表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神の悪戯  作者: 羽毛 330
第一章 ペン回しをし続けた男
9/12

9話 かにが自殺に至るまでの経緯 下

 


 そのようなかにの態度に、妻は激怒し、彼に離婚を言い渡し、館を出て行ってしまった。


 他の親戚も同じく激怒し、彼に絶縁を言い渡した。


 さらには使用人までもが彼の元では働きたくないと言って全員が自主退職してしまった。


 こうしてかにには身内がいなくなり、広大な館に1人残された。


 彼は人生のどん底に落ちた気分だった。


 しかし、彼はまだまだ底に落とされることとなった。


 彼の商売相手や、商売仲間、昔からの親友までもが彼の良からぬ噂(息子が不審死し、その証拠を隠蔽しているなど。)を聞いて次々と彼に絶縁を告げた。


 これによって彼の営んでいた事業は赤字続きになり、遂には倒産して、破産してしまった。


 彼は資産を全て失い、かつて広大だった館のほとんどを没収された。(残されたのはかれの自室とその周囲の僅かだけであった。)


 彼は本当に落ちぶれてしまった。


「つい数ヶ月前には莫大な資産を元に、息子や妻、親友といった愛する人々と豪遊の限りを尽くしていたのに、今では1人きりで、明日の食費のために職を探している始末だ。愛も名誉も資産も全て失ってしまった。何と悲しい事だろうか。」


 そこからの30年は過酷な生活であった。


 彼は毎日日雇いの肉体労働などの仕事を転々として、何とか食い繋いでいた。


 だが、以前のような贅沢は一切出来なかった。


 ずっと慎ましい生活をするしかなかった。


 それ以上に彼を苦しめたのは、孤独であった。


 愚痴を言い合う仲間でもいればよかったものの、彼の悪評は誰もが知っていたので、誰も友達にはなってくれなかったのだ。


 仲間がいない、信用出来る人がいないというのはあまりにも辛いことであった。


 それが30年続いたのだから尚更のことだろう。








 …とここまでで彼は回想をやめにした。


 彼は自室で再び大きなため息をついた。


 かにはもう高齢になっていた。


 体の力は弱り、記憶力も衰えた。


 さらに、彼は認知症の症状も出始めており、自己をコントロールすることが少しずつ出来なくなっていた。


 彼はゆっくりと口を開いた。


「…私はが行った行動の全てはさく、そして国民のためだ。使命が外部に漏れることを防ぐために、ルンルを殺し、自らも重い代償を顧みず口を固く閉ざし続けた。しかし、私は年をとり過ぎた。今や自己制御もままならない。このままではいつの日か、使命の情報を自ら漏らしてしまうかもしれない。そうすれば、今までの私、さくの努力が水の泡になる。それを防ぐためには…」


 彼は一度口を閉じ、引き出しから錠剤を取り出し、手に置いて眺め始めた。


 それはかにがルンルを殺したとき使ったものと同じ劇薬であった。


「私は30年前からこの事を考え続けていた。ずっと決心がつかなかったから実行してこなかったが自己制御がつかなくなった今、やっと決心がついた。私は最後の口封じをしよう。その相手は、自分だ。」


 そう言い終わるやいなや、彼は勢いよく手に持っていた錠剤を口へと運び、飲み込んだ。


 しばらくすると胸に激痛が走り、視界が薄まっていった。


 朦朧となる意識の中、彼は最後に見たさくの顔を思い出した。


 自らの人生かけて守り抜いた使命を、さくが果たす事を祈った。


 そして最後に、さくが使命を与えられずに、自身がいつまでも家族と幸せに暮らせた人生を想像した。


「……」


 そのまま何も言わず、彼は息を引き取った。


 自らで自身の命を断ったのであった。


 こうして、使命のため人生を狂わされた男の人生も幕を閉じた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ