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第6話 騎士団無双(実力証明編)

「こちらです」


アルトに案内され、ミレイナは騎士団の駐屯地へと足を踏み入れた。


村から少し離れた場所にあるその施設は、想像していたよりも簡素だった。

石造りの建物と訓練場、いくつかの倉庫。


だが、空気が違う。


剣の音。

怒号。

そして、どこか張り詰めた緊張感。


「思ったより……厳しい環境ですね」


ミレイナが呟くと、アルトは短く答えた。


「辺境だからな」


それだけで、すべてを語っているようだった。


建物の奥へ進むと、独特の匂いが漂ってくる。


血と、薬草と、そして――


「……毒の匂い」


ミレイナは足を止めた。


「分かるのか」


「ええ」


アルトはわずかに頷く。


「こちらだ」


案内されたのは、負傷兵のための簡易医療室だった。


中には数人の騎士が横になっている。

そのうちの一人は、明らかに状態が悪かった。


「団長」


近くにいた騎士がアルトに気づき、敬礼する。


「新しい薬師を連れてきた」


その一言で、視線が一斉にミレイナへ向けられた。


好奇心、疑念、そして――不信。


(当然ね)


若い女。

しかも見た目は戦場とは無縁。


信じろという方が無理だ。


ミレイナは気にせず、重症の騎士へ近づいた。


腕から肩にかけて黒ずんでいる。

呼吸も浅い。


「……これは」


「三日前にやられた」


近くの騎士が言う。


「応急処置はしたが、悪化してる」


ミレイナはすぐに患部を確認する。


(遅い……でも、まだ)


完全に手遅れではない。


だが、普通の処置では間に合わない。


「水と布を。あと、火を強くしてください」


指示を出すと、騎士たちは一瞬ためらった。


その空気を感じ取ったのか、アルトが一言だけ言う。


「従え」


それで全員が動いた。


ミレイナは手際よく準備を進める。


薬草を取り出し、刻み、混ぜる。


その動きには一切の無駄がなかった。


騎士たちの視線が、徐々に変わっていく。


(見られてるわね)


だが気にしない。


今は一秒でも早く処置を終えることが重要だ。


「少し痛みます」


そう言って、患部を洗浄する。


騎士が苦しそうに呻く。


だが手は止めない。


「耐えてください。ここで止めます」


低く、はっきりとした声。


その言葉に、周囲がわずかに静まる。


薬を塗布し、さらに飲ませる。


そして――


「……これで、止まるはずです」


ミレイナは静かに手を離した。


数秒。


誰も声を出さない。


やがて、変化が現れる。


黒ずんでいた部分の進行が止まり、わずかに色が戻り始めた。


「……おい」


「止まってるぞ」


騎士たちがざわめく。


「ありえない……」


誰かが呟く。


三日間、何をしても止まらなかった毒が、今目の前で止まったのだ。


ミレイナは立ち上がり、手を拭く。


「命は助かります。ただし、しばらくは動かさないでください」


淡々とした声だった。


だがその一言が、どれだけ重いか。


騎士たちは理解していた。


「……すげえ」


ぽつりと誰かが言う。


それをきっかけに、空気が変わる。


疑念が、驚きへ。

驚きが、尊敬へ。


ミレイナはその変化を感じながらも、次の患者へ向かう。


「次の方を」


その言葉に、騎士たちはすぐに動いた。


先ほどまでとは明らかに違う。


命令ではなく、自然と従っている。


次の患者は軽傷だったが、処置の手際に再びざわめきが起きる。


「早い……」


「しかも正確だ」


「今までの薬師と全然違う」


小声があちこちから聞こえる。


ミレイナはそれを無視し、淡々と仕事を続けた。


やがて一通りの処置が終わる。


静寂。


そして――


「……すまなかった」


最初に声をかけてきた騎士が、頭を下げた。


「正直、疑っていた」


「当然です」


ミレイナはあっさり答える。


「私でも同じ立場なら疑います」


その言葉に、騎士は少しだけ笑った。


「でも今は違う」


顔を上げ、まっすぐに言う。


「頼む。これからも、力を貸してくれ」


それは命令ではなく、願いだった。


ミレイナはほんの少しだけ考え――


そしてうなずく。


「できる範囲で」


その答えに、騎士たちは安堵したように息をついた。


アルトはその様子を、少し離れた場所から見ていた。


「……予想以上だな」


小さく呟く。


ミレイナが振り向く。


「何か問題でも?」


「いや」


アルトは首を振る。


「むしろ逆だ」


一歩近づき、低く言う。


「あなたを招いた判断は正しかった」


その言葉に、ミレイナは一瞬だけ言葉を失う。


評価された。


それも、領主から。


だが――


「まだ始まったばかりです」


そう答える。


アルトはわずかに目を細めた。


「そうだな」


その声には、ほんのわずかに満足が混じっていた。


ミレイナは周囲を見渡す。


まだ苦しんでいる者もいる。

治療が必要な者もいる。


やることは山ほどある。


「では、次の方を診ます」


その一言で、再び場が動き出す。


騎士たちが動き、指示が飛び、処置が続く。


その中心にいるのは――


もはや“ただの薬屋の女”ではなかった。


騎士団を支える薬師


その存在へと、確実に変わっていた。


そしてこの日を境に、騎士団の中で一つの認識が生まれる。


――あの人がいれば、死なない。


それはやがて、領地全体を変える力となっていく。




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