ここまでが、うちの野球場です!
シーズン通しての観客動員数が、ランキング形式で発表された。
それで下位になった某球団は考えた。どうにかして、観客動員数を伸ばせないだろうか。
そこで翌年、新たな試みを始めた。
駅中での始球式だ。
試合前の始球式を、球場ではなく、東京の巨大ターミナル駅で行ったのだ。この駅の利用者は一日あたり、およそ三五〇万人。
「どうだ、これで一気に三五〇万人のプラスだぞ!」
なお、この人数には、通勤、通学、乗り換え等の駅利用者も含んでいるが、細かいことは気にしない。
うちも人気球団の仲間入りだと、大喜びで記者会見を開いた。
ところが、その直後に野球協会から呼び出されて、
「この三五〇万人、観客動員数としては認めない」
ただの通行人を観客動員数に入れるな、と怒られてしまった。
そこで翌日、今度は「有料」で始球式を行った。
場所は昨日と同じく、東京の巨大ターミナル駅だ。一日の利用者は、およそ三五〇万人。
昨日と違って今日は、ちゃんと料金を取っている。一人一円。だから、ただの通行人ではない。
なお、今日の始球式に呼んだのは、大人気のグラビアアイドルだ。
最終的な「観戦料」は、三五〇万円とはいかなかったものの、数十万円には達した。一人で一万円を払ってくれた「お客さん」が数人いたそうだが、計算が面倒なので、細かいことは気にしない。
「どうだ、これで一気に数十万人のプラスだぞ!」
しかし、またもや野球協会から呼び出しを食らう。
「こういうものは、観客動員数として認めない!」
かなり強めに怒られてしまった。
とはいえ、うちの球団ではこれ以上、観客動員数の大幅アップは期待できないのだ。
というのも、ありがたいことに現在、本拠地での試合、そのチケットは多くの日程で完売している。だから、すぐにでも球場を拡張したいのだが、周辺に土地が余っていないのだ。
座席数を増やしたければ、どこか別の場所に、新たな球場を建てるしかない。しかし、それはそれで、色々な問題を解決しなければならなかった。
何か良い案はないかと、球団内で会議をした結果、一つのアイデアを思いつく。
そうだ! 新しい種類のシートをつくるのだ!
球場の座席には、内野指定席や外野自由席の他に、ボックス席、立ち見席など、さまざまな種類が存在する。
その一つとして、「駅の中」に新たな座席を設置するのだ。通称『駅中シート』。お客さんは正面の巨大モニターで、野球の試合を観戦する。
座席の間隔は球場よりも広めに取り、食事もしやすいよう、各席の前にはテーブルもつける。球場グルメも一部、食べることができるようにする。
この話を聞いた野球協会は、眉をひそめた。
「また、あの球団か。変なことを始めやがって」
しかし、その駅中シート、たった八〇席しかないことを知ると、
「あははは。どうぞどうぞ、ご自由に。なかなか面白いことを考えましたな。はっはっはっはっ」
プロ野球の球場はどこも、数万人を収容できるのが当たり前だ。八〇席を足したところで、観客動員数に与える影響など、たかが知れている。
それに、こんなふざけたシートが、うまくいくとは思えない。
ところが、野球協会の予想は、裏切られることになる。
駅から「0分」。この立地が最強すぎた。しかも、大きな駅なので人通りも多い。
球場は遠いという先入観がある人たちにとって、「でも、駅中だったら・・・・・・」と、心理的なハードルは大きく下がる。気軽に足を運べるので、いわば「野球観戦の入門シート」として、評判になったのだ。
さらにアウェーの試合や、二軍戦に対応したのも良かった。わざわざ遠征しなくてもいい。僻地にある二軍球場まで行かなくてもいい。そういう需要を取り込んで、あっと言う間に八〇席が完売していく。
こうして観客動員数は、どんどん伸びていく。
翌年、この球団は新たな計画を発表した。
「ここまでが、うちの野球場です!」
全国の主要な駅に、同様のシートを設置する計画だ。
目標は一〇〇駅以上。各駅八〇席ずつだとしても、駅中シートだけで、一日八〇〇〇人以上になる。
このシートの場合、「ホームの試合だけでなく、アウェーの試合もカウントされる」というのが、地味に強いのだ。
したがって、予想される年間の観客動員数は・・・・・・。
ゆくゆくは海外の駅にも、シートを設置する予定だとか。
駅で野球を見るのが当たり前、そんな時代の到来である。
次回は「願い事」のお話です。




