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第12話③上流へ

◇08月14日 10時台/川沿い/炎の刺青の男二人


川沿いでは、腕に炎の刺青が入った二人の男が休んでいた。

そのうち一人が水面へ目を向けた。

流れの中に、布のようなものが下ってきている。

男は川へ入り、それを拾い上げると、濡れた布を広げて眉を上げた。


『なんか流れて来たぞ……? ん? 女物の下着じゃねぇか』


もう一人の男も近寄り、手にした下着を覗き込んだ。

どう見ても、川へ捨てるような物ではない。

上流のどこかで洗濯をしていたものが、流されてきたと考える方が自然だった。

男は川の流れを上流へ辿るように目を向けた。


『ってことは、この上流に誰かいるかもしれねぇな』


もう一人は濡れた下着を見ながら、口元を歪めた。


『そろそろお楽しみが必要だなぁ』


二人の間に警戒するような空気はなかった。

生存者がいるかもしれないという話をしているにもかかわらず、助け合おうという発想すらない。

むしろ、相手が女性である可能性を想像したことで、興味を持った様子だった。

パンデミックが始まってから、二人は孤立している女性を見つけては襲うことを繰り返していた。

地震直後にも、一人でいた女性を見つけたことがある。


二人は当然のように車へ連れ込もうとした。

相手は一人、自分たちは二人。

腕を掴んでしまえば簡単に押さえ込めると思っていた。


ところが、腕を掴んだ瞬間だった。

女性は怯えるどころか、迷わず反撃してきた。

予想していなかった抵抗に二人は対応できず、逆に返り討ちにされ、その場から逃げることになった。

その時のことを思い出した男が、苛立った顔で言う。


『この前みてぇに、見た目だけで油断すんなよ。あの女、いきなり反撃してきやがったからな』


もう一人も不機嫌そうに答えた。


『分かってるよ。今度は最初から二人で押さえりゃいい』


失敗したことへの反省はあっても、自分たちがしていることへの反省はなかった。

考えているのは、次はどうすれば抵抗されずに済むか。

それだけだった。

現在へ意識を戻した男は、拾った下着を手にしたまま川の上流を見た。


『まぁ、今度は油断しねぇよ。ちょっくら捜索にいくかぁ』


二人は車へ戻ると、川沿いの道を上流へ進んだ。





◇08月14日 11時台/スーパー/健一、権蔵、達也、なおみ、美樹

健一たちは本屋を出たあと、米や保存食を探すためスーパーへ向かった。


停電した店内は、本屋以上に暗かった。

大きな店舗だけに、入口から差し込む外光が届くのはわずかな範囲だけで、その先には商品棚が幾列も並び、奥はほとんど見通せない。

五人はそれぞれフラッシュライトを点け、入口から慎重に中を確認した。


『暗い店って、こんなに見えねぇのか』


達也が光を棚の間へ向ける。

美樹も空気銃を構えられるようにしながら、仲間の位置と通路の先を交互に確認した。

店内へ入って間もなく、棚の奥で複数の物音が重なった。

何かが倒れ、床を踏む足音が続く。

直後、ライトに照らされた感染者が一体、棚の間から走ってきた。

その後ろにも影がある。


『複数いる!』


健一の声で全員が入口方向へ下がった。

狭い棚の間で囲まれるより、外光が入り、左右を見渡せる入口付近の方が戦いやすい。

なおみと健一が前に立ち、権蔵と達也がその少し後ろで別方向の通路を警戒する。


美樹はさらに後方へ下がり、射線が仲間と重ならない位置を取った。

最初の感染者が入口へ飛び出してくる。

なおみが正面で動きを受け止めようとするのではなく、進路をずらすように間合いを外した。

感染者がなおみを追って身体の向きを変えたことで、隣の通路から出てきた感染者と進路が重なり、一瞬動きが詰まる。


その隙に健一と権蔵が対応した。

美樹はすぐには撃たない。

前に仲間がいる。

狙える感染者と、その背後に誰がいるのかを確認し、射線が空いた瞬間だけ引き金を引いた。

空気銃の小さな発射音が響き、奥から走ってきた一体が崩れる。


だが、それで終わりではない。

別の棚からも感染者が現れたため、健一たちはさらに数歩入口側へ下がった。

店内へ深く入り込まず、感染者の進路を入口へ集めることで、背後を取られないようにする。


達也も前へ出すぎず、接近してきた感染者だけをバールで対応した。

一体を倒すことより、誰かが囲まれないことを優先する。

最後まで動いていた感染者を仕留めると、健一はすぐに周囲を確認した。


『全員、大丈夫か?』


『大丈夫』


『こっちも怪我なしや』


なおみが答え、権蔵と達也も頷く。

美樹も空気銃を下ろし、自分の身体に傷がないことを確かめた。


誰も噛まれていない。

出血もない。

それを確認してから、ようやく店内探索へ移った。





◇08月14日 12時台/スーパー/健一、権蔵、達也、なおみ、美樹


五人は米や保存食を優先して店内を探したが、期待していたほどの収穫はなかった。

棚の多くはすでに荒らされている。

米が置かれていた売り場もほとんど空で、保存の利く食品は先に持ち去られたらしく、残っているものは僅かだった。


冷蔵や冷凍が必要だった食品は、停電の影響も加わって腐敗が進んでいる。

店内には鼻につく臭いが漂っていた。

達也が棚を確認しながら顔をしかめた。


『やっぱ、みんな最初に保存食から持ってくよな』


健一も空になった棚を見る。

地震と感染拡大が始まってから、すでに十日ほど経っている。

スーパーがそのまま残っているからといって、必要な物まで残っているとは限らない。

五人は店内を一通り確認したが、持ち帰れる量は多くなかった。

健一は集めた物を見たあと、今日の探索を切り上げることにした。


『電気関係の本は手に入った。ガソリンをどうするかは、一度山小屋に戻って調べよう』


権蔵も頷く。


『いつまでも街におる必要はないな』


なおみが周囲を見回した。


『唯ちゃんたちも待ってるし、一回戻ろう』


異論はなかった。

五人は回収できた物資を持って、腐敗臭のこもるスーパーを出た。


外へ出ると、昼の光が妙に明るく感じられた。

車へ荷物を積み込み、山小屋へ戻る準備を整える。

街へ来る前より、分かったことは増えていた。


電気は止まった。

水道も、いつまで使えるか分からない。


ガソリンは地下に残っていても、今のままでは取り出せない。

そして街の中では、暗くなった建物そのものが新しい危険になっている。

健一たちはバンとバイクを動かし、唯と夏帆が待つ山小屋へ向かった。

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