20話 届かない
ケイトは洞窟を抜けた。
目の前に山頂の平地が広がっていた。雪と岩。風はほとんどなく空気が薄い。
岩盤の上で、それは丸くなっていた。
大きな塊。銀白の鱗が日光を弾いて青白く光る。翼が体に巻きつき、氷の冠のような角が頭から突き出ている。
ケイトが一歩踏み出すと目が開いた。
蒼い瞳。爬虫類的な瞳孔。
ドラゴンが首を持ち上げた。翼を広げる。その動きだけで山頂全体が震えた気がした。
(次元が違う)
先手必勝。ケイトは掌を前に出して最上位、絶対零度を放った。
空気が凍る音。鱗の表面が一瞬白く覆われたが、すぐに内側から熱が押し返した。表面の氷が剥がれて雪に落ちた。
(あの白いワームと同じだ。氷は通じない)
岩弾。風刃。続けて放ったがどれも鱗に弾かれた。
ケイトは光線を放った。白い光が直線で飛ぶ。
光がドラゴンの首元に当たった瞬間、鱗が焦げた。一枚分だけ。
ドラゴンが吼え、開いた口から白い濁流が吐き出される。凍結息吹。直線型。岩を伝って一瞬で押し寄せてくる。
軌道はケイトを向いていた。
(まずい)
ケイトは横に飛んだ。岩陰に滑り込む。背中で岩が凍りつく音がした。
物理は弾かれる。同じ氷も通じない。岩、風、光——どれも通らない。残るのは火だけだ。
ケイトは闇幕を放った。自分の周囲の空気が黒く揺れる。
ドラゴンの蒼い瞳がケイトを見失った。
身を低くして横に動く。
ドラゴンの首がこちらを向いた。
(さすがに気配までは誤魔化せないか!)
ケイトは土陣を放った。掌を地面に押し付ける。ドラゴンの足元の岩が崩れ巨体が一瞬体勢を崩して前のめりになる。
その隙にケイトは懐に飛び込んだ。
灼熱息吹。
口から熱を吐いた。火炎が翼の付け根の鱗を覆う。じゅう、と音がして鱗の表面が溶けた。
剣を抜いた。溶けた鱗の隙間に刃を差し込む。鱗の下にもう一層硬い皮があった。刃は半ばで止まる。それでも血が剣を伝った。
ドラゴンの咆哮。
翼が振られる。ケイトは突き飛ばされて雪原に転がった。
立ち上がる。ドラゴンが反撃に来る。
凍結息吹。
(回避が間に合わない)
ケイトは盾を構えた。盾の表面が一瞬で白く覆われ冷気が盾を突き抜ける。
左腕に冷気が走った。骨の中まで凍る感覚。
ケイトは闇幕で姿を消した。岩陰に転がり込む。
左腕は青白く凍ったまま動かない。痛みはない。だが一切の感覚が返ってこない。
ケイトは歯を食いしばり、息を整えた。
冷気が肺に刺さる。
ドラゴンが気配を探っている。
ケイトは岩陰を移動した。
ここで動かなければ当分は見つからない。考える時間はある。
最初、ケイトの攻撃は無視されていた。何度攻撃しても見ているだけだった。光線が首元に当たった瞬間、ドラゴンは初めて吼えた。
(首の付け根に何かある)
鱗の上から何百回斬っても倒れない。一発で、あそこに届かせるしかない。
息は整った。
ケイトは剣を右手で握り直す。
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ケイトは闇幕を放ち、ゆっくりと接近する。
(あれはなんだ?)
ケイトは目を細めた。
首の付け根。鱗の方向が逆になっている部分。一枚分だけ他の鱗とは反対の向きで生えている。そこに最初の光線で焦げたような跡がある。
(逆鱗……前世のファンタジーで聞いたあれか)
前世の本やゲームで読み流した話が、こんな形で命を繋ぐ。
その時、ドラゴンが何かの気配を感じ取った。
蒼い瞳がこちらを向く。
逃げるか賭けるか。
ケイトは地面を蹴った。
ドラゴンの瞳がケイトを捉えた。だがもう間合いに入っていた。
灼熱息吹。火炎が逆鱗の周辺を覆う。鱗の表面が、じゅう、と音を立てて溶ける。
剣を逆鱗の中心に突き刺した。
「ギィィィヤアアアーーー!」
逆鱗を刺されたドラゴンが暴れた。近くにいたケイトは突き飛ばされる。
立ち上がる。ケイトはもう一度逆鱗を狙った。
土陣で足場を崩す。灼熱息吹を逆鱗に集中して吐く。鱗の表面が、ぼうっと光るほど熱を帯びる。
剣を抜いた。連撃。一撃、二撃、三撃。
剣がドラゴンの首の内側に届く。血が噴き出した。
ドラゴンの咆哮が徐々に弱々しい声になった。
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ドラゴンが翼を広げた。
地面を蹴って空に上がる。
風がケイトを叩いた。雪が舞う。ドラゴンの巨体が山頂全体の上空に浮かんでいる。
空気が変わった。空気そのものが冷えていく。
ドラゴンが口を開けた。深い暗がりが見える。中で何かが溜まっていく。
広域。
逃げ場がない。山頂全体が射程に入っている。
ケイトは盾を構えた。




