お年玉にはまだ早いぞ
年末の大掃除をしていると、玄関のチャイムが鳴る。
やって来たのは、甥っ子だ。たしか今は小学四年生。
「来てやったぜ」
「そうか。お年玉にはまだ早いぞ。除夜の鐘が鳴ってから、出直してこい」
そのままドアを閉めようとしたが、そこで俺は気づいた。
甥っ子のすぐ後ろに、もう一人いる。小学生くらいの女の子だ。
どうやら、ガールフレンドを連れてきたらしい。
なるほど、自慢か。
俺に対しては、「彼女がいるぞ自慢」。
で、そこにいる女の子に対しては、「身内にプロ野球選手がいるぞ自慢」。
まったく、年末の忙しい時に。
とはいえ、この女の子、かなりかわいいと思う。自分の初恋の子も、こんな感じだった。
ふむ。甥っ子の恋を応援してやるのも、悪くないか。
手助けしてやった分は、来年のお年玉から、しっかり差し引いておこう。
「大掃除をしてるんだろ。手伝ってやるぜ」
甥っ子が言ってくる。
が、そんな言葉を当てにはしない。
とりあえず、甥っ子と女の子を家の中へと入れてやる。
「まじで散らかってるな。飲み物もらうぞ」
甥っ子は冷蔵庫から二本の缶ジュースを取ってくると、片方を女の子に渡した。
ふむ。彼氏としては百点の行動だろう。
しかし、そのジュースは俺のお気に入りだ。宮崎から取り寄せた、完熟マンゴーのジュース。残り二本だったのに、ひどいことをしやがる。マイナス二百点。
そのあとも、大掃除の手伝いと言いながら、やっているのは、家の中の探検だ。あっちに行ったり、こっちに行ったりしている。
こいつらは戦力にならない、そう判断した俺は、二人をトランポリンで遊ばせておくことにした。
室内での軽い運動用に、俺が普段使っているトランポリンだ。それが二つ。
最初に買ったのが小さい方で、やや窮屈に感じたので、先日、大きいのを買い足したのだ。
どうするのかと思って見ていると、甥っ子は大きいトランポリンを、女の子に譲った。自分は小さい方で飛び跳ねている。
ふむ。これで、しばらくはもつだろう。
トランポリンで遊ぶ二人を放置して、俺は大掃除を再開した。
不要品を整理していく。いらないと思うものは、ゴミ箱の中へ。
その途中で、押し入れの奥から、スノードームを見つけた。球団からもらった限定品で、野球場のデザインをしている。
俺は少し考えてから、甥っ子だけを呼んだ。
おしゃれな紙袋にスノードームを入れると、
「これをやる。あとはどうすればいいのか、わかるな?」
甥っ子の表情がわずかに変化した。直後に、ゆっくりとうなずいてくる。
そして、甥っ子はトランポリンの方へと素早く戻ると、俺が期待していた通りの行動をとった。
それから再び、二人はトランポリンで遊び始める。
そうして一時間が経った。
さすがに疲れたようで、甥っ子たちが帰っていく。ここに来た時とは違って、仲良く手をつないでいた。
二人が帰ったあとで、俺は少し休憩することにした。
まだ大掃除は終わっていない。でも、まあ、こういう日もあるさ。
水道水で喉を潤してから、トランポリンが置いてある場所へと向かう。
小さい方のトランポリンに腰かけたところで、俺は「あるもの」を発見した。
すぐ近くの壁に、ポスターが貼ってあったのだ。
野球雑誌の付録で、俺がホームランを打っているポスターだ。たしか三〇分くらい前に、ゴミ箱に放り込んだやつ。
ポスターの下の方には、サインペンで野球のスコアが書き足してあった。俺がいるチームの圧勝だ。
スコアの横には、犯人たちのサインもある。あいつらなりの感謝だろうが、「100-0」はやりすぎだ。
そのポスターをしばらく眺めながら、俺はにやにや考える。
あの二人、正月になったら、お年玉をもらいに来るに違いない。このポスターは、それまで貼ったままにしておこうかな。
次回は「デート」のお話です。




