ベッドの下には
(どうしよう。とんでもないものを、見つけちゃったかもしれない)
夫の部屋を掃除していて、スモモは戸惑っていた。
ベッドの下で見つけてしまったのだ。
エッチな本、ではなく、百万円の札束を。
とりあえず、スモモは冷静になろうとする。
夫はプロ野球選手だ。年俸は一億円を超えている。
だから、部屋に百万円が落ちていたとしても、別に変じゃない。こういうことは、常識的にあり得ることだ。そう自分に言い聞かせようとするスモモ。
夫のソラオとは、先日結婚したばかりだ。彼のことを、何から何まで知り尽くしているわけではない。
この「ベッドの下の百万円」、何かの「おまじない」かもしれないし・・・・・・。
でも、それならそれで、事前に一言あってもいいのに。こんな不用心に置いてあったら、私が「ねこばば」する可能性だって・・・・・・。
そこで、スモモは気づいた。
(これって、私を試してる?)
妻が夫の部屋で、謎の百万円を発見。「ねこばば」するか、どうか?
スモモはニヤリとする。たぶん、そうだ。この百万円、あまりに不自然すぎる。
夫はこういうことをする人じゃないから、悪友にでも変なことを吹き込まれたのだろう。
で、ベッドの下に百万円を放置した、と。
だったら、「ねこばば」しなければいいのだ。
(となると、このお金、ベッドの下には戻さない方がいいかな)
最初にあった場所に戻しても、妻はまだ百万円に気づいていない、と夫は勘違いするかも。
なので、同じ部屋にあるソファーの上、目立つ場所に置いておく。
こうしておけば、伝わるだろう。
(私は百万円に気づいたけれど、「ねこばば」しなかったよ♪)
その夜、ソラオは部屋で一人になると、ソファーの上に札束があるのに気づいた。
ベッドの下に置いていたはずなのに、こんなところにあるなんて、スモモがやったに違いない。
ソラオは考え込む。重要なのは、彼女がどこまで気づいたのか。
ベッド、及び、その周辺の様子を、注意深く観察する。何か違和感はないか。
これといって、問題はないように思えた。どうやら、彼女は気づかなかったらしい。
ソラオは安心すると、ある言語をつぶやいた。地球上にはない言語だ。
ベッドの側面が、タンスの引き出しのように横移動してくる。
秘密の収納場所だ。このベッドには本来ついていないもので、ソラオが改造した。
中には黒い機械が入っている。この「高次元通信機」を使って、宇宙空間にいる母船と交信を行うのだ。
ソラオは地球人ではない。別の惑星から、地球の文化を学びに来ている調査員だ。
この星の人間たちはアイデアに富んでいるので、色々と勉強させてもらっている。特に、娯楽の充実ぶりは素晴らしい!
ソラオはにこにこしながら、母船にいる上司に対して、今日は「クレーンゲーム」という遊びについて報告する。球場近くのゲームセンターで見つけて、ついつい夢中になってしまった。
さらに、妻が百万円に気づいたことも知らせておく。
「この通信機の存在にも気づいたのか?」
質問してくる上司。
「いいえ。百万円を見つけて、それで頭がいっぱいになってしまったみたいです」
ベッドの下の札束は、この通信機の存在に気づかせないためのものだ。
普通の人間ならば、百万円を見つけたら、それに意識が集中するはず。
そんな状態で、このベッドの方を念入りに調べようとは考えないだろう。
まずは、その百万円をどうするか。そちらの方に頭を使う。
「それなら結構。しかし、次もまったく同じ対策では、少々不安だな。今後はベッドの下だけでなく、本棚の上にも、百万円を置いておくように」
「了解」
次回は「スリリングな投手」のお話です。




