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第24話:夏季休暇企画2

 週末の定期試験を無事突破し、マリオンはサイモンと共に侯爵邸に戻った。


 マリオンが夕食の席で、トビアスについてヒルデガルトに話したところ「あなたは充分気を付けて」と言われるだけだった。


 自分の部屋で豊穣の神や愛の神にも聞いてもみたが「頑張りなさい」と言われるだけだった。


 神様は、基本的に人の世界の営みに口出ししないのだと、マリオンは朝食の後でヒルデガルトに言われた。


(あんまり頼りになら無い神様よね……いえ、「神に頼らず生きて行け」ということなのかしら)



 ヒルデガルトも古代魔法は便利すぎて使うのが怖いと言っていた。


 本来、人は人の持つ力で目の前の障害を乗り越えていくべきなのだろう。


 人の力でどうしようもなくなったときにだけ、神は手を差し伸べてくるのかもしれない。


 マリオンは一人部屋の中で、そんな事を考えていた。



 今日はザフィーアが午後から集まる日だったので、マリオンはサイモンと一緒に午前中を『蜃気楼』鍛錬に充てた。


 やはりグランツが始まると、休日の午前中から十二人全員が集まる、というのは大変な様だった。




「そう、サイも古代魔法や神託について知ってしまったのね」


「申し訳ありません母上」


 マリオンたちは植物園で知ってしまったことを、ヒルデガルトに報告していた。



「いえ、知ってしまったのならしょうがないわ。知らないのが一番だったけど、知ったなら知ったで、マリーの身を守るよう動くこともできるでしょう。特にそのトビアスという子の動向には気を付けて」


「母上もトビアスは要注意人物だと感じているのですか?」


 ヒルデガルトは困ったような顔で頷いた。


「そうね。留学時に諜報部が素性調査から行っていて、自己申告との齟齬は見られなかったはず。でもヴィークス王国が彼の素性を偽っていた場合、それを見抜くのは難しいわね。そうなれば平民というのも、本当かどうか怪しいものよ」


 ヒルデガルトは言葉を続ける。


「帝国解体から七年が経過したわ。その時から準備をしていたとしたら、彼の魔力検査の結果を隠蔽された可能性があるの。貴族だったら平民の限界である三等級を超える魔力を持っていても不思議じゃない。それを隠蔽して三等級の平民としてこちらにきてる可能性もあるわね」


「私たちのように、精霊眼で強い魔力を得た、ということではないのですか?」


 ヒルデガルトが首を横に振りながらマリオンの言葉を否定する。


「お父様の話では、精霊眼だから特別強い魔力を持つ、ということはなかったそうよ。ただ、魔術の才能に秀でた者が多いとだけ仰ってたわ」


 ヴォルフガングはかなりの魔術フリークだ。当然各国の魔術に関する情報も収集した。その彼が知らないのであれば前例はないのだ――少なくとも、表向きの事実に関しては。



 ヒルデガルトは言葉を続ける。


「トビアスはヴィークス出身の平民で、父親は不明、母親はヴィークスにまだ住んでいるそうだけど、平民の生活を営んでいるわね。トビアスは自己申告通り、十歳から精霊眼の特待を受けて地元で一番の学校に通い、主席の座を守り続けた子。十二歳で魔力検査を受けて三等級の判定を受け、学業で優秀だったからと昨年、留学の話を打診されて、レブナントがそれを受けたのよ」


(諜報部ってそんな事まで調べちゃうのか。こわいとこだなぁ)


 サイモンがヒルデガルトに尋ねた。


「その母親の素性は調べたのですか?」


「ええ。彼女はヴィークスより北の出身らしいわ。でもそれ以上はヴィークスではわからなかった。他の国も洗ってみたけど、まだ帝国解体時の混乱が残る時期に移動したみたいなの。いつ頃、どこから移動してきたのかまでは、ハッキリと分からなかったそうよ」





 午後から魔術講義に集まったザフィーアのみんなと、トビアスに関する話題を共有した。


 結局、「やはり彼は要注意だ」という結論に至った。


 マリオンは翌日は古代魔法の鍛錬を行い、夕方寄宿舎へ戻った。





****


 ――王宮・王妃執務室。


 ヒルデガルトとクラウディアが向き合ってお茶を飲んでいる。室内には二人きりだ。



 ヒルデガルトが口を開いた。


「言われた通りの範囲でトビアスの事を伝えておいたわ」


「そう、ご苦労様。あとは息子たちの活躍を期待するだけね。他の子に出し抜かれないといいんだけど」


 ヒルデガルトが眉をしかめた。


「本当に大丈夫なの? 危険過ぎない?」


 クラウディアは儚い微笑で応える。


「大丈夫よ。少しは自分の子供たちを信じなさいな。それに、万が一の為に私たちも動いている。対応はできるわよ」


 ヒルデガルトが大きくため息を吐いた。


「二十年前に叱りつけてから、きちんと相談してくれるようになったのは良いんだけど……ほんとクラウは悪巧みが好きよね」


「あら、私は相手の悪巧みに乗っかってるだけよ? ついでに尻尾も掴めそう、となったら乗っからない手はないじゃない?」


 ヒルデガルトが苦笑した。


「そういう所、本当に変わらないわね」


「そう? ありがとう。あなたも二十年前と変わらないわよ? だから怒らせないように、こうして相談の上で動いてるんだもの」


 クラウディアが楽しそうにくすくすと笑った。





****


 ――五月。マリオンがグランツで生活するようになって一か月が経過した。


 学業は順調で、トビアスに不穏な動きは今のところ見られなかった。


 いつものように十三人の斉唱がカウンターに鳴り響き、皆でテーブルに着いた。



「七月から夏季休暇だな。またみんなでどこかに行くか?」


 マーセル王子の言葉に、ララが顔を歪めた。


「また視察でもする気? もうあんな目に遭うのは沢山よ?!」


「かといって、国内旅行ってのも味気ないしなー」


 スウェードがぼやく。


 レナは「あら、別に国内でもいいじゃない。みんなでのんびりできれば」と反論していた。


 トビアスがララに尋ねた。


「あんな目って、どんな目に遭ったんですか?」


 ララが顔を歪めたまま応えた。


「殿下たちの北方国家視察に付いて行って、私たち女子が死にかけたのよ。ほんと、よく生還できたわよね」


「うわ、それは大変でしたね……」


 サンドラも「もう北は当分行きたくないわね」と口にした。


 アミンが口を開く。


「かといって、暑い時期に南に行くのも嫌ですしね……」


 アランがそれに応える。


「南の方では、暑い時期に海で泳ぐそうですよ?」


 マリオンが突っ込む。


「年頃の淑女に、海で泳ぐ姿を男子に晒せと?」


 アランがさわやかな笑顔で応える。


「あなたたちは涼しい。僕たちは眼福。両者両得ですよ?」


 マリオンの白い眼を受けても、アランのさわやかな笑顔が曇る事はない。


 オリヴァー王子が、苦笑しながら提案をしてきた。


「丁度、西方国家と南方国家視察の話が出てはいる。俺はどちらかに行くことになると思うが、付いてくるかはみんな次第だ」


 マリオンが尋ねる。


「どちらに行くか、選べるんですか?」


 オリヴァー王子が頷いた。


「今からなら間に合う。ただ、遅くても一週間以内に返事をしないと、先方の受け入れ準備があるからな」


 マーセル王子が話を補足する。


「どちらも沿岸部に行けば海がある。滞在拠点を沿岸部にすれば、海水浴はできると思うぞ」


 サイモンがトビアスに話を振った。


「トビアス、お前は付いて来たいと思うか?」


 驚いたようにトビアスが反応した。


「え?! ザフィーアでの行動じゃないんですか? それなら私が着いて行くわけにはいかないでしょう」


 マーセル王子が頷いた。


「そうだな。公務に付いて行くんだ。ザフィーアぐらい親しいならまだしも、知り合って一か月のトビアスを同行させるのは難しい」


 サイモンがオリヴァー王子に尋ねた。


「だが、無理という訳でもないんだろう?」


「まぁ、俺やマーセルが絶対に連れて行く、と言えば通るとは思うが」


 サイモンがトビアスに再び尋ねた。


「トビアスは西と南、どちらがいいと思うんだ?」


「そうですね……南方国家には大きな古代遺跡があるそうですし、どうせ行くなら南に行って遺跡も見てみたいですね」


 サイモンがマーセル王子を見て口を開いた。


「トビアスも連れて行けないか、少し検討してみてくれないか?」


「あー、まぁ検討するぐらいなら構わないが……本気か?」


 サイモンは頷いてそれに応えた。


 マーセル王子はサイモンの目をしばらく見つめた後「わかった」と返事をした。





****


 ――夜の女子寄宿舎。


 窓がノックされ、一か月ぶりに年少組がやってきた。


 マリオンは当たり前のようにシーツを被せられている。



「よっ! やはり風呂上りはセクシーだな。マリーであれば尚良かったんだが」


「尚更見せる訳がないでしょう!」


 サンドラの手刀がマーセル王子の脳天に炸裂していた。



 部屋にはローテーブル周りに男子が四人。


 椅子の上とベッドの上に女子が四人。


 つまり年少組勢揃いだ。




 マリオンが尋ねる。


「昼間のサイ兄様が言い出したこと、どういうつもりだったんでしょうね」


 マーセル王子が応える。


「そのことだが、既に男子の方で意見のすり合わせは終わっている。あとは女子の同意を得るのみ、ということで今夜はやってきた」


「つまり、サイ兄様には考えがあってあんなことを言った、ということですか?」


 マーセル王子が頷く。


「長期間、マリオンの周囲に奴を置いておくのは危険だ、という判断だな。虎穴に入らずんば虎子を得ず。多少危険でも、早期に奴の尻尾を捕まえたい。そういう判断のようだ。そして奴は西方と南方で、南方を選んだ。これだけでもいくらか狙いが絞れた」


 サンドラが「どういうことなの?」と尋ねた。


「西方国家は教会の勢力が強い地方だ。その西方を選ばなかった――つまり奴は、教会の息がかかった奴ではない。少なくとも、マリオンが教会の手に落ちる事を望んでいない可能性が高い」


 ララが「南方国家を選んだことはどうなの?」と尋ねた。


「南方国家群は、古き神を信仰する地域が残る。古代魔法に近しい地方、と言えばいいか。そしてトビアスは古代遺跡に興味を示した。奴は古代遺跡と古代魔法について知っている可能性が出て来た訳だ。北方国家群出身で古代魔法について多少なりとも知っているとなれば、帝国の古代魔法の使い手に近しい人間である可能性が高まった」


 マリオンは不安になって、マーセル王子に尋ねる。


「そんなトビアスを連れて行って、危険はないの?」


「南方国家群は北方国家の影響が薄い。帝国解体で勢力が各地に散ってしまったかもわからないが、南方で強い力を持つのは古くからの商家だ。例え北方国家の勢力が暗躍したとしても、痕跡を隠し通すのは難しいだろう。レブナント王国は南方国家とは太いパイプでつながっている。北方国家とは比べ物にならない程度には安全だろうさ」


「トビアスを南方に連れて行って、尻尾を捕まえることは出来るの?」


「それは行ってみないと分からんな。あまり危険な場所にマリーを連れて行きたくないというのが俺たちの総意だ。道中の奴の行動、そして古代遺跡での奴の反応を見て、得るものがあれば、といったところだな――仮に古代遺跡で神の気配を感じても、マリーは見てみぬふりをしておけ。だが奴が神の気配を感じるようであれば止めろ」


 レナが手を挙げて質問をした。


「古代遺跡と神の関係が解らないんだけど?」


「ああ、そういえば伝えていなかったな――これも国家機密だが、ヒルデガルトは古代遺跡で神との邂逅を果たした。そこで古代魔法について教わったそうだ。トビアスにも同じことが起こらないとも限らない。注意だけはしておいてくれ。これで異存はないな?」




 マリオンたちが頷くのを確認すると、男子たちは部屋から去っていった。





 マリオンたちはローテーブル周りに座り直し、紅茶を飲みながら意見交換をした。


「トビアスを含めての南方国家視察かー」


「海水浴ってのはよくわからないけど、水着姿を晒すのはちょっと困るわね」


「あら、サニーがそんなことを言うだなんて意外ね。部屋着を見られても平然としてるのに」


「マリーの水着を見せたくないのよ。あいつらだって、マリーの水着以外眼中にないわよ」


(あ、そういうことですか……)


「でもマリーと男子を引き離すのは危険だからできないし、水に入れないんじゃ南方は暑いだけよ。私たちにはいいことがなさそうね」


「私が水着姿を見せられるとしたらサイ兄様ぐらいかしら。でも兄様一人じゃ限界もあるだろうし……水に入るのはやっぱり無理そうね」


「もしかしたら安全に海水浴する手があるかもわからないから、水着の用意だけはしていきましょうか」





 こうして、マリオンたちの南方国家遠征プランが決定されたのだった。


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