所や異常を知らせたい時は、炎そのものより煙の方が見つけてもらいやすいことがあります。
そして大事なのが、『周りと反対の色の煙を出す』こと。
雪原みたいな白い場所なら黒い煙。
森みたいな暗い場所なら白い煙。
とにかく周囲から目立つ色にするんですね。
FAAのサバイバル資料でも、雪など明るい環境では黒煙、森林など暗い環境では白煙を使うよう説明されています。
黒い煙なら、ゴムや石油製品などを燃やすと出やすいです。
例えばタイヤ。
タイヤを燃やすと、ものすごく目立つ黒煙が出ます。
ただし!
タイヤの煙はかなり有害です。
一酸化炭素やさまざまな有害物質を含むので、煙を吸い込んじゃダメです。
普段から『救難信号の練習だー!』ってタイヤを燃やすのも絶対ダメだからね!
白い煙を出したいなら、生木や生の葉っぱなど、湿気を含んだ植物を火に入れる方法があります。
◇空から見える文字を作る
飛行機やヘリコプターが探しに来てくれたなら、地面にも合図を作れます。
石や木、布などを使って、大きな文字や記号を作るんです。
救難用の地上信号では、
『V』=助けが必要
『X』=医療援助が必要
『N』=いいえ
『Y』=はい
『↑』=こちらの方向へ進んでいる
などの意味があります。
上空から見つけてもらうものなので、とにかく大きく!
そして地面と違う色の物を使って、はっきり目立たせることが大切です。
火。
煙。
音。
光。
地面に作った文字。
道具がなくても、工夫すればいろんな方法で『助けて!』って伝えられるんですね。
とりあえず私は、
『緊急時や遭難時は3!』
って覚えておこうと思います。
……まあ、一番いいのは、遭難もしないし、危険な目にも遭わないことかな。
それと、ここまで読んでくれてありがとう!
今回は『助けて!』を伝える方法のお話でしたけど、
もしこの物語を読んで、
『面白かった!』
『続きも読みたい!』
って思ってもらえたら、評価やブックマークで作者さんに応援信号を送ってもらえると嬉しいです!
ちゃんと届くみたいですよ。
……作者さん、遭難してるわけじゃないからね?
たぶん。
では今日はここまで!
またね!




