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クロスプレー

 ある女子高生の絵が、県内のコンクールで入賞した。


 野球の一場面を描いたもので、二人の選手がホームベースの上で交差している。今にも動き出しそうな迫力があり、絵の題名は「クロスプレー」だ。


 この絵は今月、県の美術館に飾られていたのだが、ふとしたことをきっかけに、大きな注目を集めることになる。


 女子高生の絵を鑑賞した人々の中に、次のような疑問を抱く者たちがいた。


 ここに描かれているクロスプレーは、セーフなのか。それとも、アウトなのか。


 彼らの疑問はすぐに多くの人々の関心を引き、大論争へと発展していく。


 セーフを主張する者たちは言う。


「この絵の中で、捕手は走者にタッチしていない!」


 これに対して、アウトを主張する者たちは言う。


「走者の方こそ、ホームベースにタッチしていない!」


 セーフかアウトかの判定がはっきりするのは、この直後の場面だろう。しかし、絵に描かれている状況からでも十分に予想できるはずだと、両派は主張した。


 彼らはさまざまな着目点で、熱い議論をわしていく。走者の表情からして、セーフに違いない。いや、捕手の体勢からして、アウトに違いない。


 これにより、さらに多くの人々が、問題の絵を実際に見てみようと、美術館へと押し寄せた。


 その中には、プロ野球の有名選手もいたし、高校野球の監督もいた。また、野球雑誌の編集者もいたし、メジャーリーグのスカウトもいた。


 野球を熟知している彼らの目をもってしても、議論に決着はつかない。


 はたして、このクロスプレー、セーフなのか、アウトなのか。


 こうなっては、絵を描いた女子高生に聞くしかないだろう。


 この絵の迫力からして、実際の野球の試合を参考にしている、その可能性は高かった。


 だったら、その試合が「いつ」「どこで」行われたものなのか判明すれば、答えは簡単に出る。参考にした試合で、実際に審判が下した判定が、「正解」となるのだ。


 この展開に、絵を描いた女子高生は困惑する。こんなに大事おおごとになるなんて、思ってもみなかった。


 それだけに、本当のことを言うわけにはいかない。


 隣の家の夫婦ゲンカを、自宅の窓からたまたま見たとか。その様子をスケッチして、コンクールに出す絵に流用したとか。


 ちなみに、捕手のモデルが奥さんで、走者のモデルが旦那さんだ。


 でも、真相は秘密にしておこう。


 高校に駆けつけた取材陣に対して、


「えーと、かなり昔の試合だったのは覚えているんですけど、どうも記憶が曖昧あいまいで・・・・・・」


 女子高生は語る。それっぽいウソをついて、全力で誤魔化すのだ。


次回は「野球部監督」のお話です。

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