昔の話
かつて神と大天使たちは、定期的に地上を訪れては、ある島にて、『ベースボール』なるものを楽しんでいた。
その様子を毎回、海中から見ている者たちがいた。
魚類である。
彼らは『ベースボール』を見るのが好きだった。
やがて、自分たちでもやってみたいと、強く思うようになる。
しかし、魚類に手足はなく、この水中から出ることもできない。
それでもあきらめきれずに、
「おりゃああああ!」
気合い十分に叫んでみた。
すると、彼らの体に異変が起きた。
ズボボボボッ!
四本の突起物が生えてきたのだ。
彼らは歓喜の声で宣言する。
「手・足・完・成!」
さらに、水中以外での呼吸法も会得した。これで、陸上へと移動することができる。
両生類の始まりであった。
そのあとも、彼らは気合いで進化を続けた。
両生類から爬虫類へ、そして、哺乳類へと至る。『ベースボール』をやりたい、という強い思いが起こした「キセキ」だった。
やがて彼らは到達する。
人類の祖先となったのだ。この姿になれば、ボールを投げることも、バットで打つことも可能。
「さあ、プレイボールだ♪」
元魚類だった人間たちは、神に感謝しながら、『ベースボール』を始めた。
魚類が人類に進化した、そんな自説を大まじめに唱える学者がいた。
時は中世。現代とは違って、「地球が宇宙の中心」という『天動説』が、当たり前だった時代である。
人類の起源についても、「神さまによって、人間は最初から、人間としてつくられたのだ」という考え方が、当時は一般的だった。この学者の説は、聖書の教えに反していた。
学者は教会本庁から呼び出しをくらう。
「お前は神さまと教会を愚弄しているのか? 人類の祖先は人類であって、魚ではない!」
こっぴどく怒られて、危うく火あぶりにされるところだった。
こうして学者の自説は、歴史の闇に葬り去られる・・・・・・
だが、完全に消滅したわけではなかった。
そもそも、書物が貴重な時代だ。学者が自説を記した本に対して、強い関心を示した大商人がいた。
書かれている内容はともかく、この本、結構な「珍品」には違いない。いずれ誰かに高く売りつけて、大もうけができるかも。
そう考えて、裏で手を回した。あの学者が火あぶりにならないよう、知り合いの聖職者たちに取り計らってもらったのである。その見返りとして、学者から密かに本を譲ってもらった。
この大商人の先見性は、孫の代になって、現実となる。
世は大航海時代の真っ盛り、学者の自説を記した本が、思いがけない高値で売れたのである。
本を買ったのは、一人の船乗りだった。新航路の発見で、巨万の富を築いた人物。
海上の長旅において、読書は貴重な娯楽だそうで、この船乗りによって、本は新大陸へと運ばれた。
こうして学者の自説は少しずつ、新大陸へと広がっていく。
その結果、この地でのちに、『ベースボール』文化の大きな花を、咲かせるのだった。
次回は「テレビで野球観戦する」お話です。




