4話 文字化け
一ヶ月ほど経った頃の夜、依頼を終えた後でいつもの食堂に五人で入った。
飯を食べながらシルヴァンが言った。
「そろそろ教会で鑑定を受けてみないか?」
「お金がかかるんじゃないですか?」
「気にするな。お前のスキルを把握しておきたいからパーティーで出す。それがわかれば依頼の組み方も変わるしな」
断る理由がなかった。
「……お願いします」
「じゃあ明日、依頼の後に寄っていこう」
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翌日の夕方、依頼を終えてから教会に寄った。受付でシルヴァンが金を払いながら係員に言った。「こいつは初めての鑑定だ。よろしく頼む」
係員はケイトを見て少し丁寧な口調に切り替えた。
「初めてでいらっしゃるんですね。ご説明します」
「こちらの石板に手を触れていただくと生命力を読み取ってレベルとスキルの名称が表示されます。表示された内容は紙に記録してお渡しします」
「スキルの詳しい内容や効果は表示されないんですか?」
「石板で確認できるのはあくまで名称だけです。より詳しい内容を知りたい場合は高レベルの鑑定スキルを持った方に直接見ていただく必要があります。ただ、そういった鑑定士はこちらでは対応しておりませんので……」
「スキルの名称だけで、どういった能力かわかるものなんですか?」
「一般的なスキルであれば名称からある程度判断できます。ただ珍しいものや複雑な効果を持つものは、やはり鑑定士に見ていただかないと正確なところはわかりませんね。他に質問は?」
「大丈夫です」
ケイトは鑑定の部屋に通された。壁際に魔道具らしき石板が置いてある。係員に促されて手を触れた。
数秒で結果が出た。
係員が石板を見て固まっている。
「……これは」
「何か問題が?」
「いえ、あの」係員は困った顔で言った。「レベルの方は出ています。Lv10です。ただ、スキルの欄が……」
石板を向けてくれた。
???
三つの記号が並んでいた。それだけだった。
「スキルなし、ではなく?」
「正確にはスキルが存在する反応はあるようなのですが。文字として表示されていない、とでも言えばいいか……」係員は申し訳なさそうに続けた。「このような結果は私は初めてです」
廊下で待っていたシルヴァンに石板の内容を書き写した紙を見せるとアエラが「何これ」と眉を寄せた。
「俺も初めて見た」とシルヴァンが言った。穏やかな顔は変わらなかった。
「文字化けじゃないか?」
ファリンが言った。笑っていた。ただその目は笑っていなかった。
ケイトはそれに気づかなかった。頭の中が「???」でいっぱいだった。
「スキルは存在するみたいですが、表示されない理由がわからないみたいで……」
シルヴァンは紙をもう一度見てから言った。
「高位の鑑定士に見てもらえばわかるかもしれない。ただ、腕のいい鑑定士は費用が高いから無理だな」
「そうですか」
シルヴァンは短く息を吐いてから言った。「珍しいスキルであることは確かだ」
「そうよ」とアエラが言った。「変なスキルって案外強いこともあるわ。昔、うちのパーティーに変な鑑定結果が出た奴がいてね。後から見たら上位スキルだったって話もあるわ」
「本当ですか?」
「全部が本当かは知らないけど、そういう話はあるのよ」
慰めだとはわかった。でも否定する気にもなれなかった。
「一ヶ月でゴブリンと戦えるようになった。スキルがどうあれ、それは事実だ」
シルヴァンが静かな声で言った。
ドレアンがケイトを一瞥してからまた前を向いた。何も言わなかった。それでもなぜか、その視線だけで少し楽になった。
「気にしすぎだろ」とファリンが言った。「昨日も一昨日もちゃんと動いてたじゃないか?」
(いい人達だな)
Lv10。スキル:???。
まだ、チート特典がないと決まったわけではない。
そう思いながら教会の扉を押して外に出た。夕風が生温かかった。空が橙色に染まっていた。
翠銀の弦の四人が後ろからついてくる。
「飯でも食っていくか」
シルヴァンが言った。誰も異論を挟まなかった。
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いつもの食堂に入るとファリンが奥の席を取った。五人で向かい合って座る。
「初鑑定の祝いだ!」
シルヴァンが言って、いつもより一段いい酒を頼んだ。
「ありがとうございます。まだどういった能力かはわからないのでお役に立てるかわかりませんが……」
「そういえば」
シルヴァンが言った。「明日、掲示板に面白い依頼が出るかもしれない」
「護衛か?」とファリンが聞いた。
「ああ。遠出になるが報酬は悪くない」
「どのくらい遠出?」アエラが少し眉を上げた。
「半日ほどの道のりだ。詳しくは明日確認する」
ドレアンは黙って酒を飲んだ。賛否どちらでもない顔だった。
「ケイトも来てもらう予定だ。人数が多い方がいい依頼でな」
「わかりました」
(いいパーティーだな)
そう思った。素直に。




