優勝したけど・・・
今日の試合は序盤から、味方が大量リードしていた。
回が進むごとに、ベンチ内の空気が変化していく。
それを肌で感じ取りながら、俺は緊張していた。
このまま試合が終われば、味方チームは勝利する。
と同時に、リーグ優勝も達成だ。
(今年は大丈夫かな)
俺の頭に不安がよぎる。
このチームは、昨年もリーグ優勝した。
そして、その翌日に、俺はたくさんの人たちから、同じことを聞かれたのだ。「優勝が決まった直後に、ものすごい無表情だったけれど、何かあったの?」と。
昨年のことを思い出す。
プロ野球選手になって、初めての優勝。それを目前に、俺はベンチで緊張していた。
やがて試合が終わる。味方が勝利した。
と同時に、リーグ優勝も達成だ。俺にとって、初めての優勝。
ベンチ内にいる他の選手たちが一斉に、喜びを爆発させる。
その勢いに、俺は乗り損ねてしまった。
これがいけなかった。大騒ぎをする周囲に対して、逆に冷静になってしまったのだ。
ものすごく絶叫しまくる奴と、遊園地のお化け屋敷に入った、そんな状況を想像してもらえば、あの時の俺の心境が、少しはわかってもらえるだろうか。
一旦冷静になってしまうと、そこからの再点火は無理だった。他の選手たちとの温度差が、どんどんとかけ離れていく。それが無表情の理由だ。
昨年のことを俺は後悔している。今年は同じ失敗を繰り返したくない。
(だから、そろそろ例の用意が・・・・・・)
このタイミングで、コーチが俺に近づいてくる。
「用意ができたらしいぞ。今すぐ別室へ」
これを待っていた。
昨年の俺の無表情、あとでテレビや雑誌などでも大きく取り上げられてしまったので、球団側も把握している。
優勝の直後に、一人だけ無表情というのは、どうも良くない。それで今年は、対策をしてくれることになったのだ。
俺はベンチを抜け出して、別室へと移動する。
部屋の中には、テレビ電話が用意されていた。画面に映っているのは、俺が一番好きな女性アイドルだ♪
こんな場を用意してくれて、球団には本当に感謝している。
こうやってアイドルとおしゃべりをして、先にテンションを上げておくのだ。
で、最高の笑顔を保ったままベンチに戻り、優勝の瞬間を迎えればいい。
俺はにこにこしながら、アイドルと楽しい時間を過ごす。今度の休みに、二人で食事に行く約束までしちゃった♪
しかし、これが裏目に出る。
このあとベンチに戻ると、味方が十点差をひっくり返されていて、最悪の雰囲気になっていようとは・・・・・・。
次回は「ベッドの下」のお話です。




