カサンドラの日記③「余白」
今夜は、眠れる気がしない。だから、代わりにこれを書いている。
傷だらけのあの子たちの寝顔を、さっきまでずっと見ていた。ヘルの頬には、まだ新しい傷跡が残っている。パチャママは、寝ていても誰かを庇うみたいな姿勢で丸まっている。
兵器として設計するなら、いらない機能がある。生殖機能。子を成す力。戦うためだけの体に、それは余分な負荷でしかない。
それでも、あたしは残した。
アリス先輩に話した。今日、初めて誰かに話した。「いつか戦いが終わって、この子たちが人間として愛を知る日のために」って。声に出してみたら、自分でも笑ってしまいそうになった。こんな絶望的な状況の中で、何を夢見てるんだろう、あたしは。
アリス先輩は、しばらく黙っていた。何も言わなかった。責められるよりも、その沈黙の方が、正直こたえた。
ソフィア先輩だったら、きっと違ったんだろうな。あの人なら、泣くか、怒るか、とにかく何か言葉をぶつけてきたはずだ。アリス先輩の静けさに慣れてはいるけれど、今夜だけは、誰かに感情で反応してほしかったのかもしれない。
合理的に考えれば、いらない機能だ。でも、合理だけで子供を作るなら、それはもう子供じゃなくて、ただの道具だ。あたしはあの子たちを、道具として生み出したつもりはない。
……本当に、そうだろうか。今日ふと、分からなくなった。
もう何日、まともに眠れていないのか、思い出せない。戦って、失って、また戦って。その繰り返しの中で、自分が母親なのか、設計者なのか、もう自分でも分からなくなってきている。
ボレアスの空いた席が、まだそこにある。誰も片付けようとしない。片付けたら、本当にいなくなってしまう気がして、あたしも触れられずにいる。
それでも、あの余白だけは、消さない。あの子たちの未来に、戦うこと以外の何かがあってほしい。それだけは、まだ諦めたくない。
――こんな夜更けに、こんなことばかり書いている自分に、少し嫌気がさす。明日はまた、指揮官の顔をしなくちゃいけないのに……。




