セカンド誕生日・二
「えー、記者のみなさま、本日はお集まりいただき、ありがとうございます」
球団社長が告げる。
これから重大発表があるらしい。
しかし、この場の雰囲気は、緊張とはほど遠いものだった。
なぜなら、球団社長の隣には、この球団のマスコットキャラクターが座っているのだ。深刻な話をする気なら、同席させることはないだろう。
また、普段の記者会見では、スマホの電源をオフにするよう、事前に注意されるのだが、今回はそれがなかった。
「えー、みなさまもご存じの通り、昨年から『セカンド誕生日』制が導入されました。そのことに関係してか、次のような問い合わせを多数いただきました。『あんぱんの月、メロンパンの日』というのは『何月何日』なのか、と」
マスコットキャラクターが繰り返しうなずいている。『あんぱんの月、メロンパンの日』とは、このマスコットキャラクターの誕生日なのだ。球団の公式プロフィールには、そのように載っている。
「えー、こちらで調査した結果、問い合わせの大半が同一人物によるもの、ということが判明しました」
球団社長が意味ありげに、視線を横へと向ける。
マスコットキャラクターは、「違う! 自分じゃない!」と、わざとらしくジェスチャーした。
それを見て、集まっている記者たちは思った。このマスコットキャラクター、自分で球団に問い合わせをしまくったな。
ということは、この記者会見、そのことを公の場で糾弾するものだろうか。いわゆる「ジョーク会見」というやつ。こういうコメディタッチのニュースは、気楽に取材できるので、記者としても大歓迎だ。
ところが、ここから先、予想とは違う展開を見せ始める。
「えー、色々と不審な点はありますが、球団の総力をあげて調べた結果、『あんぱんの月、メロンパンの日』、その具体的な日付を特定できました」
こんなに時間がかかったのは、謎の古文書を解読する必要があったからだと、力説する球団社長。
「で、その日付ですが・・・・・・」
少しもったいぶってから告げたのは、明日の日付だった。
「というわけで、明日の試合では、盛大にお祝いしたいと思います」
それを聞いて、記者の一人が、こっそりとスマホで調べてみる。
気になることがあった。明日の試合、そのチケットの販売状況だ。
すると、結構な数の空席がある。ここから完売させるためには、何らかのテコ入れが必要だろう。
球団側の意図を察して、そっとスマホを裏返した。
それから数年後。
「えー、記者のみなさま、本日はお集まりいただき、ありがとうございます」
球団社長が告げる。
なんでも、重大発表があるらしい。
といっても、この場の雰囲気は和やかなものだ。
球団社長の隣には、球団のマスコットキャラクターが座っているし、スマホの電源をオフにしてね、という注意もない。
以前にも同じことがあって、その時は「ジョーク会見」だった。
たぶん、今回もそうだろう。だから、気楽だ。
さっそく球団社長が言う。
「えー、明日の試合に関することですが」
ああ、そのことかと、記者たちは思った。
少し前から話題になっていたのだ。
この球団、今年加入した選手たちの多くが、明日が誕生日、ないしは、『セカンド誕生日』なのである。
ドラフトで獲得した新人三名の他、トライアウトで獲得した選手、トレードで加入した選手、新外国人。なんと、合計六名だ。
そこにさらに、球団のマスコットキャラクターも加わる。
きっと派手なセレモニーを企画しているに違いない。それを示唆するコメントが、これまでに球団から出ているのだ。
ということは、今日の記者会見、明日の企画について、追加の告知でもあるのかな。
具体的なイベント内容を、一足先に公表してくれるのかも。球場で販売予定の限定グッズを配付してくれたり、この場で限定メニューを試食させてくれるのかもしれない。
ところが、いきなり頭を下げてくる球団社長。
「申し訳ございません!」
記者たちは、きょとんとする。
なんでも、マスコットキャラクターの誕生日である『あんぱんの月、メロンパンの日』、その日付が間違っていたことが判明したらしい。
「先日、新たな古文書が発見されまして、これまでに解読した文章の一部に、重大な誤りがあることがわかりました」
で、訂正後の日付は、
「ちょうど一週間後になります」
それを聞いて、記者の一人が、こっそりとスマホで調べてみる。
まずは明日の試合、そのチケットの販売状況だ。どの席も完売している。バースデー効果は大きいみたいだ。
次に一週間後の試合も調べてみる。結構な数の空席があった。
直後に、別の記者が尋ねる。
「ということは、この日付で絶対に間違いないんですね?」
「えー、今のところは、としか申し上げられません。近い将来、新たな古文書が発見された場合、その内容次第では、また誕生日の日付が変わる可能性も・・・・・・」
次回は「超能力」のお話です。




