背番号変更
年俸交渉の場で、ある投手が発言した。
「背番号を変えたいんです」
その場に居合わせた球団役員たちは全員、彼の発言に対して疑問を感じた。
こういう要望は、主力選手ともなれば、さほど珍しいことではない。自分の好きな背番号にしたい。そんな気持ちは理解できる。
だが、この投手は現在、背番号「17」をつけているのだ。
過去に何人もの名投手が、同じ数字をつけている。うちの球団では、かなり良い番号だ。
なのに、背番号を変えたい? まさか、エースの背番号とされる「18」、あれを望んでいるのだろうか。
球団役員たちは考える。彼は良い投手だが、現エースと比べると、まだまだ発展途上だ。ゆくゆくは「18」を受け継いで欲しいが、今すぐとなると・・・・・・。
「いいえ、そうじゃありません。とにかく、背番号を変えて欲しいんです」
現在空いている番号なら、どれでも大歓迎だという。「17」以外であること、それが重要なんだとか。
球団役員たちは変に思った。どうして、「17」以外の背番号にしたいのだろう。
その理由について、彼はしばらく言葉を濁していた。
が、やがて大きくため息をつくと、テーブルの上に何かを置いた。プロ野球の選手名鑑だ。
「これを見てください」
そう言って開いたのは、彼自身が載っているページだった。
球団役員たちは選手名鑑をのぞき込む。そのページには、うちの球団の投手たちが背番号順に並んでいた。
「両隣の二人が、かっこよすぎるんですよ!」
背番号「17」の投手が、本音をぶちまけてくる。
球団役員たちも気づいた。背番号「16」と「18」の二人は、女性ファンから高い人気を誇っている。
「この並びだと、俺は引き立て役になっちゃうんですよ。だから、背番号を変えてください」
球団役員たちは検討すると伝えた。一回目の交渉は、それで終了となった。
背番号「17」の投手が帰ったあとで、球団役員たちは話し合う。
「彼も十分、かっこいいと思うけどな」
「えーと、チーム内での女性人気は、三番目みたいですね」
「ほら!」
「でも、両隣の二人と比べると」
「・・・・・・多少の差があるのは認める」
「あの投手は独身?」
「ですね」
「じゃあ、女性の目は意識しちゃうか」
「こういうのは、どうでしょう? 彼もかっこいいのは確かなんだし、来シーズンは『イケメン・トリオ』として、球団で積極的にバックアップするというのは?」
「それはいいかも」
「となると、ファンが覚えやすいように、背番号は連続していた方がいいですね」
「だったら、仕方がない。彼には背番号の変更なしで、何とか納得してもらおう」
球団役員たちは話し合いを打ち切る。今日は他にも年俸交渉があるのだ。この件ばかりを、長々と話し合ってもいられない。
というわけで、次の選手がやって来た。背番号「15」の投手だ。
彼が真っ先に口にしたのは、
「背番号を変えたいんです!」
さらに、このあと交渉した背番号「19」の投手からも、同じ要望が出た。
これで一日に三人の選手が、背番号の変更を求めてきたことになる。
その理由は、背番号「17」の投手と基本的に同じだ。
球団役員たちは再び話し合う。
「あの二人も、普通にかっこいいよな?」
「チーム内での女性人気は、四番目と五番目ですね」
「で、彼らも独身か」
話し合いの結果、来シーズンは彼ら五人を、『イケメン・ファイブ』としてバックアップすることに決まった。
背番号は現在のままだ。「15」「16」「17」「18」「19」の連番でいく。
「これなら、ファンも覚えやすいしね」
「仕方がない。要望してきた三人には、背番号の変更なしで、何とか納得してもらおう」
次回は「赤点」のお話です。




