アウトの絵
私も彼も野球が大好きなので、デートで野球場に行くことが結構ある。
でも、今回は私の希望を聞いてもらった。
それで、野球場ではなく、美術館を訪れている。地元の現代アート作家たち、彼らの作品を集めた特別展を開催中なのだ。
私は美大に通っていたので、こういう分野には興味がある。
けれど、彼はどうも乗り気ではないようだ。
「このあと、どこへ行こうか?」
野球場かバッティングセンターか、それとも、スポーツバーか。そんな話ばかりをしている。
「館内では静かにしてね」
そうお願いしてから、まずは入り口近くにある絵、その前へと移動する。
彼が急に静かになった。
数秒してから、つぶやいてくる。
「この絵はアウトだな」
それを聞いて、私は変に思った。言ってる内容に対して、彼の口調はとても穏やかだったのだ。
そこに疑問を感じながらも、次の絵へと移動する。
今度も彼は、つぶやいた。
「この絵はストライクだな」
さらに三枚目の絵では、
「この絵はボールだな」
ようやく私は理解した。
一枚目の絵は全体的に「赤」かった。で、二枚目の絵は「黄色」の割合が多く、三枚目の絵は「緑色」がふんだんに使われていたのだ。
赤、黄色、緑色。これらの色は、野球場にある「アウト」「ストライク」「ボール」のランプと同じ。
自分が興味のある野球と関連づけて、どうにか楽しもうと、彼なりに努力してくれているらしい。
私たちは新たな絵の前に来る。
今度の絵は真っ赤なので、彼の感想はおそらく・・・・・・。
「これでツーアウト」
え? 「アウト」じゃなくて、「ツーアウト」?
戸惑う私に対して、彼が言う。
「あとアウト一つで、チェンジだな」
次回は「遅刻」のお話です。




