十八話:デンデデン公社と転用承諾番号
【第一章:中田のばあちゃん宅】
夕暮れ時、古びた平屋の居間。
脚立の上で、伊頭が不慣れな手つきで天井の電球ば外しよった。下では中田のばあちゃんが、落っこちはせんかと心配そうに見上げとる。
「よっしゃ、これで良か。でも、ばあちゃん、次からはLEDの方がよかよ。寿命も長かし、電気代も安くなる。俺がこうやって脚立に乗る回数も減るしね」
伊頭がにこやかにしゃべると、ばあちゃんも嬉しそうに返した。
「およ、そうかいね。伊頭さんにはいつも悪かねぇ。LEDっちゅうとは、そげん長持ちするとね?」
そんとき、固定電話がプルルルルと鳴ったと。
「はいはい、中田です……えっ? デンデデン公社? ……安くなると……? 承諾番号? え、えーっと……」
ばあちゃんの顔がみるみる困惑に染まっていく。それば見たコジが、スッと横から受話器ば奪い取った。
「あーそれ、必要なかです。 二度とかけてこんでください」
ガチャン、と勢いよく切る。
「コジさん、今の人は『安くなる』って言うてたよ?」
「ばあちゃん、それが罠たい。最近は『転用承諾番号』ば聞き出して、勝手に契約ば切り替える強引な勧誘詐欺が多かとよ」
伊頭が脚立から降りながら、丁寧に説明ばした。
「特に『ルーターの交換が必要』とか『今すぐ安くなる』とか言ってくるやつは要注意や。音声案内とか怪しか電話やったら、すぐに切ったほうがよかねー」
【第二章:調査部屋】
事務所に帰ってきた二人。
伊頭らは、山代小百合に中田のばあちゃんの生存報告ばせなならんかった。電球ば替えに行くのも、定期的に様子ば見に行く理由の一つやったけん。
「コジ、ちょっと携帯ば借りるバイ。小百合さんに待ち合わせの連絡ば……よし、送信。19時に駅前の喫茶店で了解ってさ」
最近、コジにメールの使い方ば教えてもらったばかりの伊頭は、どこか得意げな顔しとる。
スマホば返した瞬間、また着信音――画面には「非通知」の文字。
「ん? またっすか?(ニヤリと笑って)……もしもし?」
「お世話になっております! デンデデン公社……近くの代理店のタナカです。お客様のエリアで光回線の料金が大幅に安くなるキャンペーンを……」
コジが伊頭に目配せ。伊頭は「乗れ」とジェスチャーで合図。
「へぇ、安くなるとですか? それは助かるなぁ(棒)。でも電話じゃよく分からんスから、直接会って説明してもらえんすか?」
「えっ! ……あ、はい! もちろん伺います! 今すぐでも!」
「ちょうど今から、駅前の喫茶店で、お友達と会う予定なんですよ。そこでどうですか?」
【第三章:喫茶店】
喫茶「十路人」にて、コジが一人で待っとった。
スーツをだらしなく着こなした男が、意気揚々と店に入ってくる。その目は明らかに「カモ」ば探しとる。奥のテーブルには涼しい顔のコジ、後ろの席ではコジのスマホと格闘しとる伊頭が座っとった。
「あ、お電話したタナカです! 今日は「転用承諾番号」の発行手順を……」
「はじめまして、お呼びたてしてごめんなさいね。もう少ししたらお友達も来ると思うので、少し待って頂けますかしら」
コジが標準語でおしとやかに答えたもんやけん、後ろの席から*「ブパッ!」と紅茶ば吹き出す汚か音が聞こえてきた。
数分後、喫茶店のドアが開く。
「――お友達の山代小百合さんは、とっても可愛い子なんですのよ。あら、来たみたい」
にこやかな顔で入口ば見たコジやったが、次の瞬間、顔の引きつった。
現れたのは、小百合やなくて、ガタイの良か強面の男――山代やった。
「こちら、お、お友達の……山代…………小百合?さんです」
震える声で紹介するコジ。逃げられんように、山代がどっしりと男の隣に座り込む。
「山代たい。ほぉ……デンデデン社の代理店っち言うたげなな。身分証と、契約の重要事項説明書ば見せてもらおうか。あと、さっき電話で言ったらしか『強制的に切り替わる』っち言葉の法的根拠もな」
男の顔から一瞬で血の気が引いた。
伊頭が後ろの席からひょいと顔ば出す。
「これ、実際にあった手口そのまんまやね。まぁ、グレーっちゃグレーばってん。総務省が注意喚起しとる『強引な転用勧誘』っぽいけど。狙いは、デンデデンからの成果報酬か?継続的な通信料か?転用承諾番号さえ聞き出せば、あとはなーんもせんで永続的な不労所得ば得る。そんなところやろ?安かなるとか、メアドは変わらんとか、都合のよか事ばっか言うとりんしゃあが……さて、かわいーか山代さんに……もとい警察に相談するか、ここでじっくり俺たちの『調査』に協力するか、どっちがよかね?」
好きな方ば、選びんしゃいと、伊頭は言いよった。
山代はニヤニヤしとる。
コジがようやく落ち着きを取り戻し、冷めたコーヒーを一口すすって静かに告げた。
「ばあちゃんば困らせた罪は、高かばいねー、こわかー」




