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傷喰いの異世界奴隷 〜痛みは俺の糧になる〜  作者: Astera
第4章

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22話 廃村

 ケイトは山頂を出た。


 洞窟を抜けて、ずいぶん下ったところでケイトは足を止めた。


<……何かおるな>


 ハクの声だった。


「何かって、なんだ?」


 ケイトは斜面の途中で足を止めたまま剣を引き寄せた。


<分からん。じゃが人の匂いが混じっておる>


「集落か?」


<恐らくはそうじゃろう>


「お前、知らなかったのか?」


<何百年も山頂に引きこもっていたからの。麓のことなど知るはずがなかろう>


 ハクの声には少しふくれたような響きがあった。


「方角は?」


<斜面を下って東寄り。森の中ほどじゃ。寄ってみるか?>


「あてもないし寄ってみよう」


 ケイトは集落に向け進みだした。


---


 森に入って二日。


 木々の間に石組みの家が見え始めた。


 屋根の落ちた家が間を空けて並んでいた。三十戸ほど。通りに沿って雑草が膝まで伸び、その下に踏み固められた道の痕がうっすら残っていた。


<これは……>


「元集落みたいだな」


「焼かれた後もある。何かに襲われたか?」


<我には分からん。じゃが、ただ朽ちただけではないのう>


 ケイトは答えなかった。


 通りを奥へ進んだ。突き当たりに広場。広場の奥に小さな丘。丘の上に石が並んでいた。


「墓だ」


<生き残った者もいるみたいじゃの>


「そんなことがわかるのか?」


<……ほれ。石が積み直された跡が、いくつもあるじゃろう>


 ケイトはしばらく立っていた。


 石は綺麗に積まれている。中にはまだ形を保った果実が置かれているものもあった。


---


 丘を下り村の中ほどに比較的状態が良い家を見つけた。家の脇にはまだ乾ききっていない薪が置かれていた。


「……すまない、誰かいるか?」


<今は無人みたいじゃな>


「少し休みたい。山頂から、ずっと歩いて疲れた」


<……そなた、ここに留まる気か?>


「暫くはここに留まってみようと思う」


 ケイトはマジックバッグから毛布を出して家の隅に広げた。竈の跡を確認し自分のバッグから薪を一本だけ取り出して燃やした。


<気を遣うのう>


「他人の蓄えだ。戻ってくるかもわからないが使うわけにはいかないだろ?」


<そなた律儀じゃのう>


---


 何日か目の夜。


 寝ていたところをハクに起こされた。


<起きよ>


「どうした?」


<気配じゃ。森のほうに何かおる>


 ケイトは身を起こして剣に手を伸ばした。


「魔獣か?こちらへの敵意は?」


<魔獣の気配ではない。恐らく人が気配を消しておるな。怯えているようじゃ>


 ケイトは黙って待った。


 夜明け前、気配は遠ざかった。


「行ったか……」


<こちらを観察しておったのう>


「俺を?」


<そうじゃ。獲物を見るのとは違う。手負いの獣が巣穴から外の獣を窺うような感じじゃった>


 ケイトは少し考えた。


「少し相手の様子を見よう」


<そうじゃな>


 ハクはそれ以上言わなかった。


---


 四日目の午後。


 ケイトは村の北の端で薪を割っていたところ森の奥から音がした。


 枝が折れ草を蹴る音と低い唸り声。


<来たぞ>


「あの気配か?」


<うむ。獣に追われておる>


 ケイトは斧を捨て剣を取って走った。


 木の間を抜けて音の方向へ。


 相手との距離まであと少しというところで魔物に追われていた小柄な影が地面に転がった。


 ケイトはすかさず間に入り、一頭目の頭を割り返す手で二頭目の首を撥ねた。


---


 ケイトはゆっくり振り返ると地面に転がったままの影がこちらを見上げていた。


 若い少女。


 頭の上に三角の耳。毛の生えた獣の耳が警戒で立っていた。


<……狐獣人じゃのう>


 ハクの声が頭の中で小さく落ち、ケイトは息を呑んだ。


 その耳を知っていた。


(ネアと同じ)


 少女は地面の上で身を引いた。手のひらが地面を這い距離を取ろうとしていた。


 足首を痛めたのか立てない様子。目には怯えと警戒、それから諦めに似た光。


 奴隷小屋で何度も見た感覚が蘇り、ケイトは剣を鞘に戻して両手を体の横に下ろした。


 少女は息を荒くしたまま、ケイトを睨んでいた。


<何か言うてやらぬのか?>


「……」


 長い沈黙が落ちた。


 少女もまた何も言わなかった。


 風が吹いて、少女の髪が揺れた。


 その時、ケイトの目が止まった。少女の髪をまとめている紐。細い色糸の編み込み。赤と茶の糸が交互に組まれ、端に小さな結び目がある。


 左手首に巻いた紐と、同じだった。


 ケイトは息を止めた。

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