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事件

 球場の駐車場に、三〇台のパトカーが並んでいた。


 それを見て近所の人たちは、ひそひそ声でうわさし合う。


「何か事件が起きたっぽいね」


「このパトカーの数、きっと大事件だよ」


「ひょっとして、殺人事件かな?」


 この球場では一年前、野球の試合中に殺人事件が起きているのだ。


 あの時も、大量のパトカーが球場の前に集結していた。一〇〇台は来ていたと思う。球場内にいる犯人を外に出さないため、大勢の警察官たちを動員したのだ。


「でも、今回も殺人事件なら、パトカーの数が少なくない?」


 前回は一〇〇台で、今回は三〇台だ。


 また、前回はパトカーが乱雑にまっていたのに対して、今回は整然と並んでいる。


「パトカーの数が少ないのは、試合中じゃないからだよ」


 近所の人たちはたがいに、自分の推理を披露ひろうし合う。


 パトカーが整然と並んでいることについては、


「ひょっとして、球場内に爆弾でも仕掛けられているとか?」


「ああ、ありそう。だったら、全員で一番安全な場所に駐めるよね」


 三〇台のパトカーは、駐車場のはしっこに並んでいる。球場の正面ゲートからは、最も離れている場所だ。


 こんな感じに、近所の人たちは思い思いの推理を楽しんでいた。


 しかし、事実は全然違っていた。


 本日、球場近くの警察署で大きな式典しきてんがあり、広域から大勢の警察官たちが集合していたのだ。


 彼らの大半が移動にパトカーを使ったため、署の駐車場だけではまかないきれなくなり、周辺の施設しせつ等に急遽きゅうきょ、協力をお願いしたのである。


 球場の他にも、たとえばコンビニ。


 警察署から少し離れたコンビニにも、一台のパトカーが駐まっていた。


 それを見た通行人は、急いで家に引き返すと、


「そこのコンビニで事件が起きたみたい! 今、パトカーが来てるよ!」


 このようにして、架空かくうの事件が増えていくのだった。


次回は「脱走」のお話です。

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