第11話:神託
ファルケンシュタイン公爵家の庭――伯爵邸とは比較にならないほどの広さを持つそこに、ヒルデガルトとヴォルフガングは居た。
本家からは公爵家当主ルドルフ、公爵家嫡男ライナー、ルドルフの弟ユルゲン。
招待客はヴィンケルマン公爵、ブラウンシュヴァイク辺境伯、レーカー侯爵、シャーヴァン辺境伯……つまりクラウディアたちの父親だ。
極めつけはカール・パトリック・フォン・レブナント――そう、レブナントの国王である。
既に着席している錚々たる顔ぶれに、ヒルデガルトはただただ呆然としていた。
何も知らされずにお茶会に来たら、レブナント王国の重鎮が軒並み顔を揃えていたのだ。仕方あるまい。
ヒルデガルトがヴォルフガングに、震える声で尋ねた。
「……お父様、なんなんですの、この集まりは」
ヴォルフガングは今の身分こそ伯爵だが、前公爵家当主にして前筆頭宮廷魔術師。この中に居ても浮くことはない。
だがヒルデガルトの身分は、ただの伯爵令嬢である。精霊眼を持ってるだけの、ただの女の子だ。
この豪勢な集いに何故自分が呼ばれたのか。彼女にはさっぱり理解できなかった。
カール国王がヒルデガルトたちに気づき立ち上がった。
ゆっくりとこちらに近づいてくる。王者の風格を身に纏った男だ。その姿に、ヒルデガルトは更に萎縮してしまう。
そのまま、呆然としていた彼女を出迎えた。
「ああよくきたね、ヒルデガルト。いつも息子が世話になっている」
その声は優しく、ヒルデガルトを気遣う気さくなものだった。
だがそれに気づく余裕が、ヒルデガルトにはない。
「いいえ陛下! 恐れ多い! わたくしこそ、いつも殿下にご迷惑ばかりおかけしております!」
ヒルデガルトは深々と淑女の礼を取った。ガチガチに緊張しているのが傍目にもわかる程だ。
(さすがに! 王様は! まだ! 無理!)
社交界で戦う覚悟を持ったヒルデガルトだが、国家最高権力者は未体験ゾーンだ。不意打ちで即応しろ、というのが酷なのかもしれない。
そんな緊張で固まったヒルデガルトを、カール国王が笑い飛ばした。
「はははは! 息子に軽口を叩ける君は、どこに行ったんだい? そんなに固くなることはないよ」
(軽口……私の発言、全部伝わってるのね)
当然、フランツ王子傍仕えの者からカール国王へ報告は上がる。
今度から口には気を付けよう、とヒルデガルトは心に誓った。
国王から促されて彼女は礼を解き、案内されるままに椅子に腰を下ろした――国王の右隣りに、である。
(何故陛下の隣に?!)
彼女の右側にはヴォルフガングが居るが、それでは足りずに緊張で硬直している。
器用に左半身だけがガチガチになっているヒルデガルトを見て、カール国王も苦笑いを浮かべた。
ヒルデガルトは十五歳の少女。その左手すぐ傍に国家最高権力者である。緊張するなと言う方が無理な話なのかもしれない。
(プレッシャーきついですわー……)
嫌な汗が止まらず、必死に淑女の微笑を維持するよう努めていた。
ヴォルフガングは愛娘の姿を微笑ましく見守っている。
主催者である公爵家当主ルドルフが周囲を見渡した後、大きく手を叩き、声を張り上げた。
「さぁ、全員揃ったね。お茶会を始めよう!」
給仕が丁寧にお茶を運んでいく。
ヒルデガルトは緊張を紛らわすように一口、紅茶を含む。
(上等な物のはずだけど、一切味を感じないわ……)
国内最高峰の茶葉である。その味を感じないとは、実にもったいない話だ。
そんな彼女を見て、カール国王がヒルデガルトの背中を優しくポンと叩き、気さくに語りかける。
「だから、そんなに緊張しなくていいんだよ。いつもの君を見せてくれ」
結構な無理難題だろう。余りにも参加者が豪華すぎるのだ。
だがヒルデガルトは閃きを得た。周囲に居る参加者を見渡し、それを確認する。
――これは、国防に携わる人間ばかりだ。そう気が付いたのだ。
クラウディアたちの父親は四方の守護軍それぞれを司る最高指揮官。
ルドルフも、公爵家当主であると同時に宰相だ。国政の中心人物である。
ユルゲンは諜報部。国外の情勢を持ち帰ってくる職務を持つ。
ライナーは何故居るのか解らない。自分と同じ枠なのだろうか、と彼女は考えた。
ヒルデガルトは隣にいるカール国王を見上げ、おずおずと尋ねた。
「……もしかして本日は、帝国の動向に関するお話をされるのですか?」
ヒルデガルトの質問を聞き、カール国王は満足そうに頷いた。
「うん、聞いていた通り、聡明な子だね」
カール国王は彼女にそう伝えると、ヴォルフガングに目線で促した。ヴォルフガングもそれに頷きで返す。
そうしてヴォルフガングが口火を切る。
「――では、改めて私からお話ししましょう」
ヒルデガルトが豊穣の神と交信したこと。
それによって、帝国が古代魔法を手に入れる寸前であると知ったこと。
帝国が古代魔法を手に入れた場合、この王国は三年後に滅びることを予言されたこと。
ここまでをかいつまんで説明していった。
(私の古代魔法については、やはり秘密なのね)
ヴォルフガングはカール国王にだけは全てを伝えている。だが、この場に居る全員に知らせる気はないので隠したのだ。
他の人間も、必要な時がくればその時に伝えられるだろう。だがそれは今ではない。それだけの話だ。
北方守護最高司令官、ブラウンシュヴァイク辺境伯がまず口を開いた。
「北方の問題であるなら、我々北方守護が最も動かねばなりませんな。今は六月。山脈が雪に閉ざされるまで、あと四か月以上ある。その間に山脈にある古代遺跡を破壊するのが最善でしょう」
東方守護最高司令官、レーカー侯爵がそれを否定する。
「いや、今、軍を動員するのは不味い。山脈は帝国領でも王国領でもない緩衝地帯。そこで帝国軍を襲撃すれば、宣戦布告ととられかねん。レブナント王国に、他国へ侵攻する意思があると思われる訳にはいかん」
今すぐ軍を動員するのは難しい、というのがレーカー侯爵の言い分だ。
少なくとも東方国家群は折衝して話を通しておく必要があるだろう。
でなければ小康状態の東方国家群がハチの巣をつついた騒ぎになり、また争乱の日々に戻ってしまう。
カール国王は二人の意見を聞いてから一度頷き、ユルゲンに確認を取るように問いかけた。
「ユルゲン、帝国の動向はどうだったのだ」
ユルゲンが、優雅にお茶を口に運びながら応じる。
「そうですねぇ。その遺跡に眠っているものの解析は、かなり進んでいるとみてよいでしょう。兵器の量産体制を整えている様子がありました。おそらく、魔道具に古代魔法を封じて使うつもりなのでしょうね。調達している素材や技師から類推すると、携行型火砲の類だと思いますよ」
彼はのんびりとした口調で、穏やかじゃない情報を口にした。
古代魔法の火力を撃ち出す携行型火砲の量産。
古代魔法の使い手が居なくても一般兵士がその火力を振るえることを意味する。
実現すれば、戦線を維持するのは不可能だろう。帝国に蹂躙されるのは、火を見るより明らかだ。
(それにしてもユルゲン様、陛下相手でものらりくらりとしてるのね……)
ヒルデガルトはユルゲンのマイペース振りにびっくりしていた。
だが、帝国最高機密ともいえる開発中の兵器の情報を、ここまで掴んで来たのだ。並大抵の実力ではないだろう。
カール国王がユルゲンに重ねて尋ねた。
「どれくらい猶予はあると思う?」
「そうですねぇ……その神様の言う通り、一年以内には完成するんじゃないですか? 今のうちに遺跡を破壊してしまえば、未完成の魔道具は大した脅威にはならなそうでした。私は、年内の遺跡破壊をお勧めしますよ」
そう言ってユルゲンは再びカップに口を付けた。
”時間を置けば脅威になりかねないので早々に目を積んでおいた方が良い”ということだ。
カール国王が唸り、その目をルドルフに向けた。
「ルドルフ、お前の意見はどうだ」
ルドルフも静かに紅茶を含みつつ応えた。
「年内、というのであれば、今から大規模な軍を動員する時間はないでしょう。相手は古代遺跡だ。北方守護全軍を動員しても、破壊できるかどうかは未知数です。遺跡を破壊できなければ、そこに充分な防衛戦力を割く必要もある。そうした準備をしている間に、山脈は雪に閉ざされてしまうでしょう。そして軍を動かせば帝国との全面衝突は避けられませんし、それに合わせた諸外国との折衝も時間がありません。わが軍が他国に侵攻したとなれば、現在小康状態にある東方国家群を刺激し、争乱を誘発しかねない――ですので、仮に年内に軍を動かすとしたら、少数精鋭による特殊部隊の隠密行動、という形になるかと」
”年内という縛りなら、少人数の隠密行動しか選択肢はない”というのが摂政であるルドルフの意見だ。
そして”古代遺跡なんて本当に破壊可能なのか?”という疑問の提起まで行われた。
少なくとも、グランツの傍にある古代遺跡は人間の手で傷を付けられるような代物ではない、というのがこの場に居る者たちの共有知識だ。
同種の遺跡だった場合、やはり破壊自体は不可能となる。
国王が再び唸りながら考え込んでしまった。
(そうよね、国家存亡の危機ですものね……失敗は許されない。そして下手に諸外国を刺激して、多方面から攻め込まれるような状況を作るわけにもいかない)
国家存亡の危機ではあるが、情報の出元が神託などという、荒唐無稽なもの。だがヴォルフガングが持ち込んだ情報を、カール国王は無視できなかった。
まともな軍議にかけるわけにもいかず、信頼できる者たちとのお茶会、という形で会合を設けたのだ。
(でもそれなら、なぜ私やライナー様が呼ばれたのかしら?)
カール国王の目がヴォルフガングに注がれた。
「ヴォルフガング、お前には何か妙案はあるか」
ヴォルフガングものんびりとお茶を口に運びながら応えた。
「大規模な軍は各国を刺激するので直ぐには動かせない、少数精鋭では心許ない。そもそも、古代遺跡を破壊する方法など解らない。この状況下で、山脈が雪に閉ざされる前に遺跡を破壊しなければなりません」
カール国王が頷き、ヴォルフガングは言葉を続ける。
「となれば、まずは遺跡を調査する必要があります。専門家を派遣し、破壊、もしくは無力化する方法を見つけ出す。だが、それを帝国に気取られてはならない。なかなか面倒な状況ですな」
ヴォルフガングは人の悪い笑みを浮かべていた。
(あ、これは何か考えてるな)
ヴォルフガングが言葉を続けた。
「ひとつだけ、方法がありますな」
「その方法とは?」
国王が続きを促し、ヴォルフガングが応える。
「シュテルンの次の研修先を、その山脈の古代遺跡にしましょう。学生たちの研修、という形で遺跡に近寄り、遺跡を護衛する戦力を無力化し、速やかに破壊する。こんなプランはいかがですか?」
さも名案、のようにとても良い笑顔でヴォルフガングは言い切った。
一方、ヒルデガルトは愕然とした。
「は?!」
ヒルデガルトは勢いよく立ち上がり、ヴォルフガングを見下ろしていた。
「どういうことですの?! わたくしたちに、古代遺跡を破壊する大任を任せると、そう仰いましたの?!」
ヴォルフガングはにっこりとヒルデガルトを見上げながら「そうだよ?」と応えた。
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カール国王はまだ難しい顔をしている。
「そのようなこと、シュテルンの生徒たちに可能なのか? 優秀とはいえ、まだ学生だ。いくらお前が引率につくとはいえ……」
ディーターが十四歳、他は十五歳のメンバーだ。経験なんてろくに積んでいない。国家の命運を預けるのにはあまりにも心許ない。国王の顔はそう物語っている。
ヴォルフガングは飄々と応える。
「前回と同じく、魔術騎士を一隊同行させます。それに、生徒らの力を合わせれば、魔術騎士にも引けは取らないでしょう。立派な少数精鋭ですな。それに加えて、わが国で私以上に古代遺跡に詳しい者がいるとも思えない。適任、だとは思えませんか?」
魔術騎士、それも選抜された精鋭一隊であれば、少数精鋭として十分だ。そこに生徒たちが加わったとして、足手まといにはならない、というのがヴォルフガングの判断だった。
そして確かにレブナント王国において、長年研究していたヴォルフガングより古代遺跡に詳しい者は居ない。彼ならば遺跡の解析に適任だ。
カール国王はまた唸りながら考え込んでしまった。
ヴォルフガングは追撃の手を緩めない。
「なに、失敗しても時間の猶予はまだあります。今回は最悪でも遺跡の情報を持ち帰ってこられれば良い。失敗したら持ち帰った情報を以て対策を練り、雪に閉ざされている間に遺跡を破壊するプランを考案し実行する。これで来年の雪解けまでには間に合うでしょう。逆に、タイムリミットは来年の雪解けです。その時点で破壊できていなければ、軍を大規模に動かさざるを得ない。ルドルフには今から諸外国との折衝を開始させ、雪解けまでに下地を作ってもらう。これでどうですか?」
カール国王がヴォルフガングを厳しく見つめながら問う。
「……お前たちで、遺跡を破壊することが可能だと、そういうのか?」
ヴォルフガングは笑みを崩さず応えた。
「国内の特等級魔術師三人が揃うのですよ? これに娘の神託が備わる。むしろ、これで破壊できないのであれば、軍でも破壊は不可能でしょう」
カール国王は一度目を瞑ってゆっくりと深呼吸した後、カッと目を見開いた。
「解った。雪解けまでに事態が解決せねば、山脈の古代遺跡はブラウンシュヴァイク辺境伯、お前の軍で占拠し防衛するのだ。それでよいな?」
ブラウンシュヴァイク辺境伯は「はっ!」と短く返答し頭を下げた。
古代遺跡をレブナント軍が占拠したことが知られれば、帝国が本気で侵攻してくるのは避けられない。
高山での防衛線ともなれば、数の有利を取ることは難しい。
取れる戦術も限られてくる。補給線もか細く、いつ終わるとも知れない、泥沼の熾烈な戦いになるだろう。
ブラウンシュヴァイク辺境伯に、その過酷な最前線で指揮を取れと、カール国王は言ったのだ。
防衛する古代遺跡が落とされれば、国家が滅びる最悪の事態になる。こちらも責任重大だ。
(ルイズのお父様がそんな戦争の最前線に……そんなこと、絶対にさせない!)
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話がひと段落した空気を受けて、ヒルデガルトはヴォルフガングに尋ねた。
「ところで……何故わたくしやライナー様がこのような席に呼ばれているのですか?」
「言っただろう? 前回と同様だと。ライナーは魔術騎士の精鋭だ。次回も隊長として来てもらうことになる」
主戦力の隊長である。事態を正確に把握しておいた方が良い。
ヴォルフガングの意思決定ができない状態に陥った場合、その代理となることもあるだろう。
「ライナー様はそれで解りましたけど、わたくしが居る理由が分かりませんわ」
(私、この場に居る必要性、ないよね?)
シュテルンに打ち明ける時、一緒に話を聞けば済むのだ。確かにこの場に居る必要性はない。
ヒルデガルトが困惑していると、唐突にカール国王が笑い出した。
「はははは! 私が君の神託を実際に見てみたかったのさ――どうかな? 今この場で、神託を受けられるかな?」
まるで子供がおもちゃを見るような、期待に満ちた眼差しでカール国王はヒルデガルトを見つめている。
国家存亡の危機を報せたという神の言葉を、その目で確かめたいのだ。
「それは……やってみないとわかりませんが」
「では、やってみせてくれ」
カール国王は楽しそうにヒルデガルトを眺めている。
やってみせるまでは、納得しそうにない。
(しょうがない、やってみるか)
期待されているのは神託、ということは神に質問し、その答えを伝えればカール国王は満足するだろう。
ヒルデガルトはカール国王に、質問の内容を確認する。
「では、何をお聞きになりたいですか?」
「そうだな、今決まった事が、今後どうなるか。予言を貰ってみてくれ」
「解りました」
ヒルデガルトはカール国王に頷いてから、目を瞑ってイングヴェイの気配を探りだす。
(うーん、イングヴェイの気配はあるけど、この場所まで彼の声が届くかな……おーい、イングヴェイ、聞こえるー?)
『ああ、聞こえるとも』
前回よりも明瞭な声が返ってきた。
(実はねー。今偉い人たちとお話してたんだけど――)
『ああ、見ていたから解っているよ。良いプランだと、私も思う』
(……それだけ? 成功するかどうかは解らないの?)
『そこは神の試練、とでも思ってくれ――私にもあまり確かな未来、というものは見えないんだ。神は万能ではないからね』
(そっかー。成功率はどのくらいあると思う?)
『君の頑張り次第、だな』
(うぇー、責任重大過ぎない? 私、国家の存亡を背負うの?!)
『君にしかできない事だからね。仕方がない』
ヒルデガルトに対しての殺し文句である。
(しょうがない、がんばります……)
『うん、頑張りたまえ』
ヒルデガルトが目を開けた。周囲の人間は、どこか感銘を受けたかのような顔をしていた――彼女は神託の間、自分の身に何が起きているのか。その自覚がない。
彼女はきょとんとしながらも、神託の内容を告げる。
「良いプランだと言われました。でも、成功するかどうかは、わたくしの頑張り次第だ、とも。神様も、未来のことはよくわからないそうです」
カール国王は頷きながら返事をした。
「そうか……神が太鼓判を押すなら、私ももう異存はない。しかし、それが神託、か。なんとも神々しい魔力だった」
その時の感覚を思い出すかのように、少し遠い眼をしてカール国王は語った。
ヒルデガルトは自覚がないので、やはりきょとんとしている。
「神々しい魔力、ですか?」
「ああ。ヒルデガルト、君の魔力が、神託を受けている間、変化していたんだ。我々はそれに、畏怖ともいうべき感覚を覚えた」
場に居る全員が頷いた。
魔術には、他人の魔力を感知する術式がある。
魔力の制御に長けてくると、他人の魔力を検知する能力が備わってくる。それを強化する術式だ。
精霊眼と違って目には見えないが、肌で感じることができる。
精霊眼を持つヒルデガルトには不要なので彼女は習得していないが、基礎的な術式だ。
神託が始まった瞬間、異変を感じたその場の人間全員が、その術式を用いて彼女の魔力を精査していた。
(でも、イングヴェイと話をしてる間、そんな変化が私にあったのかー)
ヒルデガルトには自覚症状がない。魔力の変化など、まったく実感はないだろう。
カール国王の顔が一同を向いた。
「解っているとは思うが、神託の事は我々だけの機密だ。決して教会には漏らすなよ」
ヒルデガルト以外の、場に居る全員が「はっ!」と短く返答し、頭を下げた。
周囲はとっくに人払いされている。使用人の姿はない。
神託の直前、ヴォルフガングによって魔力遮断の結界まで周囲に張られていた。彼は古代魔法の鍛錬中、ヒルデガルトが神と会話する時、その魔力が変化していることに気が付いていたのだ。
たとえ外部からこの場を覗いていたとしても、神の気配を感じることは不可能な場だった。
用意周到な神託の場だった、と言えよう。
(お父様ったらいつの間に……)
神託に影響がなかったのは、魔力遮断の現代魔術を貫通して会話をする程度、神なら朝飯前なのだろう。そうヒルデガルトは結論付けた。
ヴォルフガングは人の好い笑みを浮かべていた。狙った通りの場所に話を落とせたのでご満悦なのだ。
彼は実に満足げに紅茶を口にしていた。




