10-0だけど
「というわけで、これが宿題です」
教師の言葉に、生徒たちはざわついた。
この教師はこれまでにも、さまざまな宿題を出してきた。
けれども、今回のって・・・・・・難しすぎない?
生徒たちが騒ぐと、教師もあっさり認めた。
「なので、そこまでの完成度は求めていません。ですが、本気で取り組んできてください」
ここは映像編集の専門学校だ。今回の宿題は、ある野球の試合を短くまとめてくること。三時間以上の映像を、たった三分に編集してくるというものだ。
スポーツの試合を短くまとめてくるのは、過去の宿題でもやっている。どちらかと言うと、簡単な部類に入ると思う。
しかし、今回の宿題には、厄介な条件がついていた。
「いいですか。負けたチームの方が、いかにも勝っている。そんな風に編集してきてください」
ナレーションはなし。テロップもなし。
「試合中の得点も、表示する必要はありません。というか、表示できないと思いますが」
教師の言葉に、生徒たちも同意見だ。
問題の試合、その最終結果は「10-0」。
これをどうにかして、負けたチームの方が勝っている、そんな風に見せなければならないのだ。得点なんて表示できるはずがない。
どう考えても、この宿題、難しすぎるだろ。
そこでちょうど、授業終了のチャイムが鳴った。
後日、教師は映像室で、生徒たちの宿題を確認していた。
今回の宿題は、非常に難しかったと思う。
ただ、こういったものに挑戦することで、これまでとは違った種類の経験値を、生徒たちには蓄積してもらいたい。そのような狙いがあった。
大差のついた一方的な試合なのに、「負けたチームの方が、いかにも勝っている」、そんな風に見せるためには、どうすればいいのか?
基本的なアプローチとしては、負けた方のチームが少しでも活躍している、そういった場面を、ひたすらかき集めることになる。
とはいえ、最終結果は「10-0」だ。
しかも、負けたチームは、死球での出塁があるのみ。
一方で、相手チームの三振はゼロな上に、エラーもゼロ。
そういう試合をわざわざ探してきたのだ。この宿題、本当に難しかったと思う。あとは音楽や効果音で工夫するくらいだろうか。
で、やはりと言うべきか、どの生徒の宿題でも、同じ場面ばかりを抜き出している。まるで複製品。
しかし、これでいいのだ。この宿題は、こうなるのが当然。
大事なのは、宿題を完成させるまでの過程で、どれだけ悩んだのか。その経験から学んだことを、生徒たちには今後、彼ら自身の制作物に生かして欲しい。
だから、採点は甘めだ。宿題を提出した時点で、合格点をあげることに決めている。
さらに生徒たちの宿題を確認していると、
(ん?)
教師は変わったものを見つけた。
この生徒だけ、他の生徒たちとの「映像の重複」がほとんどないのだ。「負けたチームのベンチ映像」ばかりを使っている。
ただし、ある工夫をしていた。
最初は「九回裏のベンチ映像」から始まり、最後は「一回表のベンチ映像」で終わる。
そのため、「最初」はあんなに暗かった選手たちの表情が、「最後」には普通になっていた。
次回は「あるヒーローの変身ポーズ」のお話です。




