第4話④商店街の女
◇08月08日 09時台/マンション/健一、権蔵、なおみ、達也
健一は最後の荷物を載せると、荷台から降りた。
『これで全部ですか?』
『持っていくのはな』
達也が倉庫を振り返る。
山小屋へ戻る準備は整った。
唯と夏帆が待っている。
昨日の朝に山小屋を出てから、丸一日以上経っていた。
『じゃあ、戻りましょう』
健一が言った時だった。
『待ってくれ』
達也が三人を呼び止める。
健一が振り返った。
達也は少し迷うようにしてから口を開く。
『実はもう一人、助けたい人がいるんだ』
なおみが首を傾げた。
『昨日話しとった人?』
『ああ。美樹っていう』
商店街の二階に取り残されている女性。
達也がドローンで発見し、今まで何度も水や食料を届けてきた生存者だった。
『まだ出られへんの?』
『周りに感染者が残ってる』
達也はドローンを準備した。
『今の状況を見てみる』
四人はモニターの周囲へ集まる。
ドローンが屋上から飛び立ち、街の上空へ出た。
映像が流れる。
道路を越え、建物の間を進む。
やがて閑散とした商店街が見えてきた。
達也は高度を調整し、美樹がいる建物の周辺をゆっくり旋回する。
『……いるな』
道路に感染者が徘徊していた。
健一は画面を見ながら数える。
『一体……二体……』
別の場所にもいる。
『……七体か。昨日より多いな』
権蔵が腕を組む。
『四人で一度に相手をするのは危険じゃ。できるだけ分散させた方がええの』
『ドローンで位置を見ながらなら、何体かずつ引き離せると思う』
達也が答える。
なおみは刀の柄へ手を置いた。
『七体全部いっぺんに来られたら困るけど、分けられるなら何とかなるかもしれへんな』
健一はモニターを見る。
美樹のいる建物。
その周辺を歩く感染者。
助けられる人がいる。
そして、その人は達也がずっと見守ってきた。
『……行きましょう』
権蔵が健一を見る。
『ええのか? 唯ちゃんも待っとるぞ』
『分かってます。だから長引かせない。美樹さんを助けたら、すぐ山小屋へ戻りましょう』
達也が小さく息を吐く。
『助かる』
もう一度、ドローンの映像を確認する。
上空から見える範囲では、感染者は七体。
だが店舗の中までは見えない。
建物の陰や屋根の下も、完全には確認できなかった。
四人はそれぞれ武器を確認した。
健一は薪割り斧。
権蔵は剣ナタ。
なおみは刀。
達也はバール。
『よし。行きましょう』
◇08月08日 10時台/山小屋/唯、夏帆
山小屋の中で、唯は何度目か分からないほど外へ目を向けた。
軽トラックはまだ戻ってこない。
家事は一段落していた。
洗濯も終わった。
必要な物のメモも書いた。
それでも時間が経つほど、落ち着かなくなる。
『まだ帰ってこないね……』
夏帆も窓の向こうを見る。
もちろん心配だった。
だが唯の前で、それをそのまま顔には出さなかった。
『健一達ならきっと無事よ』
唯が夏帆を見る。
『……そうかな』
『そうよ』
夏帆は少し考えてから、わざと軽い調子で続けた。
『唯ちゃんの好きな食べ物でも探してるんじゃない?』
唯が一瞬ぽかんとする。
『……そんなことしてる場合じゃないと思いますけど』
『健一ならやりかねないでしょ?』
唯の口元が少しだけ緩んだ。
『……お兄ちゃんなら、ちょっとありそう』
『でしょ?』
二人で小さく笑う。
不安が消えたわけではない。
唯はしばらくすると、また山小屋へ続く道を見た。
今度こそ車が見えるかもしれない。
そんな期待を込めて。
だが、そこには誰もいなかった。
◇08月08日 10時台/商店街へ向かう道路/健一、権蔵、なおみ、達也
権蔵が運転席。
健一が助手席。
達也となおみは軽トラックの荷台に乗っていた。
車は商店街へ向かって進んでいく。
達也は手元のモニターを確認しながらドローンを操作していた。
美樹がいる建物へ近づく。
達也はドローンのスピーカーを使った。
『美樹、聞こえるか?』
少しして、二階の窓に人影が現れた。
『達也?』
『今から助けに行く』
窓の向こうで美樹が動きを止める。
『ほんとに?』
『ああ。軽トラで行く。合図したらすぐ部屋から出ろ』
『外、感染者がいるでしょ?』
『こっちで何とかする』
達也ははっきり言った。
『合図があったら、迷わず飛び出して軽トラの荷台に乗ってくれ』
少し間があった。
『……分かった』
『それまで外には出るな』
ドローンを再び上昇させ、感染者の位置を確認する。
その情報を頼りに、軽トラックは商店街へ入っていった。
『見えたぞ』
前方に感染者の姿が見え、権蔵が速度を落とした。
健一は斧を握る。
『まず近い奴から倒しましょう』
権蔵が軽トラックを停めた。
すぐに逃げられるようにエンジンは切らない。
四人が降りるが、権蔵はすぐ運転席へ戻れるようにドアを開けたままにしておいた。
一体の感染者がこちらへ気づき、歩いてくる。
少し離れた場所にも二体。
達也がモニターを確認した。
『右の二体はまだ気づいてない。最初の一体だけやれる』
『分かった』
健一と権蔵が前へ出る。
感染者が腕を伸ばした。
健一は届く寸前まで引きつけ、伸びてきた腕の外へ半歩ずれる。
相手の身体が前へ流れたところで踏み込み、頭部へ斧を入れた。
感染者がその場へ倒れる。
『次、右の一体が来るぞ!』
達也の声に、権蔵がそちらへ身体を向ける。
戦闘音に反応した感染者が、少しずつこちらへ向きを変え始めていた。
『美樹さんがいるのはあの建物だな』
健一が二階を見上げる。
窓の向こうに、美樹の姿が見えた。
その時だった。
近くの店舗の奥から、何かが動く音がした。




