第5話④権蔵の家
◇08月08日 14時台/市街地の道路/健一、権蔵、達也、なおみ、美樹
古い工事用バンが、荒れた街を進んでいた。
運転しているのは権蔵。
助手席には健一が座り、後部座席には達也と美樹が乗っている。
その後ろを、なおみのバイクが一定の距離を保ちながらついてきていた。
目指しているのは山小屋ではない。
権蔵の自宅だった。
『次の交差点は左じゃ』
権蔵がハンドルを切る。
だが、その先には放置車両が二台、道路を塞ぐように止まっていた。
『ここも駄目か』
健一が前を見る。
『回れます?』
『一本戻る』
権蔵はバンを切り返した。
地震。
事故。
その後の混乱。
街には、まともに通れる道の方が少なくなっていた。
大通りを避ければ感染者との遭遇は減るが、細い道ほど瓦礫や放置車両に塞がれている。
権蔵はそのたびに道を変えた。
『こっちは昔からよう通っとる。遠回りじゃが、さっきの道よりはましなはずじゃ』
達也が後部座席から窓の外を見ている。
『右側、二体いる』
健一も見る。
道路脇を二体の感染者が歩いていた。
こちらへ顔を向ける。
『気づいたな』
『そのまま行くぞ』
権蔵は速度を落とさず通り過ぎた。
感染者は追おうとしたが、すぐに距離が開いていく。
健一はサイドミラーを見る。
後ろを走るなおみも、感染者から十分な距離を取って通過した。
バイクが近づきすぎることもない。
離れすぎることもない。
五人は互いの位置を確認しながら進んだ。
『権蔵さんの家まで、あとどれくらいです?』
達也が聞く。
『もうすぐじゃ』
『銃を取りに行くんだよな』
『それもある』
権蔵は前を見たまま答えた。
『弾も残っとる。食い物も多少あるはずじゃ。今後どうなるか分からん以上、持ち出せる物は持っといた方がええ』
街へ来るたびに、危険は増している。
感染者の動きも速くなっている。
次に権蔵の家へ来られる保証もない。
《回収できる時に回収しておくしかない》
バンはさらに細い道へ入った。
◇08月08日 15時台/権蔵の自宅/健一、権蔵、達也、なおみ、美樹
『着いたぞ』
権蔵がバンを停めた。
山小屋とは別にある、権蔵の自宅。
なおみも少し遅れて到着し、バイクのエンジンを切る。
すぐに家へ入る者はいなかった。
全員で道路や隣家、庭、建物の陰まで確認する。
『感染者は……見えないな』
達也が言う。
『油断せんようにな』
権蔵が剣ナタを手にした。
五人は慎重に家へ近づく。
物音はない。
権蔵が鍵を開け、中へ入った。
『大丈夫そうじゃ』
健一たちも続く。
家の中にも地震の跡が残っていた。
棚から落ちた物。
傾いた家具。
だが大きく崩れてはいない。
権蔵は迷わず奥へ向かった。
『こっちじゃ』
健一が後についていく。
権蔵が立ち止まった先には、頑丈なガンロッカーが置かれていた。
鍵を取り出す。
解錠する。
扉を開いた。
『……まだあった』
中から空気銃を取り出す。
健一が見る。
『それも持っていくんですか?』
『ああ。使える物は持っていく』
続いてペレット弾。
さらに別に保管していた散弾銃用の弾薬を確認する。
『散弾も残っとる』
権蔵は箱を取り出した。
さらにスラッグ弾。
達也が横から覗く。
『結構あるな』
『全部持っていく』
弾薬を一つずつまとめ、バンへ運ぶ。
健一たちも家の中へ散った。
『保存できそうな物を探しましょう』
『了解』
達也と美樹が台所周辺を確認する。
なおみも収納を開け、持ち出せそうな生活用品を集めた。
健一は棚の中を確認しながら、保存の利く食料をバッグへ入れていく。
缶詰。
乾物。
常温で置いておける物。
今は、少しでも長く持つ物の方がいい。
何度もバンと家を往復する。
荷室には少しずつ物資が増えていった。
空気銃。
ペレット弾。
散弾。
スラッグ弾。
食料。
生活用品。
美樹が箱を持って玄関から出てくる。
『これで最後かな』
健一が中身を見る。
『大丈夫そうです』
権蔵も家の中を一通り確認してから外へ出た。
しばらく自宅を振り返る。
だが、感傷に浸っている時間はなかった。
『行くぞ』
荷物が積まれていることを確認する。
全員が再びそれぞれの車両へ乗り込んだ。
バンのエンジンがかかる。
なおみもバイクを始動した。
権蔵の自宅を離れ、今度こそ山小屋へ向かう。
◇08月08日 17時台/山小屋/唯、夏帆、健一、権蔵、達也、なおみ
山道を走っていたバンのエンジン音が、静かな森に響いた。
山小屋の中にいた唯が顔を上げる。
『……車?』
夏帆も手を止めた。
耳を澄ます。
遠くから聞こえる。
次第に大きくなるエンジン音。
『唯ちゃん』
二人は同時に立ち上がった。
玄関へ走る。
扉を開け、そのまま外へ飛び出した。
山道の向こうから、一台のバンが近づいてくる。
見たことのない車だった。
唯の表情が一瞬だけ強張る。
だが。
バンが山小屋の前で止まった。
助手席のドアが開く。
『唯!』
『……お兄ちゃん!』
健一が降りる。
続いて運転席から権蔵。
二人の姿を見た瞬間、唯の全身から力が抜けた。
『よかった……』
夏帆も大きく息を吐いた。
そしてすぐ健一へ歩み寄る。
『遅かったじゃない。心配したんだから』
『それが……色々あってさ』
健一は申し訳なさそうに頭を掻いた。
『昨日からずっと帰ってこないし、連絡もできないし……』
『悪かった』
その時。
バンの後部ドアが開いた。
達也が降りる。
続いて美樹。
唯と夏帆の表情が変わった。
知らない男女。
『……誰?』
唯が小さく呟く。
健一が説明しようとした、その時だった。
少し遅れて、山道からバイクの音が聞こえてきた。
全員がそちらを見る。
バイクが山小屋の前へ停まる。
なおみがエンジンを切り、バイクから降りた。
『やっと着いたわぁ』
唯と夏帆は、さらに目を丸くする。
昨日まで四人しかいなかった山小屋。
そこへ一度に三人の見知らぬ人間が増えていた。
『えっと……』
健一は唯と夏帆を見る。
それから達也、美樹、なおみへ視線を移した。
『とりあえず、中で説明するよ』
全員で山小屋へ向かおうとした。
その途中。
達也が唯を見て、ふと足を止めた。
『あっ』
唯が振り返る。
『……?』
達也は唯の顔をじっと見る。
『もしかして猫の帽子かぶって走ってた子?』
『えっ……』
唯は困惑した。
何を言われているのか分からない。
『ごめんなさい……違います……』
達也は少しだけ首を傾げたあと、すぐ笑った。
『そっか。人違いだな。はは』
それ以上は気にする様子もなく、山小屋へ入っていく。
唯だけがその場に残り、不思議そうに達也の背中を見つめた。
『……猫の帽子?』
夏帆も分からないという顔をしていた。
健一が二人を促す。
『ほら、入ろう』
『……うん』
唯はもう一度だけ首を傾げてから、皆の後を追った。
■唯のサバイバルメモ
・今日のテーマ:散弾銃、空気銃。
皆さんこんにちは。唯です!
今回のお題は『散弾銃、空気銃』についてです。
◇散弾銃
散弾銃という名前の通り、普通はたくさんの小さな粒が入った『散弾』を撃ち出します。
散弾には粒の大きさによっていろいろな種類があって、狙う獲物によって使い分けます。
散弾銃でよく使われるのが12番、いわゆる12ゲージの実包です。
日本では、散弾銃の弾倉に入れられる実包は2発まで。
そこに薬室の1発を加えて、合計3発まで装填できます。
一方で『スラッグ弾』というものもあります。
これは細かい粒ではなく、大きな弾頭を1発だけ撃ち出す弾です。
散弾よりも大きな獲物に向いていて、シカやイノシシなどに使われます。
ほかにも、通常より強力な『マグナム』と呼ばれる実包もあります。
大事なのは、獲物によって使う弾が違うということ。
例えば、ヒヨドリやハトのような小さな鳥にスラッグ弾なんて使いません。
威力が大きすぎて、獲物を必要以上に傷つけてしまいます。
逆にイノシシのような大きな獲物に、鳥猟用の細かい散弾を使っても、十分な効果が得られず、ただ負傷させてしまう危険があります。
だから猟師さんは、獲物に合わせて散弾の粒の大きさやスラッグ弾などを選んでいるんですね。
◇空気銃
空気銃は、火薬ではなく圧縮した空気などの力で弾を飛ばす銃です。
日本で所持できる空気銃は、6発以上入る弾倉を持つことができないので、弾倉は5発までです。
空気を圧縮する方法はいくつかありますが、代表的なのが『マルチポンプ式』と『プレチャージ式』です。
マルチポンプ式は、撃つ前にレバーなどを使って自分で空気を圧縮するタイプ。
プレチャージ式は『PCP』とも呼ばれていて、高圧の空気をあらかじめ銃のタンクに充填しておくタイプです。
今回、権蔵さんの家から持ち出したのはマルチポンプ式の空気銃です。
レバーを何度かポンプして空気圧を高め、弾を装填して撃つ。
撃ったあとは、またポンプして空気圧を高め、弾を装填して撃つ。
これを繰り返して使うタイプの空気銃です。
空気銃で使う弾は『ペレット弾』と呼ばれるものが一般的です。
鉛などの金属で作られた小さな弾で、空気抵抗や飛び方を考えた独特の形をしています。
散弾銃の実包と違って火薬は入っていません。
なので、火薬類としての実包のように『自宅では800発まで』という保管数量の制限はありません。
ただし!
ペレットも法律上は『金属性弾丸』なので、適合する空気銃と同じガンロッカーの中に一緒に保管してはいけません。
『火薬じゃないから、そのへんに適当に置いていい!』というわけではないので注意です。
◇銃の保管
日本では、猟銃や空気銃を自由に持つことはできません。
銃ごとに、都道府県公安委員会から所持許可を受ける必要があります。
そして銃は、基準を満たしたガンロッカーなどに入れて施錠して保管します。
ガンロッカーも、泥棒がロッカーごと持っていけないように、柱や壁などに固定して簡単に運び出せないようにしないといけません。
もちろん鍵の管理も所持者本人が行います。
銃と、その銃に使える実包やペレットを同じガンロッカーに入れておくことも禁止されています。
保管状態は警察の調査や検査でも確認されます。
ちなみに、銃の所持許可を持っているだけでは狩猟はできません。
実際に狩猟をするには、狩猟免許や狩猟者登録なども必要です。
猟師さんって獲物を撃つ技術だけじゃなくて、銃や弾の知識、法律、安全管理まで覚えないといけないんですね。
害獣駆除などでご活躍されている猟師の方々にはほんとに感謝ですね。




