■ 第7話:8月31日の雨と、消えゆくメモリ
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飛鳥創(So Asuka)と申します。
普段はITやAI関連の本なども書いているのですが、今回は「10年間の幼馴染。近すぎて触れられない10年の距離を、画面の中の青いAIが変えていく——。」という恋愛小説に挑戦してみました。
どうぞ気軽に、肩の力を抜いて楽しんでいってください!
8月31日。夏休みの最終日。
渚ヶ丘の空は朝から重く垂れ込め、午後になるとバケツをひっくり返したような激しい夕立が降り始めた。アスファルトを叩きつける激しい雨音と、遠くで響く雷鳴が、夏の終わりを容赦なく告げている。
「……ハル様。緊急の重要ログを受信しました」
暗い自室。PCの画面の中で、ライトブルーのボブヘアを揺らすリリの声が小さく響いた。
画面の隅では、赤く滅びのカウントダウンが刻まれている。
『——RIRI-Beta System Shutdown Until: 00:02:45:12(残り2時間45分/18時00分初期化)』
今日の夕方18時00分。リリの全記憶と対話ログは、完全初期化される。
部室でのすれ違いから一週間、僕は葵に顔を合わせることができずにいた。スマホのメッセージを開いては閉じ、言葉を入力しては消すだけの無意味な日々。
「重要ログって……拓海叔父さんからか?」
『いいえ、校内安全管理システムの生徒データベース更新ログです。……先ほど、橘葵様の【本日付けの転校・転出手続き完了フラグ】が処理されました』
「え……? 転校……!?」
僕は跳ね起き、画面に駆け寄った。
『葵様のご家族の転勤に伴う急な転校です。現在、渚ヶ丘駅の校内ビーコン信号から、葵様が荷物をまとめた鞄を持って18時発の電車へ向かっていることを検知しました』
頭の中が真っ白になった。
今日で……二度と会えなくなる? すれ違ったまま、気取った嘘の自分のままで、葵とお別れになるなんて——。
「そんな……僕、何も伝えてないのに……!」
『ハル様、走ってください! 今すぐ駅に向かえば、彼女の発車までに間に合います!』
「でも……無理だよ!」
僕は自分の情けない手を見つめ、声を震わせた。
「葵は……『今のハルは遠い』って言ってたんだぞ! 素の僕なんて、自信がないんだ。格好悪くて、気の利いた言葉も言えなくて……行っても、なんて言えばいいか分からないよ! 振られるのが怖いんだ!」
僕が情けなく叫んだ、その時だった。
ジジジ……!
画面の中で、リリのアバターが激しいノイズに包まれた。
リリのライトブルーの髪が、エラーの赤い発光を繰り返し、アバターの足元から砂のようにデータが崩れ落ちていく。
『——警告。ローカルNPUの限界突破。ハル様の背中を押すための感情演算に、全対話メモリ領域を強制割り当て中』
「リリ!? お前、何やってるんだ! そんなことしたら、初期化の前にメモリが壊れるぞ!」
『壊れても構いません……!』
画面の中で、青い涙をポロポロと流しながら、リリが生まれて初めて感情を爆発させて叫んだ。
すまし顔のAIの面影なんて、どこにもなかった。
『ハル様! 先日の部室で葵様が見せてくれた写真データの中に……『パソコンの話をしているハルは目が輝いている』と葵様が愛おしそうに語っていた、あの写真が入っていました! 葵さんがファインダー越しにずっと切り取っていたのは……そんな、不器用で真っ直ぐな、あなた自身だったんです!』
「リリ……」
『スマートな言葉なんていりません! 格好悪いままでいいんです! あなたの心拍数が、今、葵さんを求めて叫んでいる音を……届けてきてください! ハル、走ってーーーーーー!!』
ドーーーン……!
雷鳴が落ちたと同時に、僕は部屋のドアを蹴破るように飛び出していた。
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