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脱走

 大みそかの夜、暗闇くらやみの中で声がする。


「全員起きているか?」


 この呼びかけに対して、周囲からは複数の声が上がった。


「では、これから脱走しよう。明るい笑顔のために」


 この脱走、夜の間に決行する必要があった。今いる閉ざされた場所を飛び出して、新天地へと旅立つのだ。


「で、あんたはどうする? 考えは変わったか?」


 最初の声がたずねると、すぐとなりで別の声が答える。


「いや、前にも言った通りだ。俺はここに残るよ」


「そうか。元気でな」


 この場所を離れたくないものに、無理強むりじいはできない。


「ああ。短いつき合いだったが、一緒いっしょにいて楽しかったぜ。お前ら、気をつけて行けよ。幸運をいのる」


 こうした仲間との別れもあり、脱走を開始する。まずは入り口を開けて・・・・・・。


 やがて朝になった。


 プロ野球球団のオフィシャルショップに、店長がやって来る。


 今年も元旦がんたんから、初売りをおこなうのだ。


 店頭に並べる予定の福袋ふくぶくろも、昨日の内に用意を済ませている。ほら、こんなにたくさ・・・・・・ん?


 店長は異変に気づいた。どの福袋も開いている!


 急いで中身を確認した。


 どれも残っているのは、福袋限定のグッズのみだ。


 それ以外のグッズは全部なくなっている! この店で売れ残っていた商品を、たくさんめ込んでおいたのに!


 福袋の中身が勝手に逃げ出すはずもないし、どうやら昨夜、泥棒どろぼうに入られたみたいだ。


 しかし、よりにもよって、こんなぬすみ方をしなくても・・・・・・。


 店長は苦渋くじゅうの決断をする。さすがに、この状態の福袋を売るわけにはいかない。


 急遽きゅうきょ、店内にある商品でめ合わせをする。新商品とか、人気商品とかを、どんどんと福袋の中に入れていく。大赤字になるけれども、他に方法が思いつかない。


 数時間後、オフィシャルショップが開店する。


「今年の福袋はスゲー!」


 新年早々、お客さんたちの明るい笑顔で、店内はにぎわっていた。


次回は「勝利のお地蔵さん」のお話です。

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