試合に負けた。プロレスラーは落ち込んでいる。
女子プロレスラーのアカネは、控え室で落ち込んでいた。
すぐ横に置いてあるラジオは今、電源がオフになっている。先ほどまではオンになっていて、プロ野球の試合中継を流していた。
今日の試合に勝った方がリーグ優勝、そんな一戦は、手に汗握る展開になった。
逆転に次ぐ逆転だったが、アカネの応援しているチームは結局、最後の最後で力尽きてしまった。
試合後には、相手チームの胴上げがあった。あのチームは昨年も、リーグ優勝をしている。
その一方で、アカネの応援しているチームは長年、リーグ優勝から遠ざかっていた。
(今年くらい、優勝を譲ってくれてもいいのに)
こっちのチームは、中心選手が二人、来年からメジャーリーグに行ってしまうのだ。その穴は非常に大きいと思われ、大幅な戦力ダウンが避けられない状況。
だからこそ、今年は絶対に優勝して欲しかったのに・・・・・・。
この敗戦は、あまりに痛すぎる。そのせいで、しばらくは動く気力がわいてこない。
ところが、そういうわけにもいかないのだ。
相方のキナコが控え室にやって来た。彼女とは『マジックガール・フラッシュ』というコンビを組んでいる。
これから自分たちの試合があるのだ。本日のメインイベント。『ダークキャッスル・クイーンズ』と対戦する。
女子プロレス界きっての人気コンビ同士、その初めての対戦とあって、会場に駆けつけたお客さんたちの興奮も、最大レベルに達している。この控え室まで、ものすごい歓声が聞こえてきていた。
でも、申しわけないけれど、今はどうにもテンションが・・・・・・。
アカネの様子と、その横にあるラジオの存在から、何があったのかを、キナコの方でも察したようだ。
彼女はやれやれという顔になると、ある情報を囁いてくる。
「・・・・・・らしいよ」
その内容に、アカネは耳を疑った。
「それ、本当なの?」
「うん。だから、今日の試合は絶対に勝たないとね」
「わかった」
闘志をみなぎらせながら、アカネはうなずいた。落ち込んでいる場合じゃない。キナコの言う通りだ。これから始まる自分たちの試合、絶対に勝つ。
まさか、『ダークキャッスル・クイーンズ』のモモカがプロ野球ファンで、その上、よりにもよって、さっきの試合で勝った方のチームを応援しているとは。
つまり、こちらとは正反対の状況。あっちの控え室では今、大いに盛り上がっているに違いない。
ならばと、アカネは決心した。応援しているチームの仇は私が取る。
これは代理戦争だ。モモカをリングに沈めてやる。最高の気分を、一日に二回も味わえると思うなよ。
「最後は私が決めるから!」
これだけは譲れない。モモカに使用するフィニッシュホールドは、新技『ビクトリー・バスター』にしてやる。あれなら、破壊力は十分だ。
「どうぞどうぞ、ご自由に。あの二人の覆面をもらえるのなら、私としては何の問題もないんで」
キナコは倒した相手の覆面を剥ぎ取って、自分のコレクションにしているのだ。彼女自身は善玉という立ち位置なのに、非道な所業である。
いつもはアカネが止めに入るので、キナコの覆面剥ぎ取りは、未遂に終わることが多い。しかし、今回は別。モモカに関しては「どうぞどうぞ、ご自由に」だ。
逆に、モモカの相方、コムラサキの方は助けてやることにしよう。憎むべきは、モモカ一人だ。
こうしてアカネは気合い十分に、リングへと向かう。客席から飛び交う大歓声。
すぐに戦いのゴングが鳴る。
さっそくアカネは、モモカと対峙した。
そして、動く。細かい作戦は考えずに、ひたすら殴りかかった。
これにモモカも乗ってきた。というか、いつも以上に興奮しているのがわかる。自分の応援しているチームが優勝を決めたばかりで、ノリノリの状態にあるらしい。
(こんな奴に負けてたまるものか)
アカネは奮戦する。
にしても・・・・・・予想していた以上に強い。過去の試合を映像で見たが、ここまでの動きはしていなかったように思う。恐るべし、優勝パワー。
しかし、今日は絶対に負けるわけにはいかないのだ。応援しているチームの仇は、私が必ず取ってみせる。
ペース配分を考えずに、序盤から飛ばしまくるアカネ。
けれども、途中で少し冷静になる。このままでは、フィニッシュホールドまで体力がもちそうにない。
そこで一旦、間合いをとる。
すると、モモカが叫んできた。
「最高の気分を、一日に二回も味わえると思うなよ!」
アカネは戸惑う。モモカは何を言っているのか?
その答えは、すぐに判明する。
モモカが力説し始めたのだ。
「さっきラジオを聞いていた。私の応援しているプロ野球チームは、非常に残念なことに、お前の応援しているチームに敗れ去った。その仇を、今ここで取る!」
アカネは思った。それは、こっちのセリフだと。
でも、モモカは本気のようだ。
これは、どういうことだろう。
(ひょっとして・・・・・・)
すぐにアカネは、一つの考えにたどり着く。
その真偽を確かめるべく、モモカに向かって野球クイズを出してみた。
さっきの試合で負けたチームに関する問題だ。そこのファンでもなかなか答えることのできない、超絶マニアック問題。チームへの愛が試される良問だ。
ところが、モモカは余裕で正解してくる。
さらに、彼女の方からも問題を出してきた。同じチームに関する問題だ。もちろん、アカネも正解する。
しばらくの間、そうやって互いに、マニアックな野球クイズを出題し合った。
で、二人とも全問正解。
ということは・・・・・・。
アカネは真実を察した。どうやら、モモカの方でも気づいたらしい。
もはや言葉は不要だった。
自分たちは、戦うべき相手を間違えていた。本当に倒すべきは、奴らだ。
アカネとモモカは、それぞれの相方に向かって、本気の攻撃を開始する。
「よくもだましたな!」
「野球ファンを愚弄した罪、その身をもって思い知れ!」
急造コンビとは思えない息の合った動きで、ウソをついた二人、キナコとコムラサキを、容赦なくボコボコにしていく。
そして、とどめはこれだ!
アカネはキナコを、必殺技の体勢にとらえる。
「新技『ビクトリー・バスター』(手加減ゼロ)!」
モモカも相方のコムラサキに対して、
「新技『ウイニング・ドライバー』(手加減ゼロ)!」
二つの大技が同時に炸裂する。
こうして悪は滅び去り、アカネはモモカとリング上で、互いの健闘をたたえ合うのだった。
次回は「誕生日」のお話です。




