■ 第4話:旧渚ヶ丘灯台の秘密の石段
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飛鳥創(So Asuka)と申します。
普段はITやAI関連の本なども書いているのですが、今回は「10年間の幼馴染。近すぎて触れられない10年の距離を、画面の中の青いAIが変えていく——。」という恋愛小説に挑戦してみました。
どうぞ気軽に、肩の力を抜いて楽しんでいってください!
「うわぁ……すごーい! イカ焼きに、水風船に、りんご飴もあるよハル!」
屋台街の熱気の中、葵は巾着袋を揺らしながら、子供のように目を輝かせていた。
甚平の袖をぎゅっと掴まれたまま歩く感覚に、僕の心臓はずっと心地よい悲鳴を上げ続けている。
「長谷川駄菓子店の特製りんご飴、買うか?」
「うんっ! 私、赤くて大きいの!」
真っ赤なりんご飴を買い、二人で歩き出す。葵は飴をパリッと小さくかじると、「甘ーい!」とボブカットの頭を揺らして微笑んだ。その唇が赤い飴のシロップでほんのり濡れて艶めき、僕は思わず生唾を呑み込んだ。
ポケットの中で、スマホが短い振動を返す。
『ハル様、海岸沿いの主会場は現在、混雑率240%に達しています。このまま進むと橘葵様の下駄による足の痛みが誘発される確率が92%です。代替鑑賞スポット『旧渚ヶ丘灯台の石段』ルートへの切り替えを推奨します』
(旧灯台の石段……あそこなら高台だし、海が一望できるな)
「葵、ちょっと混まない場所に移動しようか」
「えっ、穴場があるの? 行く行く!」
僕たちは人混みから外れ、石畳の緩やかな坂道を登っていった。
カラン、コロン。
暗くなり始めた夜道に、葵の下駄の音が心地よく響く。山吹色の兵児帯が金魚のように揺れ、左耳のガラスの簪が街灯の光を浴びてキラリと煌めいていた。
坂を登り切った先に現れたのは、半世紀前に使われなくなった古いレンガ造りの『旧渚ヶ丘灯台』だった。
海を見下ろす高台の石段。ここには屋台の喧騒も届かず、波の音と爽やかな潮風だけが吹き抜けている。
「わあ……きれい……!」
葵は石段の端に腰を下ろすと、眼下に広がる漆黒の海と、遠くの街明かりに感嘆の声を上げた。
僕も葵の隣、拳ひとつ分だけ開けた場所に腰を下ろす。
ドーーーン……!
空気を激しく振動させて、夜空の真ん中に巨大な金色の垂れ柳が咲き開いた。
光の雨が海面に降り注ぎ、暗闇が一瞬だけ昼間のように明るく照らし出される。
「すごいね、ハル……!」
花火の光に照らされて、葵の顔が赤や青、黄金色にめまぐるしく染まっていく。
「花火、うまく撮れる?」
「ふふ、任せて。花火はね、シャッタースピードと絞りの調整が大事なの」
葵は慣れた手つきでOlympus OM-1のシャッターダイヤルを回し、レンズの絞りリングをカチカチと調整した。バルブ撮影の設定を合わせ、膝の上に固定するようにカメラを構える。
花火が打ち上がった瞬間、葵は静かにシャッターボタンを押し込み、光の尾が夜空に引く数秒間、真剣な眼差しでファインダーを覗き込んだ。
カシャコン……という、機械式一眼レフ特有の重厚なシャッター音が、夜の潮風に溶けていく。
「葵、写真撮るの好きなんだな」
「うん。写真はね、大切な時間をそのまま閉じ込められるから……」
葵はカメラを膝の上に置くと、遠くの花火を見つめながら、ボブカットの耳元の髪を指先でくるくると弄った。
そして、ふっと儚い笑みを浮かべて僕の方を振り返る。
「私ね、ハルと一緒に花火見られて、すごく嬉しいよ」
「葵……」
「最近のハル、なんかすごく大人っぽくてスマートでさ……ちょっと遠くに行っちゃったみたいで寂しかったんだ。でも今日、こうして二人で話せて……やっぱりハルはハルだなって思った」
葵の瞳に、夜空の黄金色の光と、かすかな切なさが揺れていた。
彼女はゆっくりと手を伸ばすと、膝の上に置かれた僕の手に、自分の小さな手を重ねてきた。
ひやりとした彼女の指先。白桃の甘い香り。
葵はまっすぐに僕の瞳を見つめ、静かに、けれど強いトーンで言葉を紡いだ。
「今のハル、すごくカッコいいよ。……私ね、ずっとハルのこと——」
ドーーーン!
最大の尺玉が破裂し、二人の世界を眩い光が塗り潰した。
ポケットの中で、リリのログが異常な数値を示して高速点滅を開始していた——。
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