転校生の場合 4
ご興味をお持ちいただき、ありがとうございます。
翌朝、彼方が浴場から出ると、渡部が待っていた。
「あ、あの、……しょ、食堂の場所とか、使い方とか、あ、あんまり、……、わからないかなって……。一緒に、い、行った方がいいかなって」
頬を赤く染めて、渡部はチラチラと彼方を見た。
「ああ。頼む」
食堂は7時に開く。今はまだ6時半だ。食堂の場所やオーダーの仕方は昨日小野田に一通り教わったが、渡部の好意を無下にする事はしなかった。
「随分早いんだな」
農家に生まれた彼方は毎日5時には起きる。冬が過ぎたとは言え、早春の今では、まだ外は薄暗く、寒い。超能力という受け入れ難い事を知ってまだ四日なのだ。彼方は自分の心を落ち着かせる為に、外で数十分走った。汗ばんだ体を冷たいシャワーを浴びて冷やした。自室に戻ろうとした道筋で渡部と会った。
「起こしたか?」
「ち、違うよっ……。も、元々、早く行った方が……人がいなくて……」
「今から行くのか?」
「あ、いや、今はまだ、開いてなくて……後、ちょっと……」
「ありがとな」
わざわざ、彼方を待ってくれていたらしい。渡部の厚意に彼方は笑みを浮かべた。渡部は目を丸くして、彼方を見つめた。
「じゃ、何分後に食堂に行く?」
「あ、じゅ、十分、は、どうかな?」
伺うように渡部は彼方をチラチラ見た。
「きょ、今日と明日の、しょ、食事は、お、小野田さんが、選んだんだけど……二日前に、こ、この紙に、ちぇっ、チェックしないと、いけなくて」
大きなキャンパスボードに二週間の3食メニューの紙が貼られていた。メニューの紙の下には、大量の名前が書かれた紙があり、その横に、「無」「小盛り」「中盛り」「大盛り」の四つの選択肢があった。
彼方の名前は、一枚目の六行目にあった。彼方の今日と明日のチェック欄に、大盛りの所に大きな丸が書かれていた。
「大盛りになってる、そんなに食べると思われたのかな」
「あ、あお、碧さんが、お腹空くよりは、いっぱいになって、の、残した方がいいって、お、思ったんだじゃないかな。……う、うん、きっと、そうだよ」
「あれ、この番号って?」
彼方は転校生にも関わらず、1枚目に名前がある事に違和感を覚えながらも、名前の前に「01」と番号が書かれていた。
「そ、それは、りょ、寮の番号だよ!わ、私達は01に住んでて、ぜ、全部で32まであって、番号をつけて、はん、判断してるんだよ。01に、す、住んでいるから、あ、あお、碧さんの、な、名前も一番最初に、あ、あるの」
「へぇ、なるほどな」
「こ、こっちの食堂では01から16までの生徒が、く、来るんだけど、16からは、違う、食堂で、た、食べてるんだよ」
「じゃ、食べるか」
「うん」
大盛りというだけあって、彼方の皿に入っているすべての物が、渡部の4倍はあった。
「そんなに違うんだな」
「わ、私はしょ、小盛りだから……。そ、それに、の、能力によって、しょ、食事の量って、か、かわ、変わるし」
量が多いと言っていた彼方だったが、きれいに平らげた。農家で生まれた彼方は食べ物の大切さが身に染みているし、朝から走っていて腹が空いていた。まず、幼い頃から走り回り、毎日家の手伝いとしていれば、筋肉が付くというものだ。
「チ、チーズケーキい、以外にも、ソ、ソフトクリームが、ゆ、有名なんだ」
「うん。テレビでも、紹介されていたらしいよ」
たわいも無い話をしながら、学舎に向かっていると、突然、渡辺の足元が覚束なくなり、顔色が悪くなった。
「大丈夫か?」
「う、うん……。さ、さき、に、……い、てって……」
目の焦点が合わなくなった渡部を置いていけるはずもない。彼方が倒れそうな渡部を支えようと背中に添えた。暫くして、渡部は焦点を彼方に合わせた。
「もう、だ、大丈夫だよ。は、離して」
思ったよりも強い力で、渡部は彼方の手を払った。彼方は特に気にする事なく、教室に行こうと言った。
「まだ早いから、さ、先に、行ってて。わ、わたしは、する事はあるから」
「そう?」
そこで彼方は渡部と別れた。
お読みいただきありがとうございます。




