野球場で願い事
野球場に快音が響き渡った。
ホームラン性の当たりが、勢い良く飛んでいく。
といっても、相手チームのだけどね。
うーむ、味方は劣勢だ。苦笑いをする私の横で、ミカコは急にお祈りを始めた。
いや、今さら祈ったところで、あれは入るよ。ホームランだよ。
そこで私は気づいた。
祈っているのは、ミカコだけじゃない。他にも結構な数のお客さんが、お祈りモードに入っている。
どちらのチームのファンかは、関係ないみたいだ。両方のファンがいる。
ただし、祈っているのは女性が多い。
どうしよう、私も祈っておいた方がいいのかな。
その場の空気に流されて、
(えーと、ホームランになりませんように)
しかし、相手チームの打球は、軽々と外野スタンドに到達した。
ほら、やっぱり。お祈りタイム終了だ。
ところが、ミカコがにやにやしながら聞いてくる。
「何てお願いしたの?」
へ?
そんなの、「ホームランになるな」、それ以外にあるんだろうか?
「ん? もしかして知らないの? 野球場の『おまじない』」
なんでも、『ホームランの打球が空中にある間に、願い事を思い浮かべると、叶いやすい』のだとか。
こうも目をキラキラさせて言われては、反論のしようがない。「カガクテキ」とか「ゲンジツテキ」とか、そういった単語を言っちゃいけない雰囲気だ。
(流れ星に願い事をする、あれの派生形かな?)
そんなことを考えていると、またもやホームランだ。山なりのボールで、今回の滞空時間はそこそこ長め。
客席のあちこちで、再びお祈りタイムが始まる。ミカコも例外ではない。
つきあいで私も祈っておく。
(今夜はカレーうどんが食べたい)
いきなりなので、こんな願い事しか思い浮かばなかった。
ボールが外野スタンドへと吸い込まれていく。
「何てお願いしたの?」
またまたミカコが聞いてくるので、正直に答える私。
すると、信じられないという目を向けてきた。
「どんな願い事でも、いいわけじゃないんだって! この野球場では、『恋愛関係』のみ!」
ミカコによると、野球場ごとに専門分野が違うそうだ。
つまり、私がやったのは、「天才外科医に向かって、カレーうどんを食わせろ」と言っているようなものらしい。野球場の神さまに対して、大変失礼な行為だという。
定番の願い事は、「あの選手とお近づきになりたい」とか、「あの選手とデートをしたい」とか。
あー、なるほど。でも、私は今、そういう願い事は別にいいかな。
「じゃあ、健康祈願はどこの野球場?」
好奇心から尋ねてみると、冷ややかな視線が返ってきた。
「健康祈願の野球場はない。そういう願い事は、神社か病院に行け」
そこで三本目のホームランが飛び出した。
今回のは弾丸ライナーで、あろうことか、ミカコの頭を直撃する。
痛みをこらえる彼女を見ながら、私は理解した。
なるほど。こういうことがあるかもしれないから、健康祈願を取り扱っていないのか。野球場の神さまって、意外と現実志向?
その直後、さらに四本目のホームランが飛び出した。
ここまでの流れ上、私は自然とお祈りモードになる。
えーと、恋愛関係、恋愛関係・・・・・・。
ぱっと思いついたのは、
(この試合に出ている独身の選手が全員、お笑い芸人と結婚しますように)
こうしておけば将来、「野球」と「お笑い」の才能に恵まれた選手が誕生して、プロ野球をもっと盛り上げてくれるかも。
高々と打ち上がった白いボールは、外野スタンドの上段へと吸い込まれていった。
次回は「女子プロレス」のお話です。




