お笑い芸人
若いお笑い芸人の二人組が、舞台の中央に登場してきた。
片方は背広姿なのに、もう片方は野球のユニフォームを着ている。
まず彼らは、自分たちのコンビ名を告げた。客席からは拍手だ。
二人はお辞儀をすると、さっそくコントの準備に入る。背広を着ている方が、舞台の端へと移動した。
そこでマイクを取り出すと、声を張り上げる。
「えー、この野球場で行われている試合、その実況をこれよりお届けいたします。現在、先攻チームがチャンスの場面を迎えています。ホームランを狙う気満々の四番バッターが、打席に入りました」
舞台中央にいるもう一人が、その通りの動きをする。
「と見せかけて、監督からのサイン、本当は送りバントだ!」
相方はバットを大振りするパントマイムをやめて、すぐさまバントの構えになる。
「と、これもフェイント! やっぱりホームラン狙いだ!」
バントは中止だ。急いで大振りに切り替える相方。
そして、実況役は口で打球音を再現すると、
「これは大きいぞ! 入るか、入るか、入るか、入ったぁぁぁぁぁぁぁ!」
相方は余裕の表情で、ベースを回ろうとする。
ところが、すかさず実況役が口を挟んできた。
「相手チームのグローブに入ったぁぁぁぁぁぁぁぁ! アウトです! アウトー!」
ここまでの様子を見ていて、客たちの大半は気づいた。どうやら、実況役が好き勝手に喋って、それに相方がアドリブでついていく、そんなコントらしい。
「さーて、先に点はやれません。選手たちが守備につきます」
実況の声に従って、グローブをはめる仕草をする相方。
「センターを守るのは、期待の新人です。ゲストの須藤さん。この選手には、どのようなプレーを期待しますか?」
これに対して、相方が答える。新人選手とゲストの、一人二役だ。
「実況の声に惑わされず、自分なりのプレーを見せて欲しいですね」
すかさず実況役が叫んだ。
「おっと、いきなり打球がセンターの真正面に飛んできたぞー! ここはダイビングキャッチだー!」
相方は躊躇する。真正面は客席なのだ。ダイビングキャッチなんて、できるはずがない!
どうするんだろうと見守る客たちの前で、相方は少し考えてから、真横へと飛んだ。苦悩のダイビング。
それに対して、実況役が意地悪く言う。
「なぜか違う方向に飛んでしまったぞー! この選手、ボールが見えていないのか! エラーです! これは手痛いミス! 一気に五点入ります! 監督も怒りを隠せません!」
相方は腹ばいの状態から立ち上がると、舞台端にいる実況役の方へと、無言で歩いていく。
怒っているのは明らかだった。この展開、おそらく予定にはないもの・・・・・・。
実況役は今からでも謝っておけばいいのに、
「ここで乱闘か! 暴力はいけません! 退場ーっ!」
さらなる燃料を投下する。こいつ、空気が読めていない。
この直後、予想外の事態が起こった。
「さぁ、運命のゴングが鳴りました!」
なんと、客席最前列にいた男性が、プロレス風の実況を始めたのだ。
「えー、私はお笑い芸人ではございません。本日はプライベートで、ここに来ています」
男性が語る。自分はフリーアナウンサーで、主にプロレスの実況をしているのだと。
「えー、因縁のある二人の戦士が、リング上で向かい合っています。今日の試合、荒れることは確実です。おっと、いきなり出すか、ジャイアントスイング!」
まさかの展開に慌てる、舞台上の実況役。
その両足を、相方がわしづかみにして・・・・・・。
このあとの舞台は、大いに盛り上がった。
次回は「昔の話」です。




