第2話⑤刀を持つ女
◇08月07日 14時台/ガソリンスタンド付近/健一、権蔵
健一と権蔵は、ガソリンスタンドの敷地へ近づいた。
昼を過ぎ、真夏の日差しが強く照りつけている。
噛まれた場合の感染リスクが分からない以上、肌を露出するわけにはいかない。
厚着した身体には熱が籠もり、健一の額から何度も汗が流れ落ちた。
『……暑い』
袖で汗を拭う。
だが、脱ぐ気にはなれなかった。
少し離れた道路では感染者が一体、目的もなく歩いている。
健一は斧を握ったまま、その動きを確認する。
午前中だけで何度も感染者と戦った。
最初の頃に比べれば、距離の取り方も少しずつ分かってきた。
それでも、慣れたとは思いたくなかった。
人間の姿をした相手へ斧を振り下ろした時の感触は、まだ手に残っている。
『健一』
『はい』
『感染者だけ見とるな。周りも見とけ』
さっき見つけた、すでに倒されていた感染者。
あれを倒したのが誰なのかは分からない。
だが、自分たち以外の誰かが、この周辺を通った可能性は高い。
健一はガソリンスタンドだけでなく、周囲の建物や道路脇、放置された車の陰まで警戒した。
人が潜んでいてもおかしくない。
『誰かいるなら、話ができればいいんですけどね』
『まともな相手ならの』
権蔵の言葉に、健一は黙った。
感染者だけが危険とは限らない。
ラジオでは暴動が起きているとも伝えていた。
生存者だからといって、無条件に信用できるとは限らなかった。
それでも――。
街には、まだ百人以上の特殊赤血球保有者が生き残っている可能性がある。
自分たちだけではない。
誰かと協力できれば、この先できることも増える。
その時だった。
『……権蔵さん』
健一が足を止めた。
ガソリンスタンドの方から、何か音がする。
物がぶつかる音。
続いて、人の声。
『誰かいる』
二人は顔を見合わせた。
すぐに武器を構え、音のする方へ慎重に近づいていく。
建物の陰を抜ける。
そこで健一は目を見開いた。
『……っ!』
女性がいた。
その周囲には、複数体の感染者。
女性は逃げ場を失い、感染者たちに追い詰められていた。
『権蔵さん!』
健一が叫んだ。




