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第10話:夜会での激突

なんで推敲してると文字数がモリモリ増えていくんでしょうかね?

 休日――普段なら、『蜃気楼』の鍛錬をする朝の時間。



 ヴォルフガングは「これからしばらくは、古代魔法の鍛錬に切り替えよう」と言い出した。


「お父様、古代魔法をご存じなのですか?」


 ヒルデガルトは驚いて聞き返した。失われた古代魔法の鍛錬法を、ヴォルフガングが知っているとは思わなかったからだ。


 ヴォルフガングは頷いて応える。


「まぁ、伝承のいくつかを知っている、と言う程度だがね。それよりも大事なポイントは、お前が今使っているのが魔術だ、ということなんだ」



(当たり前なのでは?)



 ヒルデガルトは小首を傾げた。


 そんな彼女に、ヴォルフガングは優しく話を噛み砕いた。


「馬車の中で見せたあれは、不完全な古代魔法なんだ。古代魔法と現代魔術の合いの子、といえばわかりやすいかな?」



 ヴォルフガングは正確にヒルデガルトの使って見せた古代魔法版『蜃気楼』を見抜いていた。


 あれは神――イングヴェイの魔力を用いただけで、形式自体は現代魔術なのだ。



「古代魔法はもっと、直接結果をイメージしていいんだ。途中経過や理論など、無関係に結果が現れる。それが古代魔法だからね」



 つまり、『蜃気楼』の術式をもっと簡略化してしまっていい、ということだ。


 この世の法則を飛び越え、神が応じるのであれば魔力=結果という、身も蓋もない式すら成立させてしまうのが古代魔法なのだから。


 その真価をヒルデガルトが知るのは、もう少し後の事になるだろう。


 今の彼女は現代魔術で概念が固まってしまい、古代魔法が本来持つ柔軟性を生かせていないのだ。



「面白みがありませんわね……でも、私がそれを覚えておく必要があるのですね?」


 ヴォルフガングは頷く。


「身に着けておいて欲しい。だが、古代魔法を人前で使うのは極力避けるんだ。普段は魔術で凌いでくれ」



 元々、魔法は秘術である。滅多に人前で使うものではない。


 同じように、古代魔法も秘匿しておけ、ということだ。


 ヒルデガルトは『蜃気楼』を乱用してしまっているが、それはヴォルフガングが全盛期から使い倒していて『有名だからセーフ!』、ということでしかない。



「わかりました。それで、鍛錬とはどうするのですか?」


「まず、慣れている『蜃気楼』を古代魔法に置き換える練習から始めよう。やり方は簡単だ。途中を飛ばして結果だけイメージすればいい」


 ヒルデガルトは頷いた。


「わかりました」



 さっそくヒルデガルトはイングヴェイに『自分の意のままに動く分身を作りたいから力を貸して』と願った。


 集まってくる魔力を束ね操り、もう一人のヒルデガルトを作り出した。



 その様子を見ていたヴォルフガングが、首を横に振った。


「惜しいね。もっと直接的でいいんだ。お前は今、火を媒介にした」


 確かにヒルデガルトは火を作ってからそれを『蜃気楼』にしていた。既に癖として馴染んでしまった動作なのだ。それは矯正されなければならないものだ。


「媒介すら要らない。魔力を直接『蜃気楼』に編み込んでごらん」



 ヒルデガルトは頷いて『蜃気楼』を作り直す。


 再び魔力が集まってくるので、魔力をそのまま自分の姿に編み上げていく。



「――なるほど、魔力の消費が全然違いますわね」


 媒介を省いた分、『蜃気楼』が完成するまでの時間も圧倒的に早い。


 その上、古代魔法は維持する魔力も殆ど神が担うので、術者のヒルデガルトはまるで疲れない。


(古代魔法……反則では?)



 今、ヒルデガルトの横では、もう一人の彼女が飛び跳ねて喜んでいる。


(自律行動型の制御すら、まるで違う――私は”喜んでいる自分”をイメージしているだけ。細かい制御など一切していないのに、立派に自律行動が成立している)


 消耗が著しく激しい自律行動型の『蜃気楼』だというのに、これなら何日でも維持できそうな気がした。


 訓練すれば、古代魔法版『蜃気楼』を維持したまま、睡眠をとる事すら可能かもしれない。



「古代魔法って、とんでもないポテンシャルを持っているのですね……」



 未だヒルデガルトは古代魔法の真価を知らない。


 だがその片鱗は理解していた。


 現代魔術や現代魔法で古代魔法に打ち勝つのは不可能だ。


 力を貸す神に依存するが、扱う魔力の規模が桁違いなのだから。


 帝国が古代魔法を軍事力に組み込んだとしたら、レブナント王国に限らず、対抗できる国家は存在しない。


 そのことを、彼女も理解した。



 ヴォルフガングはヒルデガルトの言葉に頷いた。


「なんせ、古き神々の叡智だからね。神話の世界の力だ。私の人生の集大成すら、その足元にも及んでいない、というのは情けないが……神の力だ。人の力が及ぶ訳もないしね」


 ヴォルフガングの声に、どこか寂しい色があった。ヒルデガルトはそれに必死で反論した。


「そんな! お父様の『蜃気楼』だって素晴らしい魔法じゃありませんか! 古代魔法が反則なだけですわ!」


 だが、ヴォルフガングは苦々しく笑う。


「私が目指したのは、その古代魔法だからね。だけど、新しい目標ができた。現代に古代魔法を蘇らせてくれたお前に、感謝すら覚えているよ」


 そう言って、ヴォルフガングは吹っ切れたように笑い直していた。


 新しい目標――残る生涯を、古代魔法に匹敵する魔法を開発することに費やすのだ。




「しかし、やはりお前は起用だね。こうも簡単に古代魔法を操れるのだから――いや、それだけお前は豊穣の神に愛されている、ということかもしれないね。神がお前に力を貸してくれているんだ」


「わたくし、本当に変な方々から好意を寄せられてばかりですのね……」


 ヒルデガルトの口から大きなため息が口を衝いて出た。


 だがヴォルフガングは感慨深げだ。


「豊穣の神が言う事が真実なら、私とお前を引き合わせてくれたきっかけ、その精霊眼を与えてくれたのも豊穣の神だ。それにも私は感謝しているとも」


 ヒルデガルトもその言葉で気が付いた。


 ヴォルフガングやノルベルトに出会えたことも含めて、イングヴェイのおかげで今のヒルデガルトがあるのだ。


 彼女が愛を知るきっかけをイングヴェイは作った。


 そう考え、ヒルデガルトはイングヴェイに対して感謝の念を感じ始めた。


「そう……ですわね。彼に、感謝しなくてはなりませんね。わたくしに愛を教えてくれた、今を与えてくれた、彼に」


 ヒルデガルトがそう言うと同時に、イングヴェイの気配が少し近づいた。


 驚いたヒルデガルトは思わず気配を手繰り寄せ、彼に語りかけていた。



(――イングヴェイ?)


『おや、少しは私を信頼してくれたのかな? 君の声が近づいたね』



 イングヴェイの声が返ってきた。


 とても小さくて遠いが、確かに彼の声だ。


 ヒルデガルトは、邸からでも彼と会話できる程度には彼の事を信頼し始めたのだ。





****


 ヒルデガルトはその後、ヴォルフガング指導の元で古代魔法の鍛錬を行った。


 従来の魔術理論に凝り固まったヒルデガルトの頭を、まずはほぐすことから始めていた。


「やっぱり、面白みがないですわ……」


 そう彼女がぼやくと、ヴォルフガングは「お前は考えることが好きだからね」と、楽しそうに笑った。





 昼食を取り、午後になるとクラウディアたちがお茶会をしにやって来た。


 いつものようにガゼボに座り、五人でお茶と会話を楽しんでいく。



 クラウディアがお茶を口に運びながらヒルデガルトに尋ねてきた。


「今夜の夜会はいらっしゃるの?」


 今夜はアストリッドの友人に招待された夜会がある。


「もちろん伺うつもりですわ――でも、きっとライナー様もこられるのでしょうね」


 ヒルデガルトはそれを思うと、ため息を禁じ得なかった。


 アストリッドが笑いながらヒルデガルトの肩を叩いた。


「一曲踊るだけで終わるんだから、またちょっと我慢するだけさ」


 エミリは一口クッキーをかじった後、苦笑いを浮かべながら言った。


「もう横恋慕の噂は止められないから、ライナー様が諦めるのを待つしかないんだよねー」



 社交界では既にヒルデガルトとライナーが親密になりつつある、という噂が出始めていた。


 危惧していた通りの状態だ。



「次にライナー様が夜会に出て来られれば、多分ベルトが立ち塞がると思うわ。でもそうなったら今度は”ファルケンシュタイン伯爵家が本家に楯突いた”と噂されるのでしょうね」


 憂鬱な顔で、再びヒルデガルトがため息を吐いた。



 本家に楯突いた、などという噂はノルベルトの立場を悪くするだけなのだが、これ以上はノルベルトも看過できない。


 ヒルデガルトも、自分がライナーと親密だ、等という噂を許容できない。


 ファルケンシュタイン公爵家本家に楯突くノルベルトの派閥に与する人間は極少数となるだろう。それは彼の活動に大きく響いてくる。


 今後どうなろうと、次からはライナーを拒絶するしか二人には道がないのだ。



 クラウディアが優しく笑った。


「大丈夫。公爵家に楯突いてでも、婚約者を守ろうとするノルベルト様を支持する人たちも、必ず現れるわ。悪いことばかりじゃないはずよ」


「そうなるといいのですけれどね……」



 ヒルデガルトの憂鬱な気分が晴れないまま、彼女は夜を迎えた。




****


「どうしてあなた方がいらっしゃるのかしら?」



 その日の夜、ヒルデガルトが会場で出会ったのはフィル・ブランデンブルクとハーディ・ドレフニオクだった。


 予想外の相手過ぎて、ヒルデガルトの頬が思わず引きつっている。



 フィルはいつものように微笑みながら軽妙に笑った。


「ははは! 招待状を持っているから入場した。それだけですよ? それがどうかしましたか?」


 ハーディも、その横でニヤリと笑みを浮かべている。


(何を考えているのかわからないわ……)



 噂通り、フィルの周囲には淑女が集まっていた――ハーディを避けるようにしていたが。


 黄色い声に優しく応えつつ、フィルたちはヒルデガルトにまっすぐ近寄ってきたのだった。



「ライナー様だけでお腹一杯だというのに、あなた方までいらっしゃるの?」


 ヒルデガルトは淑女の笑みを崩さぬように努めながら、険を込めて問うた。


「そう邪険にしないでください。せっかくの素敵な笑顔だ。もっと笑ってください」


 そう言って手を掴んで来ようとするのを、彼女は一歩退いて避ける。


 そのまま彼女は、ノルベルトの傍に向かう。


「わたくし、ベルトに話がありますの。では失礼」


 ヒルデガルトは会釈もせずにその場を立ち去った。





 ヒルデガルトはノルベルトの傍にそっと佇んでいる。気分は最悪で、ため息をついてばかりだ。


「ふぅ。今日は厄日かもしれませんわね」


 ノルベルトは黙って彼女の肩を抱いていた。


 彼女はワインを一口飲み、深呼吸をする。


(そろそろ、ライナー様がおみえになる時間ね。気合入れておかないと)


 フィルたちはヒルデガルトを眺めているだけだ。彼女には、彼らの目的が分からない。


 周囲の淑女を捌きつつも、フィルとハーディの目は彼女を向いている。


(この二人にも、早く諦めて欲しいんだけどなー)



 挨拶回りが終わったアストリッドたちが、ヒルデガルトたちに合流する。


「まーた今日はとんでもない飛び入りが来てるね。荒れないといいんだけど」


 ヒルデガルトは気合を入れて虚勢を張った。


「今日はベルトが防波堤をしてくれる約束ですもの。問題はないはずですわ」


 「ね?」と彼女はノルベルトと目を合わせる。ノルベルトは微笑んで「もちろんですとも」と応えた。


 ヒルデガルトは、今日のノルベルトの笑顔を普段より頼もしいと感じていた。





 そうして会場にライナーが現れる。


 フィルを上回る黄色い声援が飛び交っていた。


 フィルの周りにいた淑女の半分がライナーに向かっていった。


 ハイスペックな未婚の公爵家嫡男だ。その人気は根強い。


 フィルの周りに残った淑女たちは、ライナーに目もくれずフィルを眺め、話しかけている。


(周りに残ったのはフィル様に惚れている方々、ということかしら。あの人も罪な方ね)



 ライナーは押し寄せる淑女たちには目もくれず、真っ直ぐヒルデガルトに向かってくる――いつものように。


 そうして彼女の前に辿り着く寸前、遮るようにノルベルトが立ち塞がった。



 ライナーはいつもの笑みを浮かべながら口を開く。


「……やぁノルベルト。なにか用かな? 私はヒルデガルトに一曲お願いしに来たのだが」


 今夜のノルベルトは引く気がない。笑みを消し、真っ直ぐライナーを見据えた。


「そろそろ、お戯れもお止めください。ヒルダは私の婚約者だ」



 二つの視線が火花を散らしていた。


 周囲も息をひそめて成り行きを見守っている。


 ひそひそとした声は聞こえるが、辺りは静まり返っていた。



 ヒルデガルトはノルベルトの背中に寄り添い、その背中からそっとライナーを伺い見ている。


(これで諦めてくれないかなー)



 ライナーの笑みが冷たいものに変わった。


「つまり、ノルベルトは本家に楯突く、ということでいいのかな?」


 その声からも、温度が失われていた。


 傍で見守っていたヒルデガルトの背筋に、わずかな戦慄が走る。


 だが、今夜のノルベルトはそれにも怯まなかった。


「どう取ってもらっても構いませんが、ヒルダを譲る気はありません」


(いいぞー! がんばれー!)


 ヒルデガルトはノルベルトの邪魔にならないよう、心の中で声援を送っていた。



 ささやきがざわめきに変わっていく。ヒルデガルトたちを中心に、騒然の波紋が広がる。


 ついに、分家のノルベルトが本家のライナーに楯突いた、と。



 ふぅ、とライナーが視線をそらし、息を吐いた。


「わかった。今日のところは引いておこう。君の立場を悪くするのは、私の本意でもない」


 そういってノルベルトの肩に手を置いて、彼の耳元に顔を近づけた。


「――だが、彼女を諦めるつもりもない。頑張りたまえよ?」


 その目は、やはり冷たいものだった。


 ライナーはすぐにノルベルトから離れ、明るい笑みを浮かべ「では、また!」とヒルデガルトたちに手を振って立ち去っていった。




 ノルベルトとヒルデガルトの、大きなため息がシンクロした。


 ノルベルトが疲れたように、だがやり切ったという笑顔で口を開く。


「……どうにか、今日はやり過ごせましたね」


「でも、これであなたの立場が明確に悪くなってしまったわ」


 ヒルデガルトの眉尻が下がる。


 ノルベルトは力強い笑顔を浮かべて、ヒルデガルトに応えた。


「覚悟の上です。それにあなたを守るのは、私の役目だ」



 アストリッドやクラウディアたちが近くに寄ってきて、ノルベルトの健闘を讃えた。


「やるじゃん!」

「ちゃんと本気を見せたわね。偉いわ」



 ほとんどの来場者はノルベルトから距離を置き始めていた。だが、何人かはノルベルトに近寄ってきて、やはり健闘を讃えた。


 彼らは一様に、ノルベルトの果敢な姿勢を褒め称えた。


 彼らに”弱い立場にも関わらず、愛する者の為に奮い立った男”として、気概ある男として認識されたのだ。


 最後にノルベルトの肩を叩き、「何かあったら力になるよ」と言い残し、立ち去っていった。




 ヒルデガルトは立ち去った彼らの背中を見て、ぽつりと言った。


「クラウの言った通りね。ベルトのことを評価してくれる人も、ちゃんといた」


 クラウディアはニコリとした笑みでヒルデガルトに応える。


「ああいう方々は大切にした方がいいわ。損得よりも仁義を重んずる方々よ。いざという時に頼りになるの」


 つまり、ヒルデガルトたちが苦境に陥ったとき、損をしてでも手を差し伸べてくれる人間、ということだ。


 損得で動かない彼らのような人脈は、得難い財産である。


 ヒルデガルトたちは、これからも彼らの信頼に応えていかねばならない。


 ノルベルトを応援した人間の名前と顔を確かに記憶し、その得難いものを自覚していた。





 ライナーのダンスを断ったヒルデガルトに、フィルとハーディは近づけなくなっていた。


 遠目にも、残念がっているのが解る。


(そりゃそうよね。近づいてもベルトが阻止するのが見え見えだもの)



 そうして夜会の夜は過ぎ、御開きの時間となった。





****


 帰りの馬車の中、ヒルデガルトはノルベルトとリラックスした時間を満喫していた。


「もっと荒れるかもと思ったけど、予定内に収まってよかったわ」


 その笑顔は、とても晴れ晴れとしている。


 ノルベルトもどこか、吹っ切れた笑みだ。


「ようやくあなたを守れて、私も一安心ですよ」


 一度踏み出した以上、元には戻せない。ならば前に進むのみだ。


「わたくし、途中で『いっそ蜃気楼を作って踊らせようか』とか考えてしまいましたわ」


 ヒルデガルトは、どうせならフィルやハーディもふくめて、蜃気楼に相手をさせてしまおう、と考えていた。


 ダンス一曲程度の時間なら、四人まで同時に相手ができる。


 もちろん本体はノルベルトと踊るつもりだった。



 そんな事を考えていたヒルデガルトを、ノルベルトが苦笑いで制止してきた。


「それは……止めた方がいいでしょう。ヒルダは気が多い人間だ、などという噂が立つだけです」


「それもそうね……」


 そんな不名誉な噂は、彼女も願い下げだ。





 ノルベルトに伯爵邸まで馬車で送ってもらい、別れの挨拶を交わしてヒルデガルトは邸に入った。


「お帰りなさいませ、お嬢様」


 ウルリケが出迎え、一緒に彼女の部屋に戻る。



 着替え終わったヒルデガルトに、ウルリケが一通の手紙を手渡した。


「あら、どなたからかしら?」


 封筒の裏を見る。


(封蝋はファルケンシュタイン公爵家……)


 差出人の名前は、記されていなかった。



 ヒルデガルトは恐る恐る、ウルリケに確認を取る。


「ねぇウルリケ、これは本家からのお手紙かしら」


「はい、間違いありません」


 ウルリケは元々、本家勤めだ。封蝋を見間違うはずもない。


「どなたがこれを?」


「ライナー様です」


(やっぱりかー!)


 夜会を退席したその足で、手紙を渡しに来ていたのだ。



 ヒルデガルトは嫌な予感がしていた。


 だが無記名で、本家の封蝋がされた手紙だ。中身を確認しない訳にはいかなかった。


 ペーパーナイフを走らせ、中身を取り出し目を通す。



「……ねぇウルリケ。お父様はまだ起きてらっしゃるかしら」


 ウルリケは頷いた。


「はい、まだ書斎におられるかと」


「ちょっと書斎に行くわ……」


 ヒルデガルトはフラフラとした足取りで書斎に向かっていった。




 その手には、本家で開くお茶会への招待状が握られていた。


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