↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/76

第4話①即席の四人

◇08月07日 16時台/マンション屋上/健一、権蔵、なおみ、屋上の男


屋上倉庫から出てきた男を、健一は斧を構えたまま見つめた。

聞き覚えのある声だった。


ついさっきまで、ドローンのスピーカー越しに聞いていた声。

健一はゆっくり斧を下ろす。


『……あんたがドローンを?』


『そういうこと』


権蔵も剣ナタから手を離した。

なおみは男と倉庫を交互に見る。


男は屋上の端へ目を向けた。


『ドローンで周りを見てたら、ガソリンスタンドにお前らがいるのが見えてな。そのあと感染者が集まり始めてた』


『あのままあそこにいたら囲まれてただろ。だからここまで誘導した』


二十体を超える感染者。

あの場に留まっていれば、逃げることさえ難しくなっていたかもしれない。

健一は頭を下げた。


『……助かりました。ありがとうございます』


『礼はいい。それより座れよ。見てるこっちが疲れる』


言われて、健一は自分の状態に気づいた。


脚が震えている。

感染者との戦闘に加え、群れから逃げ続け、最後には非常階段を一気に駆け上がったのだ。


なおみも膝へ手をついたまま息を整えている。


『それは……賛成やわ』


男は倉庫の中へ戻った。


『入れよ』


三人も後に続く。


倉庫の中には、段ボール箱やペットボトル、保存食などが並んでいた。

健一は周囲を見回す。


『結構ありますね』


『このマンションの災害用備蓄らしい』


男が水を取り出し、三人へ一本ずつ渡した。


『ほら』


『ありがとうございます』


健一は受け取ると、すぐに蓋を開けた。

喉が渇いていた。


一気に飲みたいところを堪え、少しずつ口へ含む。

冷たくはない。


それでも今は十分だった。

なおみも水を飲み、ようやく大きく息を吐く。


『生き返るわぁ……』


権蔵は倉庫の中を見ながら尋ねた。


『あんたは、ずっとここにおったんか?』


『まあな』


男は壁へ背を預けた。


『パンデミックが始まった頃に、たまたまここを見つけたんだ。下より安全だし、備蓄もある。それに屋上ならドローンも飛ばしやすい』


『なるほどの。あれで周辺を見とったわけか』


『感染者相手に自分の足で偵察するより安全だからな』


健一は先ほどの逃走を思い出した。

曲がり角の先にいる感染者を、ドローンは自分たちより先に見つけていた。


上空から確認できることの利点は大きい。

男が三人を見渡した。


『そういや、まだ名乗ってなかったな。俺は安倍達也(あべたつや)』


健一も姿勢を直す。


『不動健一です』


権蔵が続く。


『佐藤権蔵じゃ』


『うちは矢澤(やざわ)なおみや』


一通り名乗り終えると、達也が少し間を置いた。


『ところで……お前らも特殊赤血球持ちか?』


健一は達也を見る。


『はい。俺と権蔵さんはそうです』


『この状況で外を歩き回って、それでも発症しとらんからの』


なおみが自分を指さす。


『うちもやで。昔、病院で特殊な赤血球を持っとるって言われたことがあるわ』


健一は達也を見る。


『達也さんも?』


『ああ』


達也は当然のように答えた。


『じゃなきゃ、こんなところでドローン飛ばしてる場合じゃないだろ』


四人とも同じだった。

ウイルスに感染しにくいとされる、特殊な赤血球。


なぜ感染しにくいのか。

どの程度まで安全なのか。


そこまで詳しいことを知っている者はいない。

ただ、今この場所で発症していないという事実だけは共通していた。


『で、三人で行動してたのか?』


達也が尋ねる。


『いや。俺と権蔵さんは一緒ですけど、なおみさんとはさっきガソリンスタンドで会ったばかりです』


なおみが肩をすくめた。


『会ったというか、感染者に囲まれとったところを助けてもろたんや』


『なるほど。そりゃ災難だったな』


『あんたのドローンが来んかったら、そのあと全員まとめて災難になるところやったけどな』


達也が少し笑った。


健一は、自分たちが山中の権蔵の山小屋を拠点にしていることを話した。

そこには妹の唯と、幼馴染の夏帆が待っている。


『じゃあ、お前らも物資を探しに街まで来たのか?』


『ガソリンが必要だったんです。暗くなる前には戻るつもりだったんですけど……』


健一は倉庫を出て、屋上からガソリンスタンドの方向を見る。

道路にはまだ感染者の姿があった。


ガソリンスタンド周辺にも何体か残っている。

そして軽トラックも、あそこへ置いたままだ。


『……あそこまで戻るのは無理そうですね』


権蔵も隣から街を見下ろす。


『焦って戻って囲まれたら元も子もない。しばらく様子を見るしかなかろう』


『でも……』


唯と夏帆が待っている。

何時までに帰ると約束して出てきたわけではない。


それでも、これほど遅くなるとは二人も思っていないはずだった。

達也が後ろから言った。


『だったら、しばらくここにいろ。水くらいならある』


健一が振り返る。


『いいんですか?』


『助けといて今さら追い出してどうすんだよ』


なおみが達也をじっと見る。


『変わった人やな』


『初対面でそれ言うか?』


『褒めてんねん』


『絶対嘘だろ』


なおみが笑う。

健一も思わず少し笑った。


張り詰め続けていた空気が、わずかに緩んだ。





◇08月07日 20時台/マンション屋上倉庫/健一、権蔵、なおみ、達也


日が沈み、街は暗闇に包まれ始めていた。

四人は屋上倉庫で休みながら、それぞれパンデミック発生後のことを話していた。


達也はドローンを使い、極力自分では外へ出ずに周囲を偵察している。

健一と権蔵は山小屋周辺の状況や、街で遭遇した感染者について話した。

なおみも、一人で移動してきたことを話す。

全員がすべてを語ったわけではない。


知り合ったばかりだ。

完全に信用し合っているわけでもない。


それでも、少なくとも今この場にいる者同士に敵意がないことは、少しずつ分かってきた。

話の途中、達也が言った。


『そういや、ドローンで見た生存者はお前らだけじゃない』


『他にもいたんですか?』


『何人か見たな。遠くから見ただけの奴もいるけど、生きてる人間はまだいる』


『やっぱり……』


特殊赤血球保有者が自分たちだけではない以上、当然どこかに生存者はいる。

だが実際に目撃したという話を聞くと、健一は少し安心した。


達也はしばらく考えるように黙った。

やがて、三人を見る。


『なあ』


『なんです?』


『俺もずっと一人でここに籠もってるつもりはない』


健一たちは黙って聞く。


『この状況じゃ、一人でできることなんて限界がある。物資を取りに行くにも、感染者と遭遇した時にもな』


達也は倉庫に積まれた備蓄へ目を向けた。


『ここの物資を分けてやるから、一緒に行動しないか?』


健一は思わず権蔵を見る。

突然の提案だった。


だが達也のドローンがどれほど役に立つかは、すでに身をもって知っている。

何より、素性も知らない自分たちを助けた。

権蔵が腕を組む。


『わしは反対する理由はないの』


『うちも一人に戻るより、その方がええわ』


なおみはつい数時間前まで一人で行動し、感染者に囲まれていた。

健一も少し考えたあと、達也を見る。


『俺もいいと思います。ただ、俺たちの拠点には唯と夏帆もいます』


『分かってる。それも含めてだ』


『じゃあ……よろしくお願いします』


達也が手を差し出す。

健一はその手を握った。


権蔵となおみも、それぞれ意思を示す。

パンデミックの中で偶然出会った四人。


その場で決まった、即席の協力関係だった。


挿絵(By みてみん)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。