第5話⑤七人の食卓
◇08月08日 18時台/山小屋/健一、唯、夏帆、権蔵、達也、なおみ、美樹
山小屋の中は、昨日までとは比べものにならないほど賑やかになっていた。
健一、唯、夏帆、権蔵。
そこへ達也、なおみ、美樹が加わり、七人になった。
健一は改めて皆を見渡す。
『じゃあ、ちゃんと紹介しとくよ。こっちが達也さん。ドローンで俺たちを助けてくれた』
達也が軽く片手を上げる。
『達也。よろしく』
『こっちはなおみさん。ガソリンスタンドで会った』
『なおみや。よろしゅうな』
なおみの関西弁に、唯が少しだけ目を瞬く。
『それで、美樹さん。達也さんがずっとドローンで助けてた人』
美樹が小さく頭を下げた。
『美樹です。よろしくお願いします』
今度は健一が唯と夏帆を紹介する。
『こっちが妹の唯。それから幼馴染の夏帆。夏帆は看護師だ』
『唯です。よろしくお願いします』
『夏帆です。よろしく』
一通り紹介が終わる。
それでも、昨日までは知らなかった者同士だ。
最初はどこかぎこちない空気が残っていた。
やがて達也が口を開く。
『しかし、こうして集まってみると……みんな結構めちゃくちゃな生き残り方してそうだな』
なおみが笑う。
『そら、普通に暮らしとったらここにはおらんやろ』
『なおみさんは、なんで一人でバイク乗ってたんですか?』
夏帆が尋ねる。
『ああ、それな』
なおみは少し姿勢を崩し、これまでのことを話し始めた。
【なおみの回想】
◇08月某日/父の家/なおみ
パンデミックが始まってから、なおみはしばらく自宅で生き延びていた。
だが、感染者が増え始める中で気がかりになったのは父親だった。
安否を確認するため、父の家へ向かった。
『お父さん?』
家の中に返事はない。
部屋を一つずつ確認する。
どこにもいなかった。
寝室へ入り、なおみはある場所を確認した。
『……ないな』
隠されていたはずの拳銃。
そして弾。
どちらも消えていた。
《持って出たんやな》
父親がどこへ行ったのかまでは分からない。
それでも武器を持って移動したのなら、ただ無防備に逃げたわけではない。
『まあ、あの親父なら簡単には死なんやろ』
なおみはそう判断した。
代わりに家に残っていた刀と必要な荷物を持ち出した。
自宅周辺にも感染者は増えている。
一か所に留まり続けるより、安全な場所を探して動いた方がいい。
そう考え、バイクで街を移動し始めた。
食料。
水。
感染者の少ない場所。
必要な物を探しながら、何度も場所を変えた。
そしてガソリンスタンドの近くまで来たところで――。
バイクが壊れた。
『こんな時に……』
修理しようとしている間に感染者が集まってきた。
刀など、まともに振ったこともない。
それでも戦うしかなくなった。
そこへ現れたのが健一と権蔵だった。
【回想終了】
『――で、今ここにおるってわけや』
話を聞き終えた達也が、なおみをじっと見ていた。
『……ちょっと待て』
『なんや?』
『拳銃っておかしいだろ!!』
達也の声が山小屋に響く。
唯も驚いた顔でなおみを見る。
なおみは平然としていた。
『うちの親はな、ロシアのスパイやってん』
『絶対嘘だ!』
『世の中には知らんでええこともあるんよ』
『なんだよそれ!』
なおみは楽しそうに笑うだけだった。
達也は納得していない顔をしていたが、それ以上聞いても答える気がないことを察したらしい。
『……もういい』
美樹が小さく笑った。
その美樹へ、今度は唯が視線を向ける。
『美樹さんは……ずっと商店街にいたんですか?』
『うん』
美樹は頷いた。
『達也のドローンに助けてもらってから、ずっと』
【美樹の回想】
◇08月某日/商店街の建物/美樹
達也のドローンに誘導され、美樹は商店街の建物へ逃げ込んだ。
二階へ駆け上がり、入口を家具で塞ぐ。
窓から下を見ると、感染者はまだ建物の周囲を徘徊していた。
それだけではない。
一階からも呻き声が聞こえる。
外にも出られない。
下にも降りられない。
水道すらない部屋で、一人きりだった。
《このまま……誰にも見つからなかったら……》
その時、窓の外からプロペラ音が聞こえた。
ドローンだった。
『聞こえるか?』
達也の声。
ドローンが運んできたのは水だった。
それから達也は何度も戻ってきた。
水。
食料。
一度に運べる量は少なくても、必ず来た。
最初は信用していなかった。
顔も知らない男だった。
それでも、繰り返し戻ってくる声を、美樹は少しずつ待つようになった。
そして数日後の朝。
『今から助けに行く。合図したらすぐ降りてこい』
やがて外から戦う音が聞こえた。
人の声。
健一たちの声。
美樹は入口を塞いでいた家具を退かし、外へ飛び出した。
【回想終了】
『あの時、本当に来てくれるとは思ってなかった』
話し終えた美樹が、達也を見る。
達也は少し不満そうな顔をした。
『何回も助けるって言ってただろ』
『言ってたけど……顔も知らなかったし』
『だからって信用なさすぎじゃね?』
『普通は警戒すると思う』
夏帆が言うと、美樹も頷いた。
『そうだよね』
『いや、俺かなりいい奴だっただろ』
なおみが笑う。
『自分で言う奴は怪しいで』
『お前ら俺への扱い雑じゃない?』
山小屋に笑い声が広がった。
ほんの少し前まで他人だった者たちが、それぞれが生き延びてきた時間を話しながら、少しずつ互いを知り始めていた。




