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うちわでパタパタ

 真夏の屋外球場で、本日の来場者全員に、「うちわ」が無料配布されていた。


 ドーム球場と異なり、屋外球場では基本的に、冷房はいていない。


 そのため、観衆の多くが、うちわをパタパタとあおいでいた。夏の風情ふぜいを感じられると、おおむね好評なようだ。


 春や秋の野球観戦とは、一味ひとあじ違う。こういう楽しみ方も悪くなかった。ビールやかき氷も、実にうまい。


 たまに自然の風がく。その間だけは、うちわをあおぐ手を休めた。


 うちわの動きが一斉に止まるので、球場内のどこが風の通り道になっているのか、見た目にもわかりやすい。


 そして試合の途中、うちわをパタパタやっているのは、一塁側の内野席だけ、そんな場面があった。


 ある打者が外野フライを打ち上げる。


 そのボールが風に乗った。


 一塁側の内野席から来る風。うちわによって起きた風だ。


 ボールはぐんぐんと飛距離をのばしていき、ついには外野スタンドまで到達する。まさかのホームランだ。


 さらに次の打者が、快音を響かせる。


 普通にホームランになりそうな打球だったが、あろうことか、レフト側の外野席が一斉に、うちわをパタパタし始めたのである。


 その一帯にいるのは、相手チームのファンだった。これ以上の点はあたえないぞと、うちわの風によって、ホームランを押し戻す。


 結果、外野フライでアウトにした。


 うちわの無料配布によって、普通の試合ならあり得ない出来事が、二つも続いたのだ。


 人為的な風によって、外野フライのはずが、ホームランに。ホームランのはずが、外野フライに。


 これで観衆も、風の力を理解した。うちわであおぐことも、味方チームの「応援」になる。


 そこから先、観衆の「応援」は、どんどんと過熱していく。


 味方の打球はホームランになるように。相手の打球は外野フライになるように。


 ここぞというタイミングで、うちわを高速で動かして、ねらった方向へと風を起こすのだ。


 当然ながら、どちらのチームを応援しているかで、都合つごうのいい風の向きというのは変わってくる。


 異なる向きの風同士がぶつかった場合、勢いのある方が勝つのだ。だから、相手側の風に負けないように、がんばってパタパタパタパタ。


 その結果、とんでもないことが起きてしまった。


 球場内に乱気流が発生したのである。


 さらには、大きな竜巻たつまきへと変化した。


「あーれー!」


 あっという間に、両チームの選手たちが、超高速で回転する風のうずに吸い込まれていく。


「たーすーけーてー!」


 竜巻の中から、彼らの声が聞こえてくる。


 しかし、観衆はうちわを動かし続けた。


 ここで手を止めたら、竜巻がどう動くか。その結果、どういう事態になるのか。そんなことは、説明されるまでもない。


「こっちに来るなー!」


 必死になって、うちわをパタパタした。


 追加の風を受けて、さらに竜巻がパワーアップする。


「たーすーけーてー!」


 むなしく響く選手たちの声。


 けれども、観衆のうちわパタパタは止まらなかった。


 やがて竜巻の中から、こま切れになったユニフォームが飛んでくる。あの内部は、かなりまずいことになっているらしい。


 ベテラン選手の悲痛なさけびも聞こえてきた。


「おーれーのーかーみー!」


 もともと毛髪のさびしい選手だっただけに、これは致命傷ちめいしょうかもしれない。


 観衆が騒然そうぜんとする。特に、髪の量を気にしている男性たちだ。


 あんなものを聞いてしまっては、いくら胸が痛もうが、うちわパタパタをやめるわけにはいかない。


 あの竜巻に、自分まで巻き込まれてたまるものか。


「1、2! 1、2! 1、2!」


 客席で自然とけ声が起こった。


 それぞれがばらばらにあおぐよりも、きっちりタイミングを合わせた方がいい。「1」でうちわをふり上げて、「2」でふり下ろすのだ。


 こうすることで、もっと効率的に強い風を起こすことができる。


 竜巻よ、こっちに来るな! あっち行けー!


「1、2! 1、2! 1、2!」



  夏の日に うちわで竜巻 野球場


次回は「野球週刊誌の特集」のお話です。

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