ベースの秘策
「これはダメです」
二塁ベースの近くで、審判は監督に言った。
「今すぐ元に戻してください。でないと、試合を始められません」
「えー、せっかく用意したのに」
監督は不満そうな顔をしているが、ここで譲るわけにはいかない。
「ダメなものは、ダメです」
審判と監督との間にある二塁ベース、普通のものとは大きく違っていた。
黒くて鋭いトゲトゲが何十本も、ベースの上に飛び出しているのだ。
このトゲトゲ、本物というわけではなかった。ベースに描かれた絵だ。
実際に踏んでみると、普通のベースだとわかる。トゲトゲが靴の底を突き破って、足に刺さったりはしない。
なお、まったく同じデザインのものが、三塁にも置いてある。
「いくら相手チームの盗塁を阻止したいからって、こんなトゲトゲつきのベースはダメです」
審判は繰り返し注意する。
この監督はおそらく、次のように考えたのだろう。
自分のチームはあまり盗塁をしない。
一方で、相手チームは盗塁を多用してくる。
だったら、こうしちゃえばいいんじゃね? このトゲトゲに、相手チームの選手は躊躇して、盗塁してこなくなるかも。
また、仮に盗塁しようとしても、トゲトゲを気にすれば、全力疾走とはいかない。スピードが落ちていれば、その盗塁は失敗しやすくなる。
どうせ、そんなところだろう。審判はため息をついた。こんな物をわざわざつくる熱意はすごいと思うが、絶対に認めるわけにはいかない。
「試合開始前ですが、退場させますよ」
この一言が効いたようだ。
監督は渋々ながら、球場スタッフたちに指示を出す。二塁と三塁を、普通の白いベースに交換させた。
これで一安心かと思ったら、審判は気づいた。いつの間にか、ホームベースが交換されている。さっきまでは普通の白いやつだったのに、今は・・・・・・。
当然ながら、監督に注意する。
「これもダメです!」
「トゲトゲじゃないですけど」
そのホームベースには、ものすごく深そうな穴があいている。
もちろん実際に穴があいているのではなく、これもベースに描かれた絵だった。
まだまだ続くよ。




