カサンドラの日記①「産声」
記録として、書き残しておこうと思う。今日という日を、正しい形で。
軍の連中は、最後まで首を縦に振らなかった。それでも構わず、あたしはあの子たちを出した。まだ生まれてひと月にも満たない、十人の子供たちを。
指揮所で怒鳴り合っていた時、ソフィア先輩だけが味方してくれた。「人が死んでいくのよ、四の五の言ってる場合か!」って、先輩はいつも真っ先に感情で動く人だ。アリス先輩の隣にいると余計に目立つけれど、今日ばかりは、その熱さに救われた。
怖くなかったと言えば嘘になる。設計図の上では何百回も計算した強度も、実戦での挙動までは保証してくれない。それでも、待っている時間の方がずっと恐ろしかった。
結果は、この目で見た通りだ。爪が、牙が、あの子たちの魔法が、荒野を埋め尽くしていた影の群れを切り裂いていった。逃げ惑っていた人々が、一人また一人と、生きて列に戻ってくる。
古い神話には、竜を退治する英雄の話ばかりが残っている。でも、今日この目で見たのは逆だ。竜が、人を救う側に立っていた。書き換えられた神話が、たった今、この荒野で始まったのかもしれない。
神話の中の英雄たちは、いつも生まれながらにして完成された姿で語られる。でも、今日見たあの子たちは違った。震える手を、あたしには見えないところで握りしめていたはずだ。それでも、足を止めなかった。
設計者としてのあたしは、あの子たちを兵器として世に出した。それは否定しようのない事実だ。強度計算も、出力効率も、すべて数字で管理してきた。それでも今夜だけは、その数字の裏側にいる、まだ幼い十人の存在を、忘れたくないと思う。
技術者としてのあたしは、これを「良好な稼働結果」と書くべきなのだろう。
でも、今夜だけは、母として書かせてほしい。
――よくやったわね、あなたたち。本当に、よくやった。
この記録は、いつか誰かに読まれることを想定して書いているわけじゃない。ただ、忘れたくないだけだ。今日という日、あの子たちが初めて、自分の足で誰かを守ったという事実を。




