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ため息の理由
日本のプロ野球選手が海を渡り、メジャーリーグに挑戦した。
シーズンが開幕して一か月、日米の違いに戸惑うこともあるが、まずまずの結果を残せている。
しかし、この調子が長く続くとも思えない。
男は窓の外に視線を向けると、深いため息をついた。
そこに見えているのは、アメリカの街並みだ。日本の街並みとは違う。
男は英語をほとんど話せない。球団からは通訳をつけてもらっている。
それで周囲とコミュニケーションをとっているのだが、これでいいのか疑問を感じていた。チームの仲間たちと話す時、通訳を介す分、余計な距離があるような気がしてならない。
そこで今さらながら、英語の勉強を始めた。だが、上達するには結構な時間がかかりそうだ。
言葉の壁による、仲間たちからの疎外感。それを表に出さないよう、特に試合中には無理してテンションを上げている。しかし、最近では疲れてきた。
男は深いため息をついたあとで、近くの屋根に猫がいるのを見つけた。黒い野良猫だ。
こちらに気づき、食べ物をねだるように甘い声で鳴いてくる。
「にゃあ」
それを聞きながら、男はしみじみと思った。
日本の猫も同じように鳴く。
「あいつら、全世界共通語でいいなぁ」
「にゃあ」
次回は「真夏の屋外球場」のお話です。




